24.やっとわかった
それから一週間、私の身体にはだんだんと、確実に傷が多くなっていった。
「なんか、これは、おかしい。うん、おかしいよ」
誰もいない住宅街を通りながら私は頭を抱えながらぶつぶつと独り言を続ける。
「この学校帰りの時間、この時間を過ぎると私はいつも、そういつもなぜかほぼ百パーセントの勢いで、下着のみの姿になっており、その隣にはキイというあの吸血鬼の従者である悪魔が立っている。で、なんか日に日にあの子私を物凄く哀れみ深い目で見るようになっているんだよなー。昨日に至っては『大丈夫?』なんて言ってくる始末……。どういうことなのだろうか。
まあ、たぶん私はお兄ちゃんの行いに巻き込まれているということは解るのだが、なぜ私が襲われているのか理由が分からない。うーん……」
「そんな、哀れな凛和ちゃんに教えてあげよう!」
「え? 本当? ありが……!?」
私はいきなり割り込んできた女性の声に理由を聞けるとして嬉しそうに答えてしまった。そう、答えて。
「本当本当! にしてもお久しぶりだねー。嵩梛凛和ちゃん……? くくっ」
私は即座に距離を取る。
やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。
息ができない。腎臓の音が大きくなる。ドクン、ドクンと私の恐怖を倍増させる。
「なんで、なんで……」
なんでいるんだ、この人。
「そんな怖そうなものを見る目で私を見ないでよぉ……。くくっ」
鼻が透き通っており、とても見惚れてしまうほどの綺麗な顔。
「まあ、でもしょうがないかー。くくっ」
すらっとした体、赤色の膝までの丈のドレスに身を包み、強調された胸。
「なんたって、ねえ? くくっ」
そして、印象的でとても彼女に似合っているピンク色の腰まである長い髪。
「私に無残にも親をに肉の塊になるまで、切り刻んで切り刻んで、切り刻んで、切り刻まれているところを見せつけられていたのだから。くくっ」
そんな綺麗な身体を楽しそうに揺らしながら、歪めながら、コツコツと黒いハイヒールから音を鳴らして私に向かってくる。
「お兄ちゃん、助けて……お兄ちゃ……」
頭の中で昔の記憶が混濁し始める。いきなり出てきたあの女の人を見て、身体が恐怖で埋め尽くされているんだ。なるほど、吸血鬼が私の中に深くあの事のことが根付いていると言ったのにも頷ける。
とても、怖い。
そして、彼女が私の話に反応した。どうやら何か勘に障るものがあったらしい。
「お兄ちゃん? なに、あなた家族ができたんだ。新しい、義理の家族。この状況下で呼ぶんだったら結構な強者らしいねー。くくっ。
というか、それが誰か私知っているんだけどねー」
私の息が止まる。目が、見開かれる。
「弥生――閏。くくっ、あっているでしょう? 自称ヒーロー。でも本当に厄介なほど強い、面倒くさいほど熱い存在。いい家庭に拾われたね。くくっ」
彼女はとても楽しそう。あの日の夜と同じように。
「でも」
そして、一瞬つまらなそうな顔をする。その次にエロく、綺麗な顔を私に向けて急接近させてきた。驚いて身を退かせる。
「それは私の眼中には入らない。私の目的は一つ」
私は勢い良く後ろに下がる。そして、下がり終わった後に背中に何か当たる感覚があった。
体から血の気が引く。やばい、前だけに気がいっていて後ろに気づかなかった。
「それはあなた。私はあなたがほしい。ほら、目の色が変わった。茶色から赤に変わった。それが印。私にはなかったもの。私はあなたがほしい。くくっ」
目の色が変わった? なにそれ? というかなんで私がほしいとか言っているのこの人。怖いぞ。
恐怖感で身の回りが支配される。空は私の背中と同じように赤く染まっている。夕方だ。
「でもまあ、今日はいいや。今日はあなたと話したかっただけだから。私が貴方の中にいることを確認したかっただけだから。いいや」
私はなぜか肩を撫で下ろしてしまった。目の前にいる女性は、あの悪魔は、愁いの瞳で私を見る。とてもいとおしそうに、まるで抱きしめるかのように、私を見る。
私は恐怖で下に崩れることも、武器で相手を叩き切ることもできない。後ろに誰かの気配がしているとしても、後ろを振り向くこともできない。
あ、隣にある塀を後ろにすればいいのではないか。やべ、これまで忘れていた。
思い立ったら即実行。私は背中を塀に預けた。
「あ」
彼女もこれは予想外だっただろう。大丈夫、私も予想外だった。横に行った瞬間たたっ斬られると思っていた。が、塀に預けることができた。そして、見ることができた。私を斬った者の正体。
「あららー。見られちゃった」
「二人……?」
驚いた顔を余裕の表情に変えながら、彼女はニヤニヤと私を見てくる。とても楽しそうだ。背中から血を流して、やっとの勢いで息をしている女の子を見て楽しそうにしているぞこの女。くそ、ムカつく。しかし怖くて何もできない。自分が腹立たしい。
あれ、こんな感情が出てきたということは、私には謎の余裕が生まれてきたということか。
誰かが、確実に来てくれるだろうと思い始めてきたということか?
どういうことなのだろうか?
「くくっ、凄いでしょう? まあ、そういうことだからまたお話ししようね、嵩梛……あ、これは違うんだっけ? 弥生か。今は。ややこしいな。じゃあ、ばいばい、弥生凛和ちゃん」
そうして彼女は私の身体をもう一回斬ってからこの場を去って行った。
今度は右肩の近くから、左側の腰の部分まで。ザックリとやられた。これは痛い。
そういえば、後ろはどこをやられたのだろうか。痛いということと、背中をやられたというのは解るが、それ以外は解らない。
まあ、本当にそれ以外に分かっている事と言ったら、私の息はさっきよりも小さくなっていったということだ。
小さく丸まった背中。そこからは左から右にかけて大きな傷ができてる。
その小さな体から前に視線をずられば大きな血だまりがある。たぶん、今回はそこで斬られたのだろう。
「あーおいしそうな血がもったいない」
そう言いながらキリト様は彼女のこの傷に関しての記憶を消している。なぜ記憶を消すのか、それは彼女の精神の負担を取り除くためだ。彼女は一度見たら絶対に忘れないという能力を持っている。すると、だ。彼女はどんなことでも覚えていることになる。
今回は私たちが一足遅かったせいで、彼女をやった奴の排除は成功しなかったが、これだけでも遂行しなくては私たちが来た意味がない。
今回はいつもよりは傷の残虐さが低い。なんというか必要以上はやらないという感じだ。いつもならば肉の塊になるまで切り刻んでやるぜ! みたいな感じなのに。
「はい、おーわった。じゃあ、俺帰るからお前はいつも通り――」
と、そのとき、予想外のことが起きた。
いつも通り、無責任に私にキリト様が、彼女のことを押し付けようとしたのに。ある声によってそれが遮られた。
「おい、まて、吸血鬼」
「は……」
その声は、とても落ち着いていて、綺麗で、思わず目を閉じて聞いていたいほどの魅力的な声だった。いつもとは、同じなのに違う声。
私たちはその声がするところを見る。
「やっとわかった。なんで日に日に傷が増えていくのか、そして、なんでその傷に関する記憶がないのか。貴方たちのおかげだったんだ」
その弱く小さな体はゆらゆらと起き上がる。それなのに、とても力強くそして大きく見えるその体。
「あらま、起きてたんだ」
「ええ、ギリギリだったけれどね……」
キリト様は予想外というばかりに目を見開いている。私は、彼女を見守るだけで精いっぱいだ。
「あの、ありがとう。私を助けてくれて。記憶を消されたばかりで言うのも何なんだけどさ、あの……全部、思い出した」
「は、なぜ」
「こっちが聞きたいよ。けれど、思い出した。……ありがとう」
私と彼は動揺する。彼女の言動すべてに。彼女の体の変化に。彼女は多分もうすぐ死ぬだろう。そして不完全に生き返る。それまでして伝えたかったのが、ありがとうとか。魔族の私たちにとってどれだけ理解しがたいものか。
「ふん、俺たちはちょっとやりすぎちゃったからその償いみたいなものでやっているだけだ。そんなの気にしなくていい」
これには私も首を縦に振る。これは私たちがやりたくてやっているだけ。気にしなくていい。
「気にするよ、私は……」
「ふん、そういうものなのか」
「そうだよ。それと、毎日私を助けてくれていたあなたたちに確認しときたいものがあるんだけれど」
やっとのことで私たちに向き合った彼女は赤く染まった瞳で私たちを見つめる。この瞳は、見覚えがある。この子はどれだけのものを背負って生きているのだろうか。
緊迫した雰囲気の中、彼女は言う。一言一言丁寧に。自分にも言い聞かせるように。
「私は、不死身なの?」
それには、キリト様が答えた。
とても張り詰めた雰囲気を嘲け笑うように、当り前のように答えた。
「ああ、そうだよ。お前は不死身だ。普通の人間ではない」
「そう、ありがとう」
それを聞いて彼女はすっきりしたというように笑った。もう、わかりきっていたことなのだろう。辛いことに、分かってしまっていたのだろう。
そのあと、疑問が晴れた彼女は息を引き取った。




