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23.習慣化されていく非日常

 次の日、また私はいつも通りに学校に登校して、いつも通りに学校生活をこなし、いつも通りに下校していた。

 昨日と変わっていることろがあったとするならば、なぜか紀異さんが昨日よりも優しかったところだろう。なぜなのだろうか。別に昨日はテスト範囲を、テスト当日になってから教えてあげただけだ。別にそれだけで優しかったりするような人だとは思えないのだが……。まあ、いいや。


 そして、今はいつも通りに下校している。そう、いつも通り。毎日の平凡で普通なマイライフ。

 その通りなんだ。そう、これはいつも通りの光景。なあ、いつも通りだろう? 私よ、そうだよな。


「いやいや、これは私の毎日で目にしたことは一回もないと思われるぞ、自分……」


 いま、私の目の前で淡い綺麗な水色が揺れている。とても綺麗で幻想的だ。でも、おかしいんだ。私はさっきまで普通に家に向かっていたはずなんだ。海なんぞに来た覚えも、向かっていた覚えもない。というか、私の住んでいる街に海なんかない。

 ていうか、海よりもこれは竜巻の目といった方が良さそうだし。

 なんか変な気配もするしな。昨日と同じような私に向かう殺意も感じる。これはとてもめんどくさいことになりそうな……というか、一面水みたいなものに囲われている私はどうしたら安全に帰れるのかな。ん? あれ、昨日と同じような? 何を思っているんだ私は。こんなことに遭うのは初めてのはずだろう?

 そうだよな? そうだそうだ。

 

 というか無理だな、安全に帰るとか。さっきよりも囲われている面積小さくなっているし。たぶん半径一メートルぐらいかな。どうしよう、どうしようかこれ。


「あ、お兄ちゃんに電話……ああああ……」

 しかし、そのやっと出た案も携帯のディスプレイに表示されている圏外という文字でかき消された。これ最新機種なのに。最新機種なのに!! くっそう……。吸血鬼の館っぽいところでは使えていたはずの携帯なのに。この水、強いぞ。

 ああ、どうしようかなあ。


 そうして、そんなことを考えていても、刻々と人生のタイムリミットが近づいてくる。

 なんか地味にスリルを味わえないこの追い詰められよう、地味にムカつきます。

 これをやっている奴の頭に頭突きをいれたいです。助けてください。私の怒りはどこに行ったら収まってくれますか。

 というかこの現状でムカついていられる私の現状にも驚きだが、ただただ私をこの大量の水で囲っている相手にも驚きだわ。

 私はなんとなく私の周りをかこっている水を触ってみる。すると、予想もしないことが起こった。


「!?!?!? あああああああああっ!!」


 驚きのあまり自分でも聞いたことがないような声が、私の中にこだまする。私が触った水は少しピンク色に染まっていた。

 嘘だろう!? 水ってこんなに凶器だったっけ? いやいやいや、そんなわけがないよ。水が触れただけで指を切断するだなんて聞いたことないよ。どれだけ鋭利なんだよ。

 というかその触ってはじかれた水さえも私の身体を貫いてきたのですが。肝臓部分にダイレクトアタックしてきたのですが。こんなに蒼く、淡くゆらゆらと空高くゆっくりと揺らめいている水の大群にしか見えないのに! 無害に見えるのに。おかしくないですか。

 ちょっとこれ溺死じゃないじゃん。大根の桂剥きの如く私の体が削られていくんじゃん。

 これはいやだ、いやだ! 絶対に嫌だ! 私は一気にパニックに陥る。昨日のも嫌だが、今日のも嫌だ! ん? だから昨日のってなんだ? 思い出せない。くっそう、めんどくさくて仕方がないよ。


「ああああああああああああ! こうなったら自棄やけ! 自棄くそだよ!」

 そう言って、一応の頭の中で考えていたやったら助かるもしれない候補に入っていたが、やったら人生的に私が死ぬかもしれないのでやらなかったものを実行する。

 私まであと約三十センチはきったであろう水にある物を向ける。そして、それを思いっきり横に振りかざしてみた。すると――。

「斬れた……」

 その瞬間、その水は自我を失ったかのように倒れてきた。私は慌てて能力でコンクリートのような、自分でも訳の分からない物質の囲いを作り、覆った。しかし、慌てて作ったものだから想像が不十分で所々水が漏れてきた。その漏れてきた水は私の体に触れるとともに私の身体に穴を作ってきた。

「っ!」

 そのたびに私は小さな呻き声をあげる。


 次の瞬間、下に溜まってきた水が爆発したかのように大きな轟音を鳴らしながら私のもとに駆けだしてきた。


 急いで私は囲いの能力を解除し、どうにかそれから逃れようもする。

 しかし、それは避けられなかった。全身が痛い。咄嗟に庇った頭以外から血が溢れてくる。私の体はまるで弾丸にハチの巣にされたように、穴だらけだった。

 この液体は、生きている。しかし多分これは原子レベルの物一つ一つに命が宿っているパターンだ。だからあの時私が触っても、元に戻す能力を使っても私が負傷するだけだった。私の能力は生きている物には通用しない。だから、だから、だから……。


「あら、お嬢ちゃんあの中から生きてこれたの。えらいなあ。ほめてあげるわ」


 私があの水の大群から出た後の景色は私がいつも知っている景色だった。夕焼けに朱く色づけられ、綺麗に染まった住宅街。それをずっと行けば私の家に着く。そんな見慣れた景色の中に、見慣れない、まるで江戸時代の遊郭にいる花魁さんみたいに肩を大きく出し、肌蹴ている着物を綺麗にまとっている女性がそこに立っていた。

 彼女の口調はとても朗らかで、優しかった。言葉の意味はとてもじゃないぐらいにひどいがな。


 私は息をするのもやっとな身体で、お礼と共に気になってしょうがないことを彼女に聞く。

「……そりゃどうも、というか、なんで私を狙ったのですか」

「そりゃあ、あんたの兄さんがムカつくから」

 即答だった。悲しいほどに即答だった。

 私は質問を重ねる。

「…………なぜ私を」

「だってー、あのやつ強いんだもん。私が真正面に挑んだら倒されるのが落ちさ。でも、あんたなら別。弱いくせにあのやつの最大の弱点であり、最大の攻撃となる。あんたが死ねば、あいつはぐらつく。そして、私が挑んでもそれなら勝てるだろう? 人間でもなんでも、精神状態が危ない時は誰でも弱くなるものさ」

「……ファック」

 どうやらこの人はとても矮小な奴らしい。とても楽しそうに、楽しそうに私にそう語ってくれたが、要約するとそういうことになる。


 というかこの訳の分からない液体攻撃でも圧倒できてしまうらしい私の兄ってなにものだ。絶対人間の領域を超えていると思われる。さすが私のお兄ちゃんだ。でもさ、それならそろそろ来てくれてもいいと思うんだ。いい加減助けに来てくれ。

 息ができないんだよ。さっきので肺に穴空いたんだよ。息するたびにヒューヒューいっているんだよ。ふざけんなよ。ふざけろよ。

 ああ、こいつは魔族というやつの中でもめんどくさい水を操る何かだ。何かに作られた感じか? 形がつかめない。あれ、私ってこんな能力あったっけ? というか、こんな知識あったっけ。まあ、いいや。


「ということで、いきなり会ったばっかりだけれど、そんならお嬢ちゃん」

 私が息をするのをやっとな身体を起き上がらせると同時に、彼女は綺麗に顔に明るい花を咲かせながら嬉しそうに右手を私に突き出しながら、言った。

「永遠にさいなら」





「はいはい、さいならさいなら」

 少女が水ではない液体によって全身を切り刻まれ倒れた後、男は水芸女の後ろに立ち、そのまま首元を斬った。

「おお、一発だ。さすがキリト様。やりなれておらっしゃる。怖い。怖いわー。やり慣れ過ぎて怖いわー」

 気だるそうに私は斬られた女を眺めながら、月夜に照らされたご主人様に向かって言う。

「おい、馬鹿にされている気しかしないぞ、それ」


「気のせいですよ。キリト様、にしてもこやつどうしますか。強制的に天界送還でいいですか」

 キリト様によって白目を剥き冷たくなり始めている奴を指さしながら私は問う。

 ご主人は一つ返事で答えてくれた。

「ああ、それでいい」

「りょうかいでーす。ほいっと」

 私が彼女を触ると彼女は消えていった。私は瞬間移動という能力が十八番だ。どこにだって行ける。というか転移能力と言ってもいいだろう。時空と時空をつなげられる。まあ、キリト様だってそうなんだけれど。あの人はなんだって可能だ。恐ろしいぐらいに。


「というか、俺がまいた種とはいっても結構あの自称ヒーローに怒り心頭な奴って多いんだな」

「ですねー。にしても魔界に一回連れて行くだけで、二日連続で襲われるとか凛和ちゃんも災難だなー」

「だな。たぶん明日も襲われるだろうし、キイ、ちゃんと監視しとけよ」

「分かってますって。にしてもキリト様、夜にしか活動できないっていう設定早く無くしてくれません? 凛和ちゃん毎日毎日死ぬなんてかわいそ過ぎるんですけれど」

 何のために、毎日毎日行きたくもない学校に行っていると思っているんだか。というか絶対この主様日中に外に出ても体力を少し奪われてしまうぐらいだろう。あ、それでヒーローにあったら少し致命傷というか、面倒くさいことになるということか、それで外に出たくないのか。なるほど。

「設定いうな、設定って。はあ、俺だってそうできるのならばしたいよ。まあ、こいつの場合不死身だし、どうとでもなるだろう」

「あ、やっぱりそうなのか」


 うすうす予感はしていた。まあ、目の当たりにしたのは一昨日が初めてだけれど。彼女は本当だったら、もうとっくに死んでいる。けれど、そうなっていない。どういうことなのだろうか。

「ああ、不完全なようだけどな。ほら、さっきよりも傷が浅くなっているだろう?」

 傷が浅くなったというよりも体がくっついたという方がこの場合はあっていると思うが。

 ああ、今すぐ彼女に布をかけてあげたい。あの状態で街中で目を覚ましたら完全に変態だ。露出狂だ。

「そうですね。ということは凛和ちゃんってお仲間だったりするのですか」

「いや、それは無い。こいつはれっきとした人間だ」

「ふーん、そうなのですか。まあ、いいですけれども。どうします? ここにいたら彼女結構目立ってしまいますよ」

「ああ、そうだな。たぶんそろそろ起きるだろう。昨日も意識が回復するのは早かったようだし。というわけで昨日みたいにうまくやってくれ」

 昨日はキリト様がいなくなってから一分ぐらいで起きたよな。もちろんこのことはちゃんと報告をした。信頼は裏切っちゃいけないと思うから。


 私は少し溜息交じりに頷く。

「また雑な指令を……わかりましたよ」

「じゃあ、俺は行くから」

「はーい」

「気を付けろよな」

「分かってますって」


 そうして、ご主人は自分の屋敷へと音もなく戻っていった。

 人通りの少ない住宅街。というか、私が術で来なくさせているのだが。そんな中で小さな少女が体を赤く染め、小さく息をしている。

 私はそんな少女に黒い布をかぶせてから呟いた。

「……ごめんね」



 それから一週間、彼女は毎日、今日のように襲われ、当たり前のように死に、生き返り続けたのだった。


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