路地裏で目覚めて(2)
朝が、少しずつ地面を照らし始める。
足元の作業ズボンはずり落ちて、裾がアスファルトを引きずっていた。
よく見れば、シャツも肩からずり落ちそうになってる。
それで、少し歩いて見つけたのが、古着の回収ボックスだった。
さびた鉄製の箱の中、上のフタが開いていて、いくつかの服が無造作に突っ込まれている。
手を突っ込んで探ると——
出てきたのは、シワのついたピンクのパーカー。
袖にリボン。胸元には英語のロゴ。
あと、ゆるゆるのハーフパンツ。
「……うそでしょ」
ちょっと……女児服って感じ。すごく嫌だ。
でも他に着られそうなのは、濡れてるか、ボロボロか、サイズが合わなかった。
結局、そのセットを着た。
パーカーの袖を伸ばしてみると、指先がちょうど隠れた。
フードをかぶれば、少しは顔も隠せそうだった。
「しょーがない……」
靴も探した。
公園の端に、忘れられたのか捨てられたのかわからないスニーカー。
子ども用。水たまりに半分沈んでて、靴ひもは切れてる。
でも、はけた。
しかも、ぴったりだった。
「……ぴったりなの、悔しい」
思わず口に出てしまって、軽くため息をついた。
思えば、作業着以外の服を着たのは久しぶりなのかもしれない。
現場と事務所を行き来する日々の中で、自分の名前と社名が刻まれた作業着は都合が良かった。
現場でどんなに汚れても、膝や裾の部分が擦り切れても、気にする余裕のある人間なんて一人も居なかった。
そのせいか、このパーカーとハーフパンツはなんだか軽く感じた。
――――――
公園の水道は冷たくて、でも美味しかった。
喉の奥までひんやりして、思わず肩がふるえた。
ペンキが剥げかけたベンチに、体を沈める。
……足が地面に届かず宙に浮く。
背もたれに寄りかかって、空を見た。
柔らかい青と、うすい雲。
鳥が飛んでる。
「……そういえば、ここ、どこ?」
地元でもなければ、会社の周りでもない。
いや、それすらわからない。地図が頭に浮かばない。
地元から離れて就職して、寮に入ったのは十年以上前。
会社と寮は隣接していて、通勤はドアtoデスク。
外に出る必要なんて、なかった。
休みもなかったし、誰かと出かけた記憶もない。
この土地の名前も、駅の方角も、何ひとつ知らなかった。
でも。
「もう……働かなくて、いい」
頬が、ふにっと緩んだ。
すっかり短くなった両腕を空に伸ばす。
不安も、疑問も、あった。
でも、それ以上に——
自由だった。
「わたし……自由……」
ちいさな声が、風に流れて消えていった。




