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守ってあげる




 「あなたが——鎖の魔法少女、よね?」


  

 紺色の長い髪の子が、まっすぐこちらを見てそう言った。

 

……おわった、かもしれない。

 


 胸の奥が、ぎゅっと小さく縮む。

 

 猫に睨まれたネズミみたいに、足が地面に貼りついたように動かない。

 

 何を言えばいいのかも、よくわからない。 

 人違いです、とか言うべきだろうか。

 

 いや、さっき水色の髪の子が「間違いない」と言い切っていた。何かしらの根拠があるのだろう。


  

 どうしよう——と考えるより先に、紺色の髪の子のほうが口を開いた。

 

 

「その……この前は、悪かったわね」


  

「…………へ?」

 

 思わず変な声が漏れる。

 

 謝られる、とは思っていなかった。

 

 横で、水色の髪の子が目を丸くして、ポニーテールの子——光莉が「はぇ〜」と、感心なのか驚きなのかよくわからない声を出す。


 

「最初から街を守ってくれてたのに、未登録だからって決めつけて。

 言い方も、ちょっとキツかったと思うわ。……それと、今日も」

 

 紺色の髪の子は、ほんの少しだけバツが悪そうに視線をそらした。

 

「魔力の痕を追って、こんなふうに突き止めるなんて、やり方だけ見たらストーカーみたいでしょ。

 でも……もう一度会って、ちゃんと話して、謝りたかったから。そこは、ごめんなさい」


 

 光莉は、納得したような顔でその横顔を見上げていた。

 

「だから、椎奈はあんなに絶対見つけるって感じだったんだ〜。……それにしてもさ」

  

 光莉が、ぱっと水色の髪の子のほうへ向き直って、ほぼ飛びかかる勢いで抱きつく。


「すごいじゃん! ほのかちゃん、いつの間にそんな探知できるようになってたの?

 わたしなんか、魔災獣がいるかどうかもよくわかんないのに!」

 

「ひ、ひっぱらないでくださいぃ……」

 

 水色の髪の子は、光莉に抱きつかれたまま指先をもじもじさせて、そっと口を開いた。


「こ、この前……支部からの帰り道で、この公園の前を通ったとき……

 魔災獣とは違う魔力を、少しだけ感じて……。

 それから何日か、時間があるときに近くを通ってみたら……似た反応が、たまにあって……。

 もしかしたら、と思ったんです……」

 

 

「普通は、変身していてもそこまで拾える子はいないのよ。

 それも、魔災獣かどうかの判別までできるなんて、ごく一部だけ」

 

紺色の髪の、おそらくセレススピアこと椎奈が、横から補足する。

 

「い、いえ、そんな……。

 まだ、はっきり場所がわかるわけじゃなくて……今日も、近くにいそう、くらいで……。

 三人で探して回って、ようやく……その、見つけられたというか……」

 

……やはり、このシルバードロップであろう穂乃花という子は、魔力による探知が本当に可能なようだ。

 

 つまり、ここで変身して逃げたところで、いつかはまた見つかる、ということだ。

 

 それ以前に、光莉の変身後の機動力を振り切れる自信もない。


  

 つまり、今できる手段は、ひとつだけ。

 

 喉がカラカラに乾いているのを自覚しながら、なんとか声を絞り出す。


  

「……おねがい」

 

 

 三人の視線が、いっせいにこっちを向く。


  

「ここにいること、誰にも、言わないで」


  

 言った瞬間、自分でも驚くほどに情けない命乞いだった。


 

 すると、穂乃花の目が、ふるっと揺れる。

 

「……ここが、お気に入りの場所……なんですよね……?」


  

 不思議な言い回しだけど、間違ってはいない。

 黙って、小さくうなずく。


  

「…たしかに、わたし達がここ報告しちゃったら……、しばらく来れなくなっちゃうかもね〜」

 

 光莉が、ベンチの上のビニール袋をちらっと見る。


 

 

 ……この感じだと、路上生活しているとは思われてはいなさそうだ。

 洗濯したてなのと、銭湯に行ったばかりで多少小綺麗なのが、不幸中の幸いだったのかもしれない。

 

 さっきのお気に入りの場所という言葉も、一人で落ち着ける遊び場、くらいに解釈して言ったのだろう。

 きっと、どんぐりも遊びで集めてるくらいに思われているんだろう。

 

 ……今日のごはんなんだけどな。

 未だに手に持ってるそのどんぐり、返してくれないかな。



  

「でも、内緒にするっていうのも……」

 

 光莉が、ちら、と椎奈の横顔をうかがう。 

 穂乃花も、不安そうに同じように視線を向ける。


 

  

 この子が一番、規則に厳しいんだろう。

 

 

 ……やはり、どっちみちここまで、かな


  

 こんな奇妙な境遇、どういう扱いをされるかわからない。

 また、以前のような環境に置かれるかもしれない。


 

  

 ――諦めかけたとき。


 

  

「——わかったわ」

 

 椎奈が、すとん、と結論だけを落とした。


 

「ここにいることも、あなたのことも。本部には報告しない」


  

「えっ!?」

「えっ……!?」

 

 光莉と穂乃花の声が、見事に重なる。

 

 ついでに、わたしも目を丸くした。


 

 椎奈は、三人まとめてその顔を見て、わずかに肩をすくめる。

 

「何よ、その反応。

 通信で聞かれてるわけでもないし、わたしだって、そこまで鬼じゃないわよ」

 

 少しだけ目を細めて、続ける。

 

「それに、そんな顔で言われたら……報告なんか、できないでしょ」


  

 ……そんなに、ひどい顔してるんだろうか、自分。

 この体は、表情筋が死んだみたいに無表情なはずなのに。

 そっとほっぺたを触ってみる。

 たぶん、口角がいつもより下がっている……気がする。


 

 

  

「とにかく、わたし達は誰にも言わない」

 

 椎奈は、改めてはっきりと言った。


  

「初めて会うより前から、この街で何度も魔災獣を倒してくれてたんでしょ。

 この前だって、わたし達を守ってくれた」


 

 言われてみれば、そういうことになるのかもしれない。

 自分にとっては、ただ目についたから倒しただけ、のつもりだったけれど。



 

  

「だったら今度は——」

 

 

 椎奈は、ほんの少しだけ表情を和らげた。


 

 

「今度は、私達が守ってあげる」



 

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