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命を託せるのは、いつだって


「さて、ここまでは作戦通り。突けば何が出るかな?」


 王国内で実行されている、帝国の作戦。その中心地に忍び込んだ。


 来るまでにしたことは、主に2つだ。


 1つはハルトマン指示の元。一箇所のみであるが最低限の人員で、帝国軍との小競り合いを集結させた。


 現在は、終わらせた地域の要塞から別場所に人員を送り、連合軍有利に戦況が動き出した。


 2つ目はアースに囮をさせた。


 この場所で帝国が何かをしている、それを発見したと司令部のハルトマンに伝えるべく走らせている。


 通信が出来ぬよう、帝国軍はジャマーを掛けている。その現状では、これしか連絡手段がない。これは敵が作った状況だ、奴らも理解している。


 だから、比較的道が整備されている、街道から山道まで監視しているはず。帝国兵の数を少しでも減らすために、アースには囮となってもらう。


 それとこの場所の情報だが、既にハルトマンに教えてある。何故、アースが伝えるべき情報をハルトマンが知っているか? タネは簡単、嘘を着いたのだ。俺の勘では、ここだと確信出来ている。


 しかし証拠がない。組織のトップは憶測で部下を動かせない。ならどうするか? 証拠があるとでっち上げる。


「援護を頼むよハルトマン」

「わかった。空いた場所から手を回そう」


 後は、悲劇のヒーローを演じれば良い。そうすれば、俺達有利の時間を生み出せる。


「済まないなアース」


 彼だけだ。捕まったら終わりなのは。帝国の策略を防ぐために必要な犠牲。申し訳なく思う。ただ、生きる目は残した。あらん限りの魔法薬と魔法道具。渡せる物は全て。


「ライドが居る以上。お前が生き残る可能性は低い。それでもやってくれるかアース?」

「はい。それで国を守れるなら」


 雷鳴の如き追跡者、彼に狩られろ。そう言われたのに、アースは悩まず頷いた。「任せた」と最後に残し、俺は彼が作った隙間に乗じ、潜入した。


 何度か、見つかりそうな危機を乗り越え、奴らが行なっているであろう作戦。結界で守られている、それに、触れる事が出来る位置まで近づけた。


「防がせて貰うぞ」


 結界が割れれば、奴らも引き返して来るだろう。アースの生存確率もぐっと上がる。


「と、思ってるんだろグラム将軍? 話に乗って良かったぞ」


 結界に触れようとした直前。手首を捕まれ静止された。


「お前は?」

「俺の名はライド。お前の敵だよ」


 名は言われずともわかっていた。それでも聞いたのは動揺を隠すため。アースを追ったのでは? コイツが居るという事は、彼の生存確率がぐっと上がる。


 それとも、既にアースは捕らえられたか? なら見せびらかす筈。


 思考は混沌。状況は単純。


「っち、させるか」

「無駄だ」


 彼に構わず、俺は結界に手を伸ばす。狂戦士が発する呪力があれば、結界など触るだけで壊せる。それを防ぐため、ライドは俺の腕めがけて槍を振るう。しかしそれは、範囲を限定した防御魔法で防ぐ。


 結界に手が触れると、パリン、音が周囲に響く。今まで結界に保護され、見えなかった中の景色が姿を表した。


「ああ、やっちまったなグラム将軍」


 思わず隣にいるライドを見た。彼は姿を雷に変え、大きく跳躍。轟音と共に、離れた位置にある岩場へ移動する。


 辛うじて見えるのは、戦闘態勢を解き、蹲踞(そんきょ)(ウンコ座り、又はヤンキー座り)をしている事位。


 ニタニタと笑う様子に罠か? と訝しみ、前を見る。


「クッソ、なんだコイツ」


 そこには、背中に翼が生えた虎がいた。虎の部分が顔のみであるから、その表現は適切ではない。足はサイ、胴はカバ。


「こいつ、キメラか?」

「gauagagagauga]


 声に反応。こちらに飛びついてくる。腕でそれを防ぐが、牙が服を突き破りしゃぶられた。また謎の生物は、俺に体重を乗せてくる。耐えきれず背中から地面に倒れる。


 下から、自身の腕を食われる光景。正直、圧倒された。どうしていいかわからず、冷静な判断をするのは難しい。


「っち。どけ」


 何度か膝をキメラの腹部に打ち込むが、腕に歯を突き立てられ抵抗される。また、キメラの身体が浮く度に、俺の身体に再度落下。のしかかりの衝撃を受ける。内蔵を圧迫される感覚は、腹の中身が喉から飛び出すかのようだ。


「全く、何だよこれは?」


 キメラが眠るまで、逃げられなかった。牙を腕から外し立ち上がる。身体は強い倦怠感を訴えている。


 不思議な事にしゃぶられていた腕だが傷は、牙を突き立てられた際に出来た、穴が開いているだけ。食われた形跡はない。


「はは、教えてやろうか? お前は生命力を食われたんだ。それにしても、よく生きていられるな? 腹ペコにだったからな、数万人分の生気食うまでは止まらない筈だが。ま、もう一つの成果はでたな」


 ライドは再び雷となり、今度は眼前に飛んできた。その目線は、俺の噛まれた右腕を見ている。


「傷が治らない? いや、遅いのか?」


 右腕に生まれた穴が塞がらない? 目をやると、僅かだが穴は小さくなっている。


「キメラの唾液には、傷の治りが遅くなる特別な物質が分泌されている。傷が治るまで待ってやる。それは安心してくれ」

「どうも、律儀で」

「いや、俺も嬉しいんだ。骨のある相手と戦えるのが。近頃は居ないからな、そしてこれが、シドニア大陸最後になる」


 互いに距離を取り、剣と槍を構える。


 残念ながら周囲には、合図となる物は存在しない。木の葉も、あってせいぜい小石程度。


「じゃ、これを合図にするか」


 ライドは足元にある石を掴み、上空に投げる。そして小石が最大到達点に至った直後、仕掛けてきた。


「で、スタートでいいのか?」


 槍の戦先端部分を転移魔法で飛ばし、背後から突きが放たれる。右足を下げ、半身に構え回避、槍の逆輪(穂先と柄を繋ぐ留め具)を掴む。


「いいんだが、離してくれね?」

「手癖が悪いからな、没収だ」


 ライドは数度、押し引きを繰り返す。それで、槍を取り戻せないのを確信したか、今度は両手で槍を掴む。


 俺は渡すまいと、槍を握る手と足に力を込める。しかしライドは踏ん張らず、むしろ、強く握られた槍を利用し、腕を引く力で加速、身体を押し出す。さらに雷鳴も纏い、俺に体当たりをしてきた。


 それを腕で防ぐが、槍は手放さざるを得ない。数メートル後ろに飛ぶ。膝をついた態勢から顔を上げるが、そこに奴の姿はない。


「仕切り直しだ狂戦士、ここからが本番だ」

「っ」


 ライドの姿は背後にある。今度は転移ではない。雷の特性を使った高速移動


(反応が遅れた。来るのは、穂先だけ飛ばした正面からの突きか?)


 山を張るしかなかった。振り返り、心臓目掛けて放たれる槍。それを剣で弾き飛ばそうとするが、槍の穂先が消えた。


 狙いは左。空間の歪みを感じる。しかし回避は間に合わない。ピンポイントで防御魔法を発動させ、槍の突進速度を遅らせる。その隙にバックステップで、槍の進行位置から身体を逃がす。


「このコンビネーションでも駄目か」

「面倒な。速さで相手を圧倒。絡め手は転移に任せる。しかも狙いは、命を取ることよりも、傷を負わせ消耗させること」

「それだけ認めているんだよ。現に、今の攻撃は届かなかった。互いに全力じゃなかったとは言え、実力を測るにしては十分な攻防。それと一言。悪いな」


 直後現れたのは銀髪の男性。剣を構え、一足でこちらの間合いに入る。


 幻視するのは右腕の切断。それは不味いと、鬼化を使う。


 ほぼ賭けだった。奴の攻撃が身体の上を通り過ぎる、それを前提とした地面への正拳突き。俺が背中を丸めた事で剣は空振り。そして拳で地面を凹ませ、砂煙と不安定な足場を生み出すことで銀髪の剣士を撤退させる。

 直後、転移で送られてくる槍に対しては、横に転がり回避。そして彼らの顔を、ようやく落ち着いて見た。


「帝国軍所属ライドに、帝国7武人最強の男サイモン。こりゃ、罠か」

「こちらとしては、どっちを選んでもよかった、それだけだ。作戦の妨害にグラム将軍が動けば、回復能力を奪った後に、俺とサイモンが迎撃する。そうでなければ作戦を実行。北部を全滅させる」

「俺はアドラの敵討ちに来ただけだ。後は知らん」

「そりゃねぇよ。俺達今、相棒だろ?」


 彼の説明を鼻で笑うサイモン。そんな彼に寄りかかり、肩に腕を回すライド。俺からしたら、最悪の状況だ。


 だが。


(嘘を着いたな)


 狂戦士としての勘が、俺にそれを告げていた。

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