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戦士は常に勝利を求める


「さて、話して貰おうかな? 帝国の第4皇女、ベアトリス様?」

「良いいのだけど、流石に家臣を椅子にされては難しいわ」


 彼女の年齢は13歳。首にナイフを突きつけられ、それでも部下を心配するとは豪胆だ。逆転の目は、部下が目覚めた際の奇襲だけ、と割り切っている可能性もあるが。


「無駄だと思うぞ、さっきの様子を見ただろ? 起きてもパニックになるだけ、なら、このまま押さえつけたほうが会話しやすい」

「……そうですね。すいません、話を遮ってしまって」


 すんなり引き下がるな? 既に助けを呼んだか? いいな面白い、曲者は大好きだ。


「話を続けよう」」

「はい。私達が提示するのは、シルバード王国を反乱軍が攻め落とした際の帝国内での立場です。まず、あなた達の主、ダイオス様。彼が国王となった場合は、そのまま統治して貰って構いません。ただし、帝国の第2皇女と婚約することが条件ですが」

「なるほど、前もって聞いた通りですね。アース、離してやれ。この方は、正真正銘帝国のお偉いさんだ」

「わかりました」


 ナイフを首から外され、一息着く彼女。俺は手を差し出し、ソファーに座るよう指示を出す。なのだが、少女は一瞬固まる。


 元々彼女達の隠れ家だ。他所の人間に我が物顔をされては、気分が良くない。


(なるほどな、プライド高い。つまり変な所で腹黒いか)


 皇族っぽさがあるじゃないか。俺達が持つアドバンテージ。それはダイオスが死んだ事実を掴んでいる事だ。


「本題に入りましょう。危険な時期に王国入り。何か話すことがあるのでは?」

「流石ダイオス様の手勢、優秀ですね。話が早くて助かります」


 これはダイオスに助けられたな。彼が傲慢な態度をしていたお陰で、アースが独断で行なった人質作戦が、陣営の特色として受け入れられた。皇女様の腹中は知らないがな。


「これはお願いになりますが、王国と帝国、両者の戦を止めたい。早急に動いて貰えませんか?」

「というと、期限をご申付下さい」

「遅くても一週間以内に」

「少し難しいですね。出来ないとは言わない。私達は帝国を100%信頼していない。もし早めに動くことが、帝国が狙う我らの共倒れ、その条件に関係するなら、こちらは決して動かない」

「共倒れなど、そんーー」


 あえて机を叩く。バンという音に、皇女の肩が跳ね上がった。見える変化。彼女は身体を縮こまらせる。そして眉は下がり、目には怯えが宿る。



「私達もね、情報収集しているんですよ。帝国軍の一番槍ライド、そして将軍ジークの姿も司令部にない。一体どこで何を守っているのか? 教えてくれないと話には乗れませんね」


 ライドはともかく敵の司令部、その内部までは探れない。一種のブラフだ。


「わかりましたお話します。確かに、これを話さなければ、貴方は動けない」

「ありがとう、理解してくれて嬉しいよ」

「はぁ、帝国軍の作戦。それはシルバード王国北部の人命全てを、ある魔法生物で奪うこと。現在工兵がシルバード王国内に侵入、作戦を実行している。ライド及びジーク将軍は、その護衛に入っています。正直言いますが、私はこの作戦が好かない。偉大な帝国が無辜の民、その生命を無差別に取るなど、恥を知れ」


 少女は震えている。怒りを抑えているようだが、これは偽善だ。


「わかりました。私達の選択をお教えしましょう」


 皇女は首を傾げる。その目には、ダイオスに聞かなくてもいいのか? という疑念がある。どう聞くのだ? 死人に。


「帝国との協定は、全て破棄する」

「貴方は何を言っている? 滅ぶぞシルバード王国が」

「ははは、馬鹿だな皇女さん。俺が気付いていないとでも? アンタ達は、ダイオスが国王に成れば第2皇女を嫁がせると言ったが、同等に扱うとは言っていない。どうせ、属国扱いが良い所だ」

「そうだ。だが、滅ぶより良いだろう?」


 皇女の髪を掴む。そして眼前まで顔を持ってきた。互いに鼻息がぶつかる距離、彼女は顔を反らす。俺はヘッドバッドをし、痛みでこちらを見ろと、命令した。


「お前はズルい女だ。交渉はするが、自分からは何も差し出さない。甘やかされて育ったのだろう。だからこそ知らぬ。敗北を受け入れ奴隷になるのなら、滅びを選ぶ愚か者がいることを。何より戦士はな、勝たないと気が済まないんだよ」

「きゃ」

「アース、コイツラを捕らえておけ。特に、いま伸びている男を決して逃がすな。この女は、別に返しても構わない」


 彼女を、正面のソファーに叩きつける。


 大丈夫だ、もう聞く事はない。先程の会話で、作戦がどこで行われているか、おおよその検討がついた。


「皇女様、サンドリオン。早かったじゃないか、密談はどう……」

「なんだ、もう1人居たのか?」


 隠れ家の扉を開け、入ってきたのは茶髪の男性。皇女の護衛だろう。歴戦の戦士とはいえ、中の様子に一瞬固まる。


 俺は飛び出し、男性の首を右手で掴み持ち上げた。抵抗として、彼は右手首を何度も殴ってくる。


「サンドリオン、頼む姫様を」


 拘束を破れないと判断したのか、ポケットから薬品を、倒れている男性、サンドリオンに投げる。


「ん、ここは?」


 中身は気づけ薬か。だが哀れな事だ。あの男はもう戦えない。


「っひ、来るな。狂戦士」


 彼は周囲を確認するも、俺を見た瞬間、再び蹲る。


「そんな、サンドリオン。何があった?」

「あの様子だと、魔剣戦役を見たな」


 掴んでいる男性は信じられない物を見たと、目を見開き意識を失った。責める言葉より驚愕が大きい以上、深い信頼関係があったのだろう。


 その信頼関係も、過去の恐怖には勝てなかったか。


「それにしても、魔剣戦役か」


 俺が初めて参加した、大きな戦争。そして、最も派手に散らかした戦だ。あれを思い出すと、少々ナーバスになる。ザヴィー以前の副官が亡くなった戦争だから。


 *


「将軍、地図を用意しました」

「ありがとう、説明するか」


 会議室に置かれた机、そこには俺とエンデ、そしてアースの人影がある。


「まず北部の説明だが、あそこの殆どは山に囲まれている。割高である王都と比べて、北部だと1.5倍程、物価が高い。理由は移動コストが掛かるから。ここまではいいな?」

「はい」


 アースの相槌。頷くエンデ。この説明はアース主体で良さそうだな。


「北部は不毛の大地と思うかもしれないが、あそこにはワイズマン山脈がある。地脈から溢れた魔力が、高頻度で魔鋼を生み出す。王国にとって大きな財産。それを今回狙われた。連中の狙いは、地脈を利用すること。方法まではわからないが、北部全域に住む人間、その抹殺が目的」


 先程、隠れ家にいたアースの反応は薄い。むしろ、エンデが唸っていた。そして地図に円を書く。円は、ワイズマン山脈を意識して付けた訳では無い。北部国境線を円に収め書いた。結果、中心がワイズマン山脈なだけだ。


「ここだ。帝国の工作員はここにいる」

「この場所、何もありませんね。 周囲には木々があるのに?」

「ああ、地脈の折衝地点だ。だから木々が生えず、動物も近寄らない。他の特徴と言えば、暑い位だな」


 どんな物も、多すぎれば毒になる。木々や周囲に変化を促す、万能栄養素である地脈に流れる魔力であっても、それは変わらない。


「大願成そうとすれば準備は足りぬ。帝国の工兵にとっては、まさにオアシスだろうな。なんせ、無限のリソースを得たと変わらない。今から俺はここに向かう。お前たちは、ドリス港を頼んだ」

「無茶です、将軍1人で行くなんて。せめてここから兵を連れて行くか、国境にいる連合軍へ救援を呼ぶなど」


 首を振り、アースの案を否定。


「ドリス港の兵士を動かしても、機動力が落ち間に合わない。国境付近の連合軍を動かしても、戦力が減り突破されるかも。ま、国境への足止めが帝国軍の狙いだ。連合軍の兵が下がっても、砦の確保だけに留める可能性はあるが、元々相手の作戦。幾らでもカバーが利いてしまう。予測できない混沌より、限られた手札でぶつかり合う、小さなボードゲームの方が俺は好みだ。できることがあるとすればだ、情報の逐次報告か、状況を動かす為の、綻びを作ってやるくらいか。さてエンデ、お前は言ったな? 息子を使っていいと」

「はい」

「借りるぞ。死ぬかも知れないがな」

「どうぞ、殺して下さい」


 それを言ったのはエンデではない。息子のアース。俺が立ち上がると側に寄り跪く。


「で、私は何をすれば?」

「簡単だ。世界一辛い、伝達兵をしてもらう。お前の足が砕けようとも、走り続けろ」


 なんせ走るのは平面ではない。坂道だらけの山なのだ。

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