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港にて潜むもの。悪鬼との再開


「じゃ、俺はこれで。お2人は王城に帰って下さい。護衛もいるんですから」


 瓦礫とかしたストムダイ要塞を踏みつけ、合流した領兵を見下ろす。彼らの数は300人。時間を掛ければ、安全に王都までたどり着けるだろう。


「で、グラムはこれからどうするんだ?」


 当然の疑問をルドラ様は聞いてくる。隠す必要もない。


「俺はこれから、ドリス港に向かいます」

「ドリス港って確か、ストムダイ要塞に一番近い港町だよな?」

「ああ、良い所だ。魚は上手い、船があるから別大陸の商品も目にできる。ただ、軍艦が景観を損なわせているが」

「なるほど、反乱軍の元締めダイオスの支配領域。そこにある軍事施設だ、間違いなく反乱軍に手を貸している。その奪還だな」


 ぽんと、手を叩くルドラ様。彼の思いつきは間違っていない。しかしそれは副目的だ。


「さて質問、ダイオスは誰に国を売り飛ばそうとしていた?」

「帝国の、しかも上の人間が入り込んでいる?」


 レオンの言葉を聞き、それだ、と人差し指を彼に向ける。これを受けた彼は、むしろ疑問が深まったと首を傾げる。


「グラム将軍。帝国の人間から何を聞きたい?」

「レオン、現在の連合軍、その戦況を知ってるか?」

「ああ。指揮系統が上手く行かず、厳しい状況だとか」

「それに関しては、ハルトマンが時期解決するだろう。レオン、お前ならわかるんじゃないか? 帝国軍の名有りの戦力を」

「まぁ、ルドラ様よりは……」


 俺がレオンに渡したのは一枚の紙。中には、連合軍と帝国軍の戦況が書かれている。王都から出る直前、掻き集めた物だ。


 詳細は、敵国軍推定3万人。連合軍1万5千人。それと、戦場にいる強者の名前がそれぞれだ。これが砦、要塞毎に書かれている。


 彼は夢中でそれを読む。次第に眉が寄っていき、最後には神妙な顔で俺を見上げた。


「ライドの名がない。奴の性格上、戦場の最前線で暴れる筈だが?」

「そう、奴の戦い方は派手だ。戦い方を見ればひと目でわかる。連合軍でも、危険戦力として通達されているからな。しかし奴がいない、つまり?」

「連合軍を倒すための、特殊作戦を遂行中?」

「その通り」


 顔を青くしながらレオンは言う。俺は彼に近づき、紙を奪う。それを懐にしまうと、歩き出した。


「だが、その作戦はどうやって知る? だから行くのかドリス港に」

「作戦が分かり次第、俺は現場に向かう。だから、王城までは一緒にいけない」


 背後からは、ザ、バ、という鋭い音が聞こえた。恐らく敬礼をしている。背後を見ず、手を振って応えた。


 *


「どうするか? 親父、俺は魚のフライ」

「ほい。で、お前さんは?」

「じゃ、白身魚のソテーで」


 注文を終え、入口のウェスタンドアを見る。バタバタと扉が揺れ、店内に生ぬるい風が吹く。椅子に足を乗せ、手をはたき首に風を送った。


 それにしても、俺の服装は少々お遊びが過ぎる。アロハシャツにサングラス。これを決めたのは、対面の男性だ。


「グラム将軍、どうするんですか?」

「将軍はやめろ、グラムでいい。それと肩ひじ張ってふんぞり返れ。俺はお前の護衛という設定なんだから」


 対面の男子に目を向ける。身長は150前半。青髪に幼い顔立ち。ちなみに成人済みである。

 

 本人には悪いが、男より少女に見える。これを初対面の際にも述べたが、部屋の角に座り込み、床を人差し指で弄り始めた。なので口には出さぬよう意識しているが、滑らせるかもしれない。


 さて、俺が彼と出会ったのは、ドリス港にある軍事施設だ。


 戦闘の準備をし、軍の門を叩く。近づいた途端、大砲を向けられる覚悟はしていた。


「俺の名はグラム。それ以上、述べる必要はあるか?」


 城門から出てきた門番に、声を掛けると彼は敬礼。


「すいません。少々お待ちを」


 それからきっちり30分、待ち惚けを食らった。城壁を破ろうとは考えていない。欲しい状況は、帝国から来る高官の確保。目的の物を得るまでは、穏便を望むのは俺も同じ。


「グラム将軍、こちらに」

「わかった……って。なんだこりゃ」


 門を潜ると施設中の軍人が、敬礼をし道を作っていた。数に任せて襲ってくる、それを警戒し、身体を丸め怯えながら道を進む。終点はやはり指揮官室。


「アースです。グラム将軍をお連れしました」

「わかった入ってくれ」

「どうぞグラム将軍」


 ここまで道案内をしてきた男性? 女性か? それが扉を開ると、中の様子が伺える。


「うん? 司令官はどこに」


 しかし、正面に見える大きな椅子。そこには誰もいない。部屋の中に入り左右を見渡すが、やはりどこにも。


「あのグラム将軍。私はここに」

「わ、誰だお前。って、ここの司令官エンデか」


 彼が居たのは足元。眼前の椅子に目を取られ、頭を床に擦り付ける彼を見落としていた。


 これが奇襲なら、俺は手傷を負っていた。


「酷いですよグラム将軍。……っが、何をするんですか」

「わりぃ。気持ち悪くて。それと、大丈夫か?」


 気付かなかった。この事実にエンデは傷ついたらし。俺の靴に飛びかかり頬ずりをする。流石におっさんの行動は気持ち悪く、反射的に蹴り飛ばした。


 彼は壁に頭をぶつける。一応だ、声と片手で謝っておく。


「はい、頭がじんわり痛みますが、大丈夫です。それに将軍も気になっているでしょう? 今の状況を」

「まぁな」


 司令官のエンデは、頭を擦りながら言う。想起させるのは先程の敬礼。恭順すると言うなら、手間が減って良い。しかし俺は、理由を知らず受け入れる間抜けではない。


「訳を聞かせてくれないか?」

「帝国の使者は、ダイオス様が受け入れる手筈でした。それがなければ、最終的に上手く行かないと踏んだのが1つ。もう1つは、元々俺達は、反乱軍に対して決起を起こすつもりだったんです」


 頭を上げぬエンデ。そして彼の言う決起。


 なるほどなるほど。反乱軍に囲まれたドリス港では、決起という言葉が相応しい。何故、反乱軍の旗下とタイミングをずらすか? 検討もつく。


「臆病者の意地か」

「はい。私達が反乱軍の旗揚げと同時に決起した所で、多少の混乱を生み出せますが、直ぐに制圧される。私達は耐えられない。無駄死にであることが。私達は踏み出せない、誰とも繋がらない、独りよがりの死を。だから、せめてもの希望として待つことにした。将軍、私の命は好きにして良い。だから、部下だけはーー」


 手の平を向ける。そして、驚きながらも口を塞ぐエンデの隣を歩き、司令室にある豪勢な椅子に座った。


「教えろ。帝国からの使者、彼らの特徴と、どこで合うかを」

「はい。息子のアースが窓口になっています。おいアース。居るのはわかっているから入ってこい」

「し、失礼します」


 エンデが声を上げた直後、扉からコンコンと、3回音が聞こえた。


「先程ぶりであります。グラム将軍」


 現れたのは、俺をここまで案内してきた男性。なのだが?


「背、縮んだ?」

「すいません。下駄を履いてました」


 そして出会ったわけだ、アースと。


 *


「グラムさんも食べますか? 白身が美味しいのは勿論の事、掛けてあるソースが上手いんですよ、この店は」

「なら、一口。うん?」


 ガランと入口が揺れた。何事かと目線を送る。見えたのは、浅黒い肌の男性が走り去る姿。


「見つけた。アイツが帝国の高官だな」

「そうですが、一体どうしたんですかね? ってグラムさん、どこに?」


 背後から聞こえるアースの声。それを無視し、逃亡者を追う。

 逃亡者は裏路地を爆走。店を出た直後は逃げ足の速さに、一瞬姿を見落としたが、ゴミ箱に足を取られた金属音を耳にする。お陰で見失う事無く、屋根上から尾行できている。


 それにしても、あの慌てよう。一応だが変装もしていた。プライベートだとも考え、緊張感を抱きながら店内に入るか、音を立てずに店から離れるかの2択。


 しかし逃亡者が取ったのは、脇目も振らぬ逃走。また浅黒い肌が気になる。あの特徴は別大陸の人種、グレイル。


「まさかな?」


 俺が帝国含め王国で無名だった理由。それは、この大陸で活動していなかったから。問題は、俺が狂戦士として、戦争に介入していた大陸こそ、グレイルの故郷。


 あの時は、能力すら隠していなかった。なら知っているだろう、俺の全力を。


 逃亡者は周囲を確認。大きく息を吐き出し、お尻から座り込んだ。


「助かった。って、俺は何を逃げているんだ? 全く、邪神のなり損ない、の筈ないのに。黒髪の青年ってだけで怯えちまって、重症だな。一旦、隠れ家に戻ろうか」


 逃亡者は過剰な程、周囲を確認しつつ歩く。残念ながら上への警戒はなかったが。


「誰だ、って黒猫か」


 逃亡者がゴミ山の横を抜ける時、ゴソゴソと何かが動く。これに飛び跳ね反応。短剣まで構える始末。しかし出てきたのは、黒い猫。魚の骨を口に加え、これは俺のだと、逃亡者を威嚇。そのまま走り去る。


「なんか、申し訳なくなってきた」


 短剣を仕舞う逃亡者。その顔は、3年老いて見えた。傷心のまま移動する彼だが、ついに足が止まった。


「すいません遅れました。今日の取引は一旦中止、次は後日という事で……姫様!!」

「あらサンドリオン、遅かったわね。冗談よ。私も気になって、取引場所の料理屋に行ったんだけど、捕まっちゃって。そちらの彼は貴方の知り合い?」

 

 俺は男性、サンドリオンが扉を叩く直前に屋根から下りた。罠の確認を済ませた後、部屋を制圧しようと考えていた。


 そして逃亡者の背後から部屋の中を覗き込む。そこには、ドレスを着た紫髪の少女、彼女の首に剣を添える、アースの姿がある。


 そして少女の声を聞き、サンドリオンはこちらを見る。


「よ」

「来るな、来るな。来るなぁぁぁぁぁぁぁ」


 彼は、俺を見ると転んだ。腹をこちらに向けながら、両手で顔を隠す。


「どうしたの、サンドリオン?」

「ママ、悪魔が出た、戦場の主が僕の命を取りに来た」


 女性の言葉すら聞こえていない。現実と空想の間を行き来する目、それを手の間がら覗かせる。


「お前、昔の俺を知っているな」

「っひゅ」


 腕を掴み、姿を直視させる。彼の眼球が素早く動き、隅々まで俺を観察する。その後白目となり、意識を失った。

 

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