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王城にて



「なんて事だ」


 シルバード王国、24代国王ギルベルト。彼は今、危機感を募らせていた。


「この同盟、帝国との戦いだけが目的では勿体ない」


 言うのは、自由都市リリネアの代表者だ。

 彼らは根底が商人。新たに利を作り出そうとするのは当然の事。


「何を言っている? 我ら共和国とソマリス、そしてダルダインは了承していない」

 

 リリネアの中では成功したも同然。それもその筈。同盟成立の成功率は、会談開始前で既に8割を超えていた。


 大陸に存在する全ての国家が持つ危機、帝国の侵略。それに対処するため、力を合わせる他ないのは皆分かっている。こうリリネアの商人は思い込んでいる。

 


「間違った考えではない。ただ思い込みというのは良くない」

 

 同盟を確実な物とするため、シルバード王国が前もって手を組んだ国がある。モルドナとリリネアだ。


 モルドナと我が国の関係性は深い。話しを通しておけば、信頼出来る味方となる。


 そしてリリネアだ。彼らの支持を得られれば、関係が深い亜人の国サラサも同盟に乗りやすい。


 我が国を含め4国が同盟に前向き。それだけで、同盟が一定の力を持つと示せる。机上の空論ではなくなれば、後は力を高めるだけで、3国が自然と加入する。


 「全く、ここからが長そうだ」


 まだ同盟成立には至っていない。なのに利益の追求に奔るとは。呆れつつも彼らの生態を理解しているだ、納得はできる。


「陛下、 背筋を伸ばして下さい」

「少し位いいだろうアレイスター。それともなんだ? 貴様のオムツを変えたワシに文句があるのか?」


 彼の父とは友人だった。友人というより夜遊びの師か。彼のおかげで見聞が広げられ、賭博の楽しみと酒の奥深さを知った。

 

 ワシを注意した彼は苦々しい表情をしている。やりづらいと思っているだろうな。


「今だけだ。ここくらいでしか、気が抜けんのでな」

「確かに今だけですね」


 同盟からなる連合軍。それは国主体の軍とは別、新たな旗が必要だ。それが会談の場で、自国の代表を護衛できる唯一の者だ。それ以外の護衛は控室で待機となる。


(ワシの国は例外だが)


 ガイルの孫レイ。彼女を選んだのだが逃げられてしまう。といっても、役目を別の人間に変えるつもりはない。


(本当はグラムが良かったのだがな)


 彼は我が国の将軍、連合軍に出向することは出来ない。ただでさえハルトマンが総司令官として出向くのだ、尚の事無理だ。

 

 そしてワシが最も恐れていること、それはグラムがシルバード王国を去ることだ。


(彼はあくまで傭兵。報酬が払えなければいなくなる)


 義では無く、利で動くタイプ。何より、彼の下には有能な者が多い。現在ワシを護衛しているアレイスターも彼の部下。優秀な暗殺者、今は情報屋兼護衛か。それらも多数率いている。


 また彼は天性の煽動者だ。恐怖を和らげながらも、正しい恐怖との付き合い方。それを兵士に示す。数を率いて戦うのなら、欠かせない人材だ。


「こうしましょう。国境の関税を下げ、経済を活発に」

「ふざけるな。誰がそんな事をするか」


 自分の思考に一区切りが着く。盛り上がった会談を締め括ろうと、声を上げようとした時だ。


「動くな」


 共和国が連れてきた護衛。彼女が自国の代表の首元に剣を添えた。


「貴様、何をしているかわかっているのか?」


 情熱的に叫ぶのは、日焼け跡が特徴なモルドナの代表。


 他の代表達は立つことすらしなかった。護衛達は自国の代表を守るために前へと出る。ただナイフを持った女性、彼女を制圧する気配はない。


「いいのかギルベルト王? 貴様の国で行われた会談で、他国の首謀者が死ぬ。それは国際問題だぞ」


 共和国の代表がワシに物申す。返答代わりに首を横に振る。そして国のトップなら覚悟を示せと、彼を睨んだ。


「貴方の護衛が起こした事だ、貴国の問題であろう。それに会談の警備を見ろ? それぞれが護衛を率い会談に臨む。だから武器の検査はするな、控室にいる兵士は黙認しろ。そして王城の兵士は最低限。発案者は貴殿であったな。警備が出来ない状況を強要し、始まったこの会議に主催国の責任があるとでも?」

「それは……」


 救うつもりはある。しかし手数が足りない。モルドナの護衛は、救出の手伝いをしてくれるだろう。問題は、それ以外が読めないこと。


「なるほど裏切りか。随分信用されていないようだな、共和国の代表は?」


 入口から共和国の兵士が雪崩込んできた。兵士達は槍を他国の代表に向ける。各国の代表は立ち、護衛が作った一角の隙間に集まる。話が通っていた3国は勿論、残り2国の代表も。

 

 共和国の兵士は動けずにいた。各国の護衛が放つ、その圧に。

 

「やるか」


 言ったのは誰だったか? 一言を合図に護衛達は兵士に飛びかかる。


「ま、戦力としては足りんわな」


 彼らは各国から選ばれた戦士。訓練を受けた兵、その程度の器では役不足。


「ソマリリス王。ちょっといいか?」

「どうぞ」

 

 ワシはソマリス王の背後に立つ。この状況、唯一の利益を得るために。


「数年単位の関税免除。シルバード王国からの物資、技術の援助。あと儂らが帝国に勝った際、得られる土地をやろう。この同盟とは別途の条約で帝国から我が国に鞍替えしろ、ソマリス王」


 共和国の実情はわかっていた。様々な分派が存在し、互いにスパイを送り合う。静かな内乱が絶え間なく起こっている国だ。


 ある意味で予定調和。国内で足を引っ張り合っている限り、共和国は問題ない。


 問題なのはソマリス。


 天然の要塞を多く所有するソマリス。別の言い方をすれば、最も資源が乏しい国とも言える。


 天然の要塞。言い換えれば、住むのが厳しい環境だ。だからこそ、裏切る可能性が一番高い国でもある。


 ソマリス王は優秀な人物だ。だから気付いている。自国を発展させるには、他国から何かを奪うしかない。自国を発展させるのは王の義務。そして民にしてやれる唯一の感謝。


 心優しい彼だから、歩み寄ればこちらに傾く。彼もわかっているのだ。帝国の属国に落ちた所で、滅亡を避けられるだけ。待っているのは、帝国に富を吸い取られる、変わらぬ辛い生活だと。


 ソマリスを同盟に引き込む為には、夢を見せること。帝国に勝てば実現してやれる、現実的な希望を。


「いいだろう。同盟に我らは忠誠を誓う」

「よろしく頼むよ」


 ソマリス王の表情から、隠していた苦々しさが消えた。


(相変わらず優しすぎるな)


 守るもの為に何かを呑み込む。その厳しさを彼は持っていた。


 昔から知っていた事だ。

 会談の勝敗を分けたのは歳。彼がワシより長生きしていたら、彼の奥底に潜む優しさには、気付けなかった。

 

「後は」


 この場に現れたテロリストの対処のみ。護衛たちなら、時間を掛けず制圧できる。


「甘くはないだろう。間違いなく、次の一手が来る」


 次の瞬間、窓が破られ3つの人影が部屋に侵入した。

 

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