7国同盟
「やっぱり違うな、ここの規模は」
シルバード王国最大の要塞、名をガレリアと言う。我が国の最終防衛ラインであり、後ろには王都を包む城壁しかない。
維持費が高そう、そんな言葉がまず頭に浮かぶ。次は俺ならどう攻め落とす? 染み付いた習性が顔を出した。
兵糧攻めは駄目だ、ありきたり過ぎる。仮にも俺は、戦場で生計を立てる一族の者。花のある落とし方を求めた。
(例えばそうだな、城門を一刀両断するとか?)
妄想。思わず鼻で笑ってしまった。
(英雄を憧れるガキかよ?)
出来るわけがない、特に俺では。
さして大きくもない手足。歳の割に背は大きいだろうが、大きめ程度で留まる。
(そういう意味では羨ましいのかもな? 自分の中では切り捨てた、決して届かぬ英雄願望を)
我らは、生まれた時から敗者である。
強者と名乗れるのは、空を支配する龍、それを撃ち落とし、生き血を啜った1人のみ。
捨て石として生息しろ。そして蓄えるのだ。時代に残す、黒龍と同じ呪いの力を。
狂戦士が操る呪い、その根底がこれだ。呪いが強まれば、いずれ辿り着く言葉であり、我らが果たす宿願。
「準備は幾らしても足りない。それでも心を満たし、補ってくれるのは1つだけだ」
龍との激突を控えて欲しい物がある。これに関しては必須ではない。だがずっと望んでいた。
錆びようが問題ない。どんな悪臭でも、使えば激痛が奔る呪いの武器でも構わない。
壊れない武器を俺は渇望する。
「普通の剣も振れるんだけどね」
至高の領域にたどり着いた武芸者は、最高の武器でなければ全力が出せないと聞く。
剣を振ったら留め具が外れ、槍を振れば穂先が飛んでいく。俺の場合は、文字通り壊れる。
武芸家の主戦場。一対一の戦いは俺に相応しくない。俺が居るのは、何百、何千、何万。命が潰れ合う戦場。そこでは、武器の切れ味より武具の耐久性が重視される。
(違うな)
俺の悪癖。狂戦士の矜持に己の弱さを隠す。
父と旅をしていた時のことだ。
「あ」
「どうしたグラム?」
街へ向かう道中、魔物が現れた。俺は数分と掛からず、仕留める。
問題なのは、戦いで剣が欠けた事。急ぎ剣を鞘に納刀。父に見つからぬよう隠した。
「なんでもない」
「俺は見てたぞグラム、剣が欠けたな」
俯き、足で土をいじる。
この剣は父に買って貰ったものだ。 正直怒られると思った。普通の親は物を壊したら怒る、本で読んだから。
「何で隠すんだグラム? お前ならわかってる筈だ。どんなに手入れをしても、壊れる時は壊れる。そして命のやり取りでは、武器が劣った方が不利となる。俺はお前が命の危機に晒されるのは嫌だ。だから壊れたら言え、直ぐに買ってやる。予備も一緒にだ」
「わかってる……わかっ……てる」
「あ〜〜泣くなよ」
涙を盾に父にからの追求を防ぐ。案の定、彼は困った顔をする。出来たことは俺の頭を撫でるだけ。
嘘泣きではない。幸運にも隠せた真意を、彼が聞いたら怒っただろうか?
確かに俺は狂戦士だ。血も涙もない残虐性の塊。それでも武器に愛着はあった。特に、先ほど欠けた剣には思い入れがある。
(父さんから貰った剣だから)
壊れる剣は嫌いだ。
戦場で生き抜くには良い武器が必要。そして良い剣は、手入れをすれば長く使える。つまり情が湧くのだ。
俺最大の弱点は喪失に耐えられないこと。
皆、俺より壊れやすいから。
他の狂戦士すら比べるまでもない。それだけ俺の、ーーーーは次元が違うから。
*
この要塞に来たのは、王命が関係している。事情を理解していれば、現れないという選択肢はない。
階段の突き当りにある、会議室に向かう。
「入りますよ〜〜。ハルトマン将軍、仕事熱心ですねぇ」
背中を丸める、だらしない敬礼。
部屋の奥に座っていた老人。彼は俺の姿勢を認識するより、まず声に反応した。姿を見ずに机を叩く。そして勢いよく立ち上がった。
「誰だお前は!!……いつもと違って萎れてるな。どうした?」
白髪の老人は、俺を見ると怒気を収めた。急ぎ駆け寄るとソファーに案内、来客用の茶とお菓子を出してくれる。
老人の性格は知っていた。
厳格、真面目。同じような言葉が続いたが、そうとしか表せない責任感が強い男。
彼が怒りを飲み込む理由。それは俺と彼の役職が同じだから。そして俺が意思を曲げ、現れたからだろう。
「ちょっとナイーブで。ほら、人間は一定周期でそうなるでしょ?」
「その言い分が有効なのは女性だけだ。とにかく王命通り来てくれたのを感謝する」
彼は頭を下げる。
「将軍なのに腰が低いな。ほらもっと偉そうに、それも仕事でしょ?」
「良いんだ。引きどころを間違えた老兵。新兵を怯えさせないよう、穏やかでいかないと。それとは別に礼儀は求めるが」
「今回は見逃してくれ。それにアンタは引き際を間違っちゃいないよ。そもそも退陣する場面がなかっただけだろ」
「そう言ってくれるとありがたい。本当にガイルは良い引き方をしたよ」
「真面目だねぇ」
ホッとした彼。呆れる俺。
互いに一息ついた時だ、ドアがノックされる。
「ハルトマン将軍。ジークです」
「入れ。グラム将軍、時間のようだ」
「メンド」
ソファーに背を預け、目を瞑る。抵抗の意味を表す、駄々っ子を敢行した。
「着崩したままでいい。だが仕事だ」
顔に出来たシワ。長年軍人を続け、生まれた雰囲気。睨まれただけ、それなのに只管に怖い。
「こわ。はいはい、シゴトシゴト」
肩に被せていた軍服に袖を通し、ボタンを止めて行く。最後に背筋を伸ばし、立ち上がった。
俺のやる気がない理由。それは政治に関わるから。
これまではルドラ様に全てを押し付けてきた。最近はアレイスターにもか。
俺はあくまで雇われ将軍。つまり傭兵だ。これから先も将軍として、政治に関わるつもりはなかった。
(今回は王、そしてルドラ様にも頭を下げられた。そこまでされたら俺も応えないとな)
龍討伐に関しては、待ちの期間に入っている。時間稼ぎも兼ね、乗ってやるとしよう。
「始まるぞ」
「ハルトマン、喋らなくていいんだよな?」
「問題ない。ただ声を出せとは言われるかもしれないがな」
「それくらいなら……まぁ?」
「はっきりせんか」
次の瞬間、複数の男女が壁に映し出される。転写魔法。離れた位置の景色を映す魔法だ。
そして映し出されるのは、王の間で行われる会談。反対に王の間では、俺達がいる部屋が映し出されている。
何故俺達が映し出されるか? シルバード王国が有する2大将軍。彼らの所在を顕にすること。それが会談を行なう為の条件だったから。
王の間にいる彼らの正体は、法国、帝国を除く、大陸に国を構える最高権力者達。
「では始めよう。ハルトマン、グラム。両将軍、彼らの質問に答えるように」
「「は」」
俺達は胸を張り前に出る。
(くっだらね。シルバード王国で行われる会談。それに応じる条件は将軍の監視だが、部下を使えばいくらでも事は起こせるのにな。一体この条件を出したのはどこの神輿だ?)
ここまでする意味。それは国王が悩んでいた帝国への対抗手段に関係しているからだ。
名を7国同盟。
単独国家で、帝国を止めるのは不可能。だから協力し合いましょう、それを締結させる為の会談。
我が国は大陸3位の力を持つ。本来であれば強気に出れる所。
(王自らが頭を下げ頼のんだのだ。政治をするにしても、足元は見ないだろうな)
こうして会談が始まった。




