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龍を落とす、狩人の手



 アレイスターから、今後どうするかを聞きたかった。


 扉を開き家に入る。玄関には荷物が積まれており、テストの結果を表している。


「レイ、アレイスターは?」


 旅立ちの準備を手伝っていた、彼女に声を掛けた。 


 彼女はコップに息を吹きかけ、熱さを飛ばしている。口につけると「アチ」という声を上げた。

 

 何をしてるんだ、と目を向ける。彼女はコップを背中に隠し。


「これは彼がくれたハーブティーですよ。引っ越しの手伝いをしてくれたお礼だって」

「取らないから」


 コップの中身が熱い事から、彼が家を出て、殆ど時間は経っていない。


「何か言ってたか?」

「聞きたい事があるらしいです。それと頼みが1つあると」


 俺が来るのに合わせ、外に出たか。


 理想の高い男だ。決めた場所で話を詰めたい。候補としては訓練場。そこにある父の墓標か。


 それとレイには聞かせられない話。アレイスターは感じ取ったか?

 

「じゃ、行ってくる。レイは来ないのか?」

「私だって時と場は選びますよ。それに私が来たいと言っても、グラムは止めるでしょ? 聞かせられないって」


 彼女は目を細めた。そして冷ましたコップに向かい、口を尖らせ息を吹きかける。


「不貞腐れるな。やること無いだろ? 先に帰っても良いぞ」


 笑いながら彼女を挑発。それを受け、レイは舌を出す。


「嫌です。意地でも待ってるので」

「そうか。じゃ、行ってくる」


 俺は家の外に出る。そして扉越しに。


「ここに戻らず、置いて帰ろう」


 ガタンと、家の中で音がした。


「グラム〜〜」


 唸るような声が聞こえる。揶揄われた事に気付いたようだ。


「はははは。バーカ。アレイスターの荷物があるんだ、戻ってくるよ」


 俺は走り出し、言葉だけを残す。後が怖いが、これはこれで楽しいのだ。


 森にある訓練場に向かった。彼は変わらず、丸太椅子に座っている。


「待たせたな。で、聞きたいことって?」

「お前が俺に与えてくれる獲物。その話しをしてくれ」


 今までの優しげな顔ではない。血が通った、野生の表情だ。


 アレイスターは訓練用の弓を取る。矢を構え、的に向かって放つ。矢は的の中央を通り、後方にある木へ飛んでいく。見事命中、一撃で木を開通する。今までの努力が、背後の景色として現れた。


「待たせたな将軍。ゲン担ぎには丁度いいだろ」

「ゲン担ぎて、お前」


 目を手で覆う。このタイミングで木が貫通。偶然か? 違うだろ。しかし彼が言ったよう、ゲン担ぎには丁度いいか。


「ニクス帝国に住む夫婦龍の討伐を、手伝って欲しい」

「出来たら最高だな。確実に名を刻む」

「歴史書にはこう書かれる筈だ。将軍グラムが副官アレイスターを引き連れ、龍の討伐に挑み討ち取ったと」


 再度矢を構えた、彼の呼吸が乱れる。そして彼がこちらに向くのに合わせて俺は言う。 


 興奮する彼に対して俺は冷静だ。今まではアレイスターからグラムへの試練。今回はその逆。


「アレイスター。このプレッシャーで弓を正確に撃てるか?」


 黒いオーラを身に纏い、彼を睨みつけた。


 一流の狩人でも手が震え、狙った所には矢が飛ばない。遠距離、そして精神力が重要な魔法使い、彼らの天敵、それこそが狂戦士だ。


 しかし、彼に動揺はない。指先で俺の右肩を示す。矢を放ち、指定の場所を射抜いた。


「出来るさ、この程度なら。ここからは俺のお願いだ。お前の本気を見せてくれグラム。それを持って問の答えとしよう」


 こんな試験じゃ物足りない。彼は突っぱねてきやがった。


「いいだろう」


 目を瞑り、体の中から呪いを引き出す。俺が本気を出したのは、アドラ戦以来。


 あの時は全てが崩され掛けた。


 鈍り、本気が出せない状況。アドラの使った奇策、後方への攻撃は起死回生では無かったが、あの時の俺では対処出来なかった。

 

 無我夢中で走った。感情に身を任せ、枷を引き千切る。そして出せたのが鬼化の先。狂戦士の最終奥義、呪化。


「だが悪いなアレイスター。全てを見せる訳にはいかない」


 俺の容姿にさしたる変化はない。あったとしても目の部分だ。白目のそれが黒く変色している。最大の変化は、俺が纏う呪い、黒いオーラに紫が混ざっている。


「矢を射ってみろ」

「わかった」


 俺の肩に矢を放つ。しかし、纏っている呪いには実体があり、矢を防いでしまう。


「これが呪化だ。狂戦士が呪いとより深く繋がった姿。覚えておけアレイスター。黒龍は常に、これを纏っている。お前の役割をこれをぶち抜くこと。呪いの隙間に矢を通せ。そして俺はーーーーーー」


 聞き、アレイスターは口を開け、唖然とする。


「は? それがお前のいう帝国に勝つ方法? 白龍をどうするんだと思っていたが、なるほどなるほど。なんだよお前、俺よりよっぽど強欲じゃないか?」

 

 彼は腹を抱えて笑う。

 

「それにだ、他人に厳しい? 自分に一番厳しいだろ」

「他人を信じるより、自分を信じる方が簡単だ。だから俺が怖いのは、アレイスターがミスらないかどうかだよ」


 俺は彼に手を伸ばす。歓迎するような笑みではない。覚悟を問うような、全力の威圧を彼に送る。


「お前は、俺の覇道に付き合うか?」


 アレイスターの額から汗が流れる。手は震えており、満足に伸ばせない。それでも野心溢れる目は輝いていた。


「付き合うさ。伝説を作るんだ、道を俺に作らせろ」


 こうして準備は終わった。

 

 後は時を待つのみ。我が国シルバード王国ではない。帝国の準備が整うのを。


 

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