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狼そらたん

蒼空に送ってもらったその日から、椿の女王さまの仮面は少しずつ綻びをみせていた。

「落ち着け、椿...」

車に乗れば、まざまざとここに蒼空が座っていた事が思い出され、シートに座れば蒼空の上に座っているような気分になり、ルームミラーを見ればチークではない血色でピンク色で...。


ハンドルを握れば手を握ったような気分になってしまう。

何となくふんわりと匂いすら残っている気がして、思わずぎゅっと自分を抱きしめてしまう。


単なる水をバックから取り出して飲み落ち着かせてようやくエンジンをかける。

何とか心を無にして、会社まで着いた事に安堵の息を吐く。


なのに、仕事中にもちらちらと蒼空を眺めては、そのふわふわの髪の毛だとか滑らかな頬や茶色の瞳やら、可愛い笑顔やらを逐一見つめてしまうのだ。

だから、目が合う。そんな事が増えるのだ、合えばつい焦って自然な風を装ってそらせる。

時おり近くに寄ってくる彼に、ピクリと反応する。

つまりは、“どうみてもおかしい”椿なのだった。


そんなある日の仕事中。


「佐塚さん~、ここ、計算間違ってるよ?柱足りないみたいなんだけど~」

おっとりとした声で蒼空が呼んでいる。

「え?」

椿はカツカツとヒールの音をさせてモデルウォーキングのように蒼空に近づいた。

ここ、と示された図面をみて、そしてぞわっと青くなる。


「直せる?」

「やりなおします」

クールに言いはなった椿だけれど、それはかなり修正に時間がかかる。


(そらたんが、可愛すぎるから...ボケちゃったのかっ!)


バカっと心で罵る椿だけれど、端からみればクールビューティな椿は遠巻きに恐れられていた。そしてその見た目通り猛然と仕事へと立ち向かった。


・♪・♪・♪・♪・♪


そして、そして修正を終えてみればすでに外はとっぷりと暮れていて、辺りを見てみれば部署には蒼空と椿の二人きり。


「ん、よく直せたねぇ」

おっとりと言う彼はやはり可愛くてキュンとする。


(きゅっと抱き締めたい)

「珍しいミスだったね?」

「すみません」

思わず出たのはいつものように冷淡な声だった。

少しハスキーな声は、可愛いげもない。


そんな椿の前に立ち、少しばかり見上げる姿になった蒼空は


「ね...時々ボクの事見てるよね?ボクのこと好きなの?椿」


見ていた事と、そして『好きなの?』といいことを言い当てられて、動揺しつつ立ち尽くせば、ふわふわの子犬さんみたいな蒼空は、今はまるで獰猛な狼のような顔で椿を見ている。


「口、開いてるけど食べていいってこと?」

さっきの言葉のすべてに呆然としていた椿はポカンと口が開いていたらしい。


「食べる?」


「椿ってさ、しょじょちゃんでしょ?」

そのストレートな言い回しにドキンとしてしまう。


かぷりと噛みつくような、口づけが、食むように下の角度から襲いかかり、椿は戸惑った。


(そらたんが...まさか狼さんだなんて!)


正しくそんな表現が似合うようなそんな、そんな雰囲気なのだ!


思わず後ずさって壁に追い詰められた椿を、さらに蒼空は追い詰める。


「舌、出してホラ」

そんな風に、少し気弱な可愛い仮面をかなぐり捨てた蒼空は赤い舌をちろりと出して、椿の唇をこじ開けた。


「言うこと聞けないの?うん?」

「だ、誰なの?」


ふわふわの、にこにこのそらたん、じゃない!


「いつものヤサシイ君の上司だけど?」


器用な指先は、いつの間にかブラウスのボタンを外していき、目線を下にやればフランス製の下着が覗いてる。

「さすがお嬢さまは素敵な下着だね」

ピンクに黒のレースのお揃いのキャミソールとそれからブラ。


「でもさ、ここは誰かに見せたことある?」

尖った犬歯の覗かせて、上目で見つめつつ、蒼空は艶然と笑みを浮かべ、これ見よがしにその歯で下着をずらして胸元を顕にした。


「舌って、エロくない?」

蒼空は、酷く淫らで、その彼の蠢く赤い舌と同じ色に染まっていくその箇所を、椿は声を堪えて見下ろしていた。


「ど?」

「エ、エロいです..」


「椿、ボクの言うこと聞けるよね?舌を出してみ?」


唇を半開きにして舌を出してみれば、それだけで淫らな気持ちになる...。

「いいコだね、いいコにはご褒美があるんだよ」

ニコッと無邪気に微笑む。

その舌に絡めるように、蒼空のその淫らな舌が絡み付いてくる。


大きな水音をたてて蹂躙してくる蒼空のキスは濃厚に続けられて、椿の膝はガクガクと震えた。

蒼空の唇が、椿の唇に触れている、それだけで倒れそうなのに淫らな動きをされて気を失いそうだった。


「かわいいね、感じてくれた?」

蒼空はそういうと、一度唇を離して椿を椅子に座らせた。

微笑む蒼空の瞳は、薄い色と相まってキラリと光って見える。

「足をそこにおいて」

「えっ?」

戸惑う椿に蒼空はもう一度、命令してきた。


椿の長い脚にそのしなやかな手が伸びてぞくりとしてしまう。

(そらたんも...違う顔を持ってたんだ...)


経験のない椿には聞くだけで恥ずかしい言葉を次々と囁きつつ、その獰猛な一面を見せつけた蒼空は、戸惑う椿をあっけなく支配してそして身も心も奪ってしまった。


まさしくあっという間に食べ尽くしてしまった。


・♪・♪・♪・♪・


「な、なんで...こんな所で」

こんな所。つまりは会社で。


「ごめんね?でも、椿って表側Sだけど、絶対Mだって思ってさ...。現に燃えてたでしょ?」

(知らない!知らない!Mなんて、それにSってなによ燃えてたって、何よ!)


「...さっさと、私の服を直しなさいよ!気が利かないわね!」


さっきまでの、恥ずかしさに思わずそんな言葉が出てしまう。

単にあまりの展開に動けないのだけれど...。

「あー、そうだね。可愛い椿♪」

「荷物も持って、私を送りなさいよ」


「送っていいの~?」

(運転する自信ないからよ!)


にこにこと普段の笑みを浮かべて、

「もう一回食べていいってこと?」

ニヤリと狼の顔を見せた。


「...ついてきなさいよ、グズグズしないで」


そんな椿ににこにこと蒼空は歩き出す。

「もっと、エッチな椿。見させてもらうからね」

小さく呟くとクスクスと蒼空は笑って後ろからついてくる。


カツカツと歩こうとして、行為の後遺症でかくんとなる。


「大丈夫?ちゃんとつかまって」

横に立った蒼空が脇を支える。


「最初からそうしなさいって」

「椿、後で今日ちゃんと出来たごほうびやるから、そんときは尻尾ふっておねだりしてみ?」

耳元で囁かれて、椿はその可愛い顔を見おろした。


「ん?」

「お、おねだり?」

(おねだりとか、し、しっぽとかなんなのよ!それは...!)

「それはまたボクが教えてあげるね」

にこにこと微笑まれて、顔を赤らめてしまった。


(狼さんのそらたんも...すてき、かも)

そんな、風に思ってしまう椿はやはり変○かも知れない。

お読み下さりありがとうございました(*^^*)


蒼空がやっぱり変◯さんなので...、もし続きを書くならムーンライトの方かなと思いますので、馴れ初め編としてここで完結にしたいと思います(^-^;)

ムーンライトの方の短編をお読みくださった方はすみません、内容がほとんど同じです。

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