誕生会
「千鶴ちゃん、お誕生日おめでとうー!」
みんなが一斉に祝福の声をあげると、千鶴はケーキの上に並んだロウソクをじっと見つめ、小さな胸いっぱいに息を吸い込んで吹きかけた。
一度では消しきれなかったものの、一生懸命に息継ぎをして、7本すべての炎を見事に消してみせた。
――パチパチパチッ!
部屋中に温かな拍手が鳴り響く。
「やったー! やっとケーキが食べられる!」
「雪乃ちゃん、さっきクリーム盗み食いしてましたよね!?」
「舐めただけだってばー!」
「ふふ、慌てなくても大丈夫ですよ。もう一ホール用意してありますからね」
言い争う雪乃と咲愛の声を優しくなだめるように、千里が微笑みながら声をかけた。
「まさか、この状況でこんなに本格的なケーキが食べられるなんて思いませんでしたわ。千里さんは本当にお料理がお上手ですわね。私も教えていただきたいです」
「まあ、ぜひいらしてくださいな。良子さんとは年齢も近いですし、私もお友達になりたかったの」
「私もですわ。こんな世界になってしまっては、気兼ねなく心を許せるご友人を作るのも一苦労ですから……」
千里と良子。年格好も近く、共に育ちの良さを感じさせる二人は、とても気が合いそうに和やかに言葉を交わしていた。
「それにしてもケーキ美味しい〜! いいなぁ、冬子ちゃんも奈緒ちゃんも太らなさそうで……」
「そんなことないよ。最近は運動の練習もできてないから、体が重くて……」
「私は単に体質ですね。雪と同じものを食べても、なぜか私は身にならないのです。そういう陽葵さんもかなり細いではありませんか」
「私はね、ずっと配送事務所と車に避難していたから1日1食だったんだよね。ダイエットになったけど!」
雪乃と奈緒は同室ということもあって仲が良いが、冬子と奈緒がこうして話している姿はあまり見たことがなかった。陽葵という明るい潤滑油を挟むことで、三人で楽しそうに和気あいあいと盛り上がっている。
「そう言えば、陽葵さんのご実家は電気屋さんでしたよね?」
「うん、正確には電気工事屋さんだけどね」
「電気工事……! ひょっとして陽葵さん、電気系統の配線とかもできたりしますか?」
「お父さんの仕事をずっと見てたから、家庭用の配線くらいなら分かるよ」
「実はですね……このマンションには至る所に監視カメラが設置されているのですが、防犯の都合上、現在は1階から4階の電気を落としているのです。なんとかカメラだけを単独で稼働させられないでしょうか?」
「う〜ん、材料と道具はお父さんのものが残ってるからできると思うけど……できれば建物の配線図がほしいかな」
「確か前の所有者が、登記書類と一緒に建物の図面を保管してあったのを見た気がします。ぜひともよろしくお願いします!」
前々から防犯カメラをなんとか復旧できないかと考えていただけに、陽葵が電気関係に強いというのは実に頼もしい発見だった。
一方、今日の主役である千鶴はというと、すっかり僕の膝の上に収まっていた。ときおり頭を優しく撫でてやると、顔を上げて僕を見つめ、嬉しそうに微笑む。その仕草がたまらなく愛らしかった。
「千鶴、何か欲しいものとか、やってみたいことはあるかい?」
「……海が見たい!」
「海?」
思わず問い返してしまった。そんなささやかな願いでいいのだろうか。
この街自体は海に接していないが、隣のK市まで脚を延ばせば海岸も港も広がっている。
「それなら……明日はK市に海を見に行こうか!」
「ほんとに!? 海、行きたい!」
「K市ですか……! それなら、私もお供させてください。明星大学と明光医科学研究所を一度この目で確かめておきたいですから」
冬子が即座に反応した。すると、隣にいた奈緒が目を丸くする。
「えっ、明星大学ですか!? 私の通っている大学なんですけど!」
「そうだったね。K市でスポーツ強豪校といえば明星大学だし、奈緒が在学しているのはごく自然なことか」
「えええっ、私もK市に行きたい! どこかのお店でお洋服とか手に入らないかなぁ!」
「私も日用品や新しい服が欲しいので、連れて行ってください! ミニバンの運転なら私がやりますから!」
雪乃と陽葵も身を乗り出して賛同した。咲愛に視線を送ると、「千鶴が行くなら、私がついて行くのは当然でしょ」と言いたげに、コクンと力強く首を振った。
みんなの楽しそうな顔を見ているうちに、僕もすっかり全員で賑やかに出かけたい気分になってきた。
「千里さんも、お買い物に行きたがっていましたよね? 良かったら一緒に行きませんか?」
「まあ、よろしいのですか? それでしたら、お弁当でもお作りいたしますわ」
千里も参加決定だ。残るは良子だが、彼女は白心病院の責任者という立場があるため難しいかと思いつつ、一応声をかけてみる。
「良子はどうする? 明星大学や明智さんの研究所に行くなら、良子がいてくれるとすごく助かるんだけど……」
「そうですね……単なる遊びだけならお受けできませんけれど、そういう目的があるのなら……明日の朝に施設へ一度立ち寄って指示を出し、夕方には戻る形で調整してみます」
「よし! それなら明日はみんなで出かけよう!」
「やったぁー! お出かけ、すっごく楽しみ!」
僕が宣言すると、部屋中に歓声が上がり、みんな本当に嬉しそうな笑顔を弾けさせていた。
ミッドナイトノベルにて、追加の閑話、イメージ画像有
投稿もそちら優先で行っております




