第32話
「だから、あの時も、
身を挺して、私をジークの元に送ろうとしたのね……。
でも、こちらに戻ってきてからのジークの……、
あなたに対する態度は、明らかに変わったわ」
「!?」
「だから、戸惑っているのでしょう?」
「……、シャル、私は本当に応援していたのだ……」
「もう、無理に偽って、自分を苦しめるのは、おやめなさい」
静かに、しかし、決然と、シャルロッテはアビゲイルに言った。
「もう私達も、ジークも、皆、17歳よ。
一気に大人びたジークだけれど、
一番、“乙女”のまま、純粋なのは、
ある意味で、ジークなのかもしれないけれど」
「確かに、初めて会った時のジークは、
まさに“乙女”、
いや、“深窓の令嬢”だったな」
「フフフ、あの大人しい、おチビちゃんが、私達のお相手の帝国皇太子殿下だなんて、当時は全くわからなかったわよね」
「でも、最初に気づいたのは、シャルだったのだ」
「あなたは、距離が近すぎて、かえって気づきにくかったのかもしれないわね。
あの頃のジークは、あなたの親友に惹かれていたようだし」
「ええ、そうなのか?
まったく気づいていなかったのだ。
やはり、シャルはすごいのだ……」
「どちらかと言うと、あなた達3人よりは、少し距離があって、俯瞰して見ることができたからかもしれないわ。
それが自分でも嫌だったの。
けれど、今も変わらないみたい。
だから、私も変わろうと思って、もう隠すのはやめたの」
ここで、一旦、話をやめ、真剣にアビゲイルを見つめるシャルロッテ。
「シャ、シャル……」
「だから、あなたも……。
そもそも、素直なあなたにジークは惹かれたと思うの」
「…………わかったのだ。
シャル、お前には負けないのだ!」
多分、どちらも負けないと思ったシャルロッテだったが、それは口にはしなかった。
なお、シャルロッテがもらった筆箱の蓋の内側には、ジークフリートの手で短い献辞が刻まれていた。
“君の筆が、女神様が遣い給うた、この世界に、新たな美を加えんことを……”




