第0.1話
「フリーデ! 相変わらず、どうしてお前は、着替えの度に、顔を真っ赤にするのだ?」
来月、11歳になるアビゲイルは、見習い侍女に尋ねる。この質問は、見習い侍女が着替えを手伝うようになった半年前から、何度も繰り返してきた。
しかし、いつも要領を得ない返事をする見習い侍女。
この見習い侍女は、帝国の大貴族ブラウンシュヴァイク大公家の傍系出身。
爵位はないが、ブラウンシュヴァイクの家名を名乗ることは許された由緒ある家の子女であり、礼儀正しく、こちらが望むことは、口に出す前から対応できる、とても機転の利く少女であった。
出会った当初は、どこか元気がなく、誰にも心を開かない様子だったが、程なく、母とアビゲイルには明るい表情を示すようになってきた。
同い年だが、まだまだ幼い、この小さな少女のことを、アビゲイルは妹のように世話を焼いていた。
双子の姉のシャルロッテからは、世話をしてもらう立場で、世話を焼くことはないと、よく言われるのだが、自分とは違い聡慧な少女である姉は、同い年だが、文字通りに姉と実感しているアビゲイル。
そんなアビゲイルにとって、この小さな少女は、いまや自らの庇護欲を満足させる、とても大切な存在であった。
なんと言っても、この見習い侍女は、日々生傷が絶えないのだ。
見習い侍女にもかかわらず、母親の護衛騎士長に剣術修行を受けているためであり、アビゲイルの朝は、まずは、この彼女の修行で受けた傷を、自らの癒しの権能で治すことが日課となっていた。
その後、見習い侍女に自らの着替えを手伝ってもらうのだが、いつまで経っても、赤面するのだ。
ちなみに、姉のシャルロッテは、決して、この見習い侍女に着替えを手伝わせない。
アビゲイルと同様に、誰とでも分け隔てなく接するシャルロッテが、唯一、距離を取っているのが、この見習い侍女であった。
シャルロッテに訳を尋ねても、なぜかはっきりしない。
母に相談しても、気にしなくても良いと言われ、まあ、そのうち、自分と同じように仲良くなるはずと思っていたのだが、未だに状況に変化がない。
どうして、こんなに良い子なのに、と不思議に思っているアビゲイルであった。
なお、シャルロッテは、この侍女のことを、唯一、“ジーギ”と呼ぶ。
この見習い侍女の名は、ジークフリーデであり、愛称としては、“ジーギ”でも、“フリーデ”でも、どちらでも問題ないのだが、男の子にも用いるような中性的な響きの“ジーギ”よりも、この可愛い少女には、“フリーデ”の方が絶対に良いと確信しているのだが……。
何度言っても、シャルロッテは、頑なに“ジーギ”と呼び続けるのだ。そうでなければ、“おチビちゃん”である。
確かに、最近、アビゲイルとシャルロッテは、女性らしく成長し始め、背も伸び、少しは胸も膨らんできた。
未だに、幼女体形の見習い侍女と比較すると、確かに“おチビちゃん”だが、それでは、かわいそうだと言っているのだが……。
他人を揶揄うことなどないシャルロッテには、珍しく、これも改めようとしないのだ。




