第25話 開戦、筋肉は進む
角笛が鳴り響いた瞬間、世界は一変した。
静止していた空気が裂け、次の瞬間には怒号と衝突音が戦場を埋め尽くす。
人間軍と魔王軍。
両軍が、正面から激突した。
最前線。
フィオナたちの小隊も、すでに戦闘に入っていた。
剣が交わる。
魔法が炸裂する。
だが――
「っ……!」
フィオナが、わずかに目を見開いた。
違う。
これまでの敵とは、明らかに違う。
一人一人が強い。
連携も、練度も高い。
ただの兵ではない。
「……精鋭か」
低く呟く。
シエルが、すでに背後へ回り込んでいる。
ナイフが一閃。
だが――
ガキン。
止められる。
「……硬い」
セリアーナが補助魔法を展開する。
「強化、重ねます!」
光が走る。
フィオナが踏み込む。
キィンッ!!
剣がぶつかる。
押し込む。
だが――
(重い……!)
単純な力でも、拮抗している。
その時だった。
横で、竹助が歩いている。
戦場の中を。
まるで、何もないかのように。
敵が――
避けている。
誰一人として、近づかない。
攻撃すら、しない。
不自然なほどに。
フィオナは、一瞬で理解した。
「……そういうことか」
一歩、下がる。
「竹助」
振り向かずに言う。
「先に行け」
一拍。
「魔王は――お前を待っているようだ」
竹助は、わずかに頷いた。
「了解した」
それだけ言うと。
そのまま、前へ進む。
誰にも止められず。
誰にも触れられず。
ただ、進む。
その背中を見送りながら。
フィオナは剣を握り直した。
「……ここからが本番だ」
※
戦場各所。
戦いは、すでに激化していた。
フィオナたちの小隊も、敵を次々と撃破していく。
だが。
簡単ではない。
一人倒すごとに、確実に消耗していく。
シエルが舌打ちする。
「数が減らない……!」
セリアーナが、必死に魔力を回す。
「回復、間に合って……!」
押し返している。
だが――押し切れない。
そして。
戦場の空気が、変わった。
※
中央戦線。
それは、行進だった。
ゆっくりと。
だが確実に、前へ進む存在。
メギストラ。
長い紫黒の髪を揺らしながら、静かに歩く。
その周囲だけ、空間が歪んでいる。
圧倒的な魔力。
理そのものを押し付けるような支配。
「……なんだ、あれ……」
冒険者が、震える声で呟く。
次の瞬間。
ドンッ――
何も見えない。
だが。
人が、吹き飛ぶ。
騎士が、崩れる。
トロールが、膝をつく。
ただ歩いているだけで、戦線が崩れていく。
「つ、強すぎる……!」
「これが……四天王……!」
誰かが、絶望混じりに叫ぶ。
そして、誰かが呟いた。
「こんなやつらを……あの筋肉は……」
言葉が、続かない。
※
別戦線。
ガルド。
ザッコス。
トロール王。
それぞれ別の小隊に所属しながらも、近い距離で戦っている。
ガルドが敵を吹き飛ばす。
「止まるな!!」
ザッコスが踏み込む。
「抜けるぞ!!」
トロール王が拳を振るう。
ドゴォン!!
敵が、弾け飛ぶ。
強い。
確実に、押している場面もある。
だが。
「……おかしい」
ザッコスが眉をひそめる。
敵の動きが、変わる。
こちらが押した瞬間、引く。
弱点を突こうとすると、すでに配置が変わっている。
「配置が……速すぎる」
ガルドが低く言う。
「指揮官がいる」
トロール王が、低く唸る。
戦場全体が、意志を持って動いているかのようだった。
一部では押している。
だが、全体では押されている。
じわじわと。
確実に。
※
前線奥。
その中を。
竹助は、進んでいた。
戦いの中心へ。
誰も、止めない。
止められない。
ただ。
道が、開いていく。
筋肉が。
戦場を、割っていく。
その先にいる存在へ向かって。
ただ、真っ直ぐに。
進む。




