第1章 第23話 アパレルスタジオ N&S その3
舞が注文した服が、どれだけのものかが描かれているの。
作者はあまり服に詳しくないから、その点はご容赦願いたいらしいの。
「あ、戻ってきたわね。こんな感じになるのだけれども、どうかしら?」
戻ってきた俺たちを待っていたのは、ドレスをまとった舞であった。
その圧倒的な美に、圧倒される。
ベースとなっている色は、紫。
着こなすのが非常に難しいことで知られているが、彼女のために作られたとしか言いようがない出来であり、完璧な仕上がりである。
レースのアクセント、シルバーのパーツ、ビーズのアクセントなどの相乗効果で、まさに「女王」と評するべき衣装となっていた。
ファッションショーで見られる、奇抜なデザインの服とは比べ物にならない、「本物」だけがもつオーラに満ちている。
「これが私たちのお店、アパレルスタジオ N&Sの本気でございます。いかがでしょう」
正直、あのコスプレでこの店のレベルの高さは十分理解していた。
しかし、本気になったこの店のスペックは、予想をはるかに超えている。
そもそも「藤花」である彼女ならば、最上級のものを揃えるのがステータスであろう。
その彼女が有名ブランドではなく、あえてこの店を選んだ理由が分かったような気がする。
また、他の面々も高級感があり、それでいながら華美になりすぎない服装をしていた。
恐らくドレスコードのある店であったとしても、余裕でクリアできるだろう。
明、漣、みかんも素晴らしいとしか言いようがないが、注目すべきは奏である。
メイクにより表情が明るくなっており、美しい顔立ちがよく引き出されている。
メガネもその容姿を損ねることなく、絶妙にマッチした装いとなっていた。
「正直、俺たちでは釣り合う服を探すのが難しい。店員に任せられないだろうか?」
「僕も。みんな綺麗すぎて、気後れしそうだから」
既製品のところから、何着か用意してもらう。
試着室であてがってみたが、どれでも良く似合いそうだ。
「俺は、この服を選ぶことにしたから」
黒のジャケットと、スラックス。
内側には白のシャツを着ており、かなりきちんとした服装だ。
「僕は……これにする!」
結希が選んだのは、少しクリーム色をしたジャケットに、グレーのスラックス。
内側のシャツは俺と同じく、白いものであった。
「あれ? そういえば、一人足りないような……?」
結希の疑問は、すぐに解消されることになった。
「これ、ピッタリなの! めあ、これがいいの!」
試着室から出てきためあの服装に、全員が注目する。
そこにいたのは「アリス」としか言いようがない存在であった。
水色のエプロンドレスに、フリルのついたスカート。
それこそ挿絵からそのまま出てきたような、見事なコスプレであった。
「めあちゃん……さすがにその格好で、外を歩くのはどうかと思うわよ?」
舞がたしなめる。
まあ、舞もこの格好で外に出たら、大変なことになるのは間違いないだろうが。
「これは良い。永久保存したい」
「店長、スタジオを借りてよろしいですか? 動画で保存したいです!」
二人の店員が、息を荒立てる。
ある意味、似たような感性を持っているのかもしれない。
「舞様が着替えている間なら、よろしいかと。また、普段着を選んでからスタジオを使うように。いいわね?」
「「了解!」」
めあに服を選ばせて、二人は半ば引きずるようにスタジオに向かっていった。
あまりのテンポの良さに、誰も手出しできない。
「申し訳ございません。二人とも、普段はもう少し落ち着いているのですが」
「別にいいわよ。私でも、あの姿を見てとても似合うと思ったし」
舞の方は、残る店員によって着替えを行うようだ。
ゆっくりでいいという指示から、めあの動画を楽しみにしていることが分かる。
交渉の末、めあの動画はスタジオの宣伝に使うこと、めあにもアルバイト代が支払われること、動画のコピーは舞も所持することが決まった。
「それでは、そろそろホテルに向かうことにするわよ。人数が読めなかったから、今回はビジネスホテルになるけれども、良いかしら?」
舞の提案は、少し予想外であった。
少し考え、全員が賛成する。
今の段階でもかなり「甘えている」のは間違いなく、その上高級ホテルというのは分不相応だと考えたようだ。
さすがに疲れがたまっており、プライベートな空間でゆっくりしたいという思いも加わったようである。
「夕食は、注文するなり途中のコンビニで買うなりしてね。その代わり、朝はビュッフェスタイルだから」
「朝食バイキング、みかんの好きな言葉にゃ~!」
「お願いします。一人で食べつくさないよう、自制してください」
明日になれば、マスコミの張り込みはかなり少なくなるだろう。
家を空けることに対する不安はあるが、致し方ない。
「朝、ログインボーナスを取得しておいてよかったね、久郎」
「だな。レンタルもあるらしいが、共用するには少し怖いと思う」
さすがに今日は、ブレイブ&ウィッシュのプレイは無理だろう。
あまりにも濃密な一日過ぎて、さすがの俺たちもへとへとだ。
「本日は誠にありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。」
店員に見送られ、俺たちは店を後にする。
オーダーメイドの服は、最大で1か月かかるとのことであった。
それでも、この店のクオリティを考えれば十分納得できる。
「ホテルでは、全員シングルルームにしておいたから。話をするのなら、ラウンジを利用するようにね」
なお、めあだけは例外として、舞と一緒の部屋になるようだ。
年齢を考えれば、妥当だと思う。
「それでは、出発!」
俺たちは予約したホテル、ウイング富士に向かうことにした。
ホテルの名前も、静岡市にあるものを流用しているそうなの。
このホテルは、作者のお気に入りらしいの。




