第1章 第17話 試合~久郎、決着?~
久郎の「切り札」について、説明されるの。
ただ、とっても使いにくそう、なの。
おこなったことは、言葉にすると簡単なことだ。
機体を「腕力で動かして」、銃撃を行ったというだけである。
この世界の「機体」は、パワードスーツの発展形である。
構造として「体を覆う鎧」のように作られており、体の動きをサポートするような設計となっているのだ。
そのため理論上は、物理的な力で機体を動かすことも、可能となっている。
もっとも、3.5メートルもある機体だ。
当然それに伴う重量があり、搭乗者自身の力で操作するというのは、非現実的である。
それを無理やり可能にしたのが、『瞬間剛力』というスキルだ。
俺は、どのようなスキルであったとしても、一つだけ「保持」しておくことができる。
そして、必要な時にそれを発動させることで、自分がもっていないスキルを使うことができるのだ。
ただし、この能力にはいくつもの制約がある。
まず、保持できるスキルは1つだけということだ。
2つ目のスキルを保持しようとすると、前のスキルを上書きすることになる。
次に、発動後は丸一日の間、使用不能となる。
発動後24時間は、スキルの保持すら不可能となるのだ。
更に、これが一番重要なものであるが……スキルを保持するためには、そのスキルが発動している瞬間を、捉えていなければならない。
制限は緩めで、試合を観戦している間に発動したスキルなら、得ることが可能だ。
しかし、動画などで発動しているスキルを見たとしても、対象外となる。
まとめると、あらかじめ保持できるスキルは一つだけ。
発動後は、24時間使用不可。
保持するためには、スキルの発動時にそれを観測する必要がある。
これだけの制約があるため、使いこなすのは非常に難しい。
それが、巨大バグとの戦いでこの能力を使うことが出来なかった理由だ。
その時は保持スキルが空白状態であり、『托卵』を除く結希のスキルを保持、発動させたところで、バグを倒すには力不足だったからである。
ちなみに今回、もう一つ制約が判明した。
この能力を使う時に、スキルの前提条件を満たしていない場合には、大きな反動を受けることになるというものだ。
今回使用したスキルは、『瞬間剛力』。
効果は一瞬だけ、筋力を極限まで向上させるというものだ。
武道家系統のスキルであり、恐らくかなり上の方に位置すると思われる。
スキルの前提条件を全く満たしていない状態で、この強力なスキルを使用した。
そのため、反動で全身に大きなダメージを受けてしまったようだ。
そもそも、機体を無理やり動かすというだけでも、腕に係る負荷はあまりにも大きい。
相乗効果で、腕は完全にやられてしまったようである。
恐らく筋組織の断裂だけでは、済まされないだろう。
骨が折れているのも、ほぼ確定的だ。
激痛が常に襲い掛かっており、意識を保つのも困難な状況に陥っている。
恐らくこの反動は、魔法スキルでも同様に発生しただろう。
もし巨大バグとの戦いで舞が使った、「フレスベルグ」を保持し、反動を受けていたら……脳に深刻なダメージを負い、廃人になっていたかもしれない。
想像するだけで、ぞっとする。
反動はともかく、このスキルが「切り札」であった。
戦闘が終了しそうになり、バリアを解除した瞬間。
狙うのならば、そのタイミングしかない。
その狙いは当たったようであり、結果舞の機体からは戦闘不能を意味するブザーが鳴り響いている。
とはいえ、客観的には戦闘不能を装って攻撃した、卑怯者にしか見えないだろう。
事実そうなのだから、反論の余地はない。
ブーイングだらけのこの状況になることは、予想できていた。
それでも負けたくない、状況を作った者の鼻を明かしたいというのが、俺が下した結論だ。
「審判、もう一度確認するぞ。俺の勝利条件と、敗北条件は何だ?」
「勝利条件は、舞の機体に大ダメージを与えること。敗北条件は戦闘不能で……戦闘不能ではなかった?」
薄れゆく意識の中、もう一度審判に確認を取る。
俺は、ルールを破るのが嫌いだ。
だが、ルールの範囲内であるならば、最大限それを有効活用するという考えも有している。
「腹部に銃撃、致命傷のブザー。大ダメージどころではないわね。私の負け、よ」
舞が除装して、両手を上げる。
降参ということであるが……逆にブーイングはひどくなっている。
それに対し、舞が一喝した。
「静かに! まず久郎、機体を送還しなさい。ただし、絶対に腕に力を入れないこと、良いわね!」
その言葉に従い、俺は機体を送還する。
機体によって無理やり固定されていた腕が、だらりと垂れ下がった。
激痛によって、耐えることしかできない有様である。
訓練服も、無理な動きによって袖がちぎれており、ダメージの凄まじさを示していた。
惨憺たる俺の姿に、会場が沈黙する。
ここで行われていたのは、あくまでもヒーローになるための試験だ。
だが俺の怪我は実戦後のような状態であり、観客に激しい衝撃を与えたようだ。
「これは、酷いわね。私が治してもいいけれども……そうね。漣、いる?」
「はい。治療ですね」
舞の呼びかけに答えて、漣がステージの上に上がった。
「これは、治しがいがあるわよ。ボーナスステージ、挑戦してみる?」
「やります。少しでも評価を上げたいですから」
漣が錫杖についた鈴を鳴らしながら、腕の状態を確認する。
医療器具の「エコー」を再現していた魔法のようで、確認が進むにつれ、表情が険しくなっていった。
「粉砕骨折あり。筋肉の断裂は、大きな部分が1つ。細い筋肉は10か所以上。血管破裂も数か所あり。神経断裂も見られます。治療しなければ、一生腕は動かないままになると判断しました」
「想像以上にひどい診断結果ね。私も探ってみたけれど、これだけのダメージでよく耐えていると思うわ」
予想を上回る、悲惨な状態だったようだ。
意識を保っているのは……頭の中で必死に「あいつ」が、意識を失わないように声をかけてくれているからである。
「寝たら死ぬぞ!」というのは、さすがにブラックユーモアだと思いたい。
「今の魔力だと、完全に回復させるのは厳しいですね。重要な部分の治癒を行い、残りは医療班に任せることにします。」
漣が回復魔法を使ったとたん、更なる痛みが走る。
意識を失うことすら許されず、叫びそうになった。
「せ……せめて、麻酔のような魔法は、ないのか……?」
「あります。ですが残存魔力を考えると、使うと治療が中途半端になります。ゆえに、治すことを優先させています」
回復魔法は基本的に、治療と沈痛が融合した形になっている。
しかし今回は、鎮痛の部分を除くことによって、少ない魔力で回復させているようだ。
無理やり骨や筋肉、神経を伸ばし、繋げていくのであるから……どれほどの痛みであるか、ある程度想像できるだろう。
「治療完了です。重要な部分の治療は終わったため、安静にすれば後遺症は残らないでしょう」
正直、回復魔法が終わったことに安堵する。
それほどまでに、凄まじい体験であった。
麻酔なしで、手術されている状況を想像してほしいの。
それと同じ傷みが、久郎を襲っていたと思うの……。




