第1章 第13話 試合~結希~
結希と守の戦いが、始まるの。
技量の差が、戦力の決定的な違いではないと思い知らせるの!
いよいよ、教師との戦いが始まる。
選ばれた環境はアリーナ。
完全な、実力勝負となるフィールドだ。
「あ、データが更新されている。守の戦闘シーンだ」
試合前の待機時間に、ギリギリ閲覧可能なタイミングでの送信。
確かに盾を二枚というだけでは、対応は難しいだろう。
「これは、上手いな。一方は武器だと考えたほうが良いだろう」
「普通、支援型と組んで戦うよね。僕一人で、何とかできるかな……?」
基本的に、右側の盾を武器として扱い、左側でガードしている。
盾を叩きつける攻撃、突撃による面攻撃、縁を利用した切り裂きなど。
攻撃手段は、予想以上に多彩であった。
「お前の全力を出してこい。格上の相手だ、遠慮なく力をぶつけろ。それこそ、父と戦うくらいの気持ちで挑め!」
「うん……最後の部分は、あえて聞き流すよ。負けたくないから」
確かに、結希はまだ父に勝ったことがない。
これは、失言であった。
右腕を上げて合図し、結希はアリーナに向かった。
なお、俺の試験もこのアリーナで行われるとのことだ。
俺の戦闘スタイルからすると、相性はかなり悪い。
加えて、エキシビションマッチのためほとんどのヒーロー見習いが、注目するという状況になっているようだ。
これはもう、いじめだとしか思えない。
「神崎久郎。次の試験に備え、アリーナの方で準備を行いなさい」
係員の言葉に従い、俺もステージの方に向かうことにした。
袖の部分で待機し、結希の試合が終わればすぐに出番となるようだ。
ステージに立っている守の機体は、俺たちと同じディサイプルである。
しかし二枚の巨大な盾を構えており、非常に圧迫感を感じるものであった。
結希の機体は攻撃型であるが、この盾を貫くのはかなり困難であろう。
俺の対戦相手が舞であることも含め、采配ミスとしか思えない。
「うん? あのシールドは……?」
構えているシールドを、別のところで目にしたような気がする。
何かの資料についていたと思うのだが……思い出せなかった。
「それでは、御門結希 対 古賀守、試験開始!」
審判の宣言により、試合が始まった。
結希の機体から、音楽が流れ始める。
シンクロニティが使用できないことは、分かっている。
だが、音楽に合わせて戦う方が、俺も結希も調子が上がるのだ。
選んだ曲は、「Believe Your Heart」。
ゲームのテーマ曲で、戦いの激しさと同時に、切なさを感じさせる名曲だ。
いかにも、結希らしい選択だと思う。
最初に動いたのは、結希の方だ。
シールドに向かって、「百舌」を放つ。
貫通力のある技であるが、シールドにより完全に弾かれてしまった。
盾を攻撃するのであれば、突きの方が効率は良い。
打撃や斬撃では、盾自体の耐久力を削りきらなければ、ダメージは与えられないからだ。
一方、突きであれば盾を「貫通」することにより、相手にダメージを与えられる可能性が高まる。
そして最も有効なのが、銃による貫通性の高い攻撃だ。
しかし、かなりの勢いで繰り出した「百舌」が、簡単に弾かれるほどの堅牢な相手。
結希の使える技で、有効打を与えるのはかなり難しそうである。
強いて言うならば、「托卵」ならば十分通用するであろう。
しかし、それは机上の空論でしかない。
「ゆくぞ。『シールドバッシュ』!」
お返しとばかりに、守の攻撃が結希を襲う。
この技は、盾を叩き付けるというシンプルなものである。
しかし攻撃動作がほとんどないため、非常に回避が難しいのだ。
「百舌」の反動で体勢が崩れた結希にとって、これはかなり厳しい。
直撃は免れたものの、掠った勢いだけでかなり弾き飛ばされてしまった。
借り物とはいえ、結希向けのセッティングは終えられている。
ある程度であれば、力技にも対応可能だ。
しかしこれだけパワーの違いがあると、さすがに不利であることを否めない。
「百舌だとダメ。なら……こういう動きで!」
結希の機体から、別の技が繰り出された。
動き自体は「百舌」に近い。
だが、全力で突撃するのではなく、連続攻撃に変化している。
一撃の威力は「百舌」に劣るだろうが、手数は大幅に増えており、装甲の薄い相手であればかなり有効であろう。
ここが、結希の一番恐ろしいところだ。
きっかけさえあれば、たとえ戦闘中であったとしても、新たな技を編み出すことがある。
しかも状況に応じて、技の使い分けが可能だ。
閃いた瞬間に新たな技を使う、だけではなく、ここぞという時まで新技を温存する。
これに何度、敗北させられただろうか……。
これに対し、守はシールドの「縁」を利用して切り裂く攻撃で対処してきた。
剣の動きに近く、攻撃速度は盾であるにもかかわらず、かなりのものだ。
結希は即座に反応し、一度攻撃をやめてしっかりと回避する。
動画で流れを知っていたことが、幸いしたようだ。
その後も、高レベルの応酬が繰り広げられる。
守が使う技の数は、盾が単なる防具であるという概念を覆すようなものであった。
攻撃に合わせたカウンターで、攻撃自体を無理やり潰す。
盾の縁を利用して、連続して斬撃を放つ。
時には叩き付けるようにして、防御した相手をそのまま吹き飛ばす。
動画で見ていた動きよりも、更に鋭く、力強いものであった。
ある時は鈍器、別の時は刃物として使いこなす姿に、付け入る隙は見当たらない。
対する結希の方は、少しおかしな行動をとっていた。
突きに固執し、ひたすら盾に阻まれている。
新たに覚えた「啄木鳥」と命名された技も駆使して、相手を中心として左右に振れながら、何度も攻撃をしていた。
しかし大型の盾、しかも二枚装備している相手の防御を突破することは、できていない。
「このままだとジリ貧だぞ。どうする?」
守の言葉通りだろう。
結希の機体には、数多くの傷がつけられている。
一方の守は、シールドによって完全にダメージを防ぎきっているのだ。
時間制限はないが、それだけにこの逆境から、結希が勝つビジョンが思い浮かばない。
「うん、分かっているよ。僕も覚悟を決めないと、ね!」
結希の機体に装着されている、ブースターの出力が一気に上昇する。
そのまま結希は、攻勢に出た。
行動自体は今までと同じだ。
しかし、そのスピードが段違いである。
啄木鳥、百舌、更に百舌、そして啄木鳥。
あまりにも早い連続攻撃に対し、守は的確に防御を続けていた。
だが、なぜか防御時の音が徐々に変化していく。
そして、状況が動いた。
守のシールドに、一気にひび割れが生じた。
結希はこれを、狙っていたのだろう。
「これでとどめ! 『百舌』!」
結希が、一気に強烈な突きを繰り出す。
守はひびが入った盾で防御せざるを得ず、そしてそれは粉々に砕け散った。
当然、激しい衝撃が腕に走る。
もう一方の盾を使い、必死に腕をかばう守。
一気に結希にとって、有利な状況となった。
「そして『隼』! ……あれ?」
結希の追撃がまさに行われようとしたその時、ブースターが停止してしまう。
加えて、機体の動きまで停止した。
非常に、嫌な予感がする。
「エネルギー切れ……あと少し、だったのに……」
予備の機体であったため、バッテリーが劣化していたのかもしれない。
静まり返る、会場。
俺も、ただ見つめることしかできなかった。
何が起きたのかは、次の話で説明されるの。
あと少しだったのに、惜しいの。
選んだ曲は、これまた分かる人なら、大体想像できるものらしいの。
その中のどれを使っているかは、想像に任せるとのことなの。




