三十五話 顔合わせ
アタシは、暗い夜道を全力で走っていた。息を切らして家めがけて走るものの、どうしても遠く感じてしまい足が止まる。
そしてまたも着信が入り、出たくない電話を出てしまう。
相手はメリーを名乗る女の声。どこか聞き覚えのある名前と声だけど、思い出そうとすると思考に靄が掛かってしまい、答えはでないまま恐怖に襲われる。
それからも家に向かって走り続けて十分ほどしたところで、ようやく自宅が目に入った。
とはいえ、住み慣れた我が家も古びたアパートであるならば、今の恐怖心に拍車をかけてしまう。だから家に帰りたくなかったのに、なぜか帰らなければならないと考えてしまった。
重い足取りで階段を登り、一番奥の部屋の玄関から家に入ると、いつもなら家にいるはずの父親がいなかった。それだって普段ならば気にならないけど、心細い今はそれも苦痛だった。
自室に閉じ籠って身を隠すものの、暗い部屋では恐怖が増幅するため電灯をつける。恐怖が身体を震わせて、僅かな隙間が気になって仕方ない。
机と壁の隙間、ベッドと床の隙間、ドアの隙間やカーテンの隙間。もしかしたらどこかに眼でもあるのではないかと、見たくないのに視線が向かう。
繰り返される着信、意味のないブロック機能。八方塞がりの状況に、ついにその時はやってしまったんだ。
ベッドの下から伸びてきた手が足を掴み、アタシを引きずり込んだ。そこからの記憶はすっぽりと抜け落ちたように思い出せず、恐怖心だけが残った。
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芽凛衣が帰宅したあと夜ご飯を食べて、二人で風呂に入り身体を重ねて翌朝を迎えた。両親が帰ってくるのは今日の夕方である。
芽凛衣と二人で学校に向かうと、青崎とそのツレ、そして御天原が先にいた。御天原は芽凛衣にこっぴどくやられたのか、すっかり怯えてしまっていた。
なにせ、芽凛衣を見た瞬間恐怖に染まった表情をしていたのだから。青崎たちのように明確な加害を受けたわけじゃないので、ほんの少しだけ同情してしまう。
「私たちの時間を邪魔したんだから、当然だよね」
そう言い放つ芽凛衣に、俺は素直に頷いた。人の恋路を邪魔するヤツは、ひどい目に遭うということだ。俺も迷惑していたし、小さな同情の域を出ないな。
すっかり様変わりした彼らに周囲は困惑していた。この前までクラスの中心的存在だったのだから、そのひっくり返るような変化には誰だって首を傾げるだろう。
彩斗もさすがに異変を感じ取っていたようだが、彼らの過去の……というか、俺に対する行いから深く入り込むつもりはないようだ。
果たして平穏を取り戻した学校生活なわけだが、代わりに変な噂が立つようになった。
"紫崎に関わると心を壊される"
芽凛衣と積極的に関わろうとしていた青崎たち三人がすっかり怯えてしまっていたことで、もしかしたら芽凛衣に無視やり関わろうとすると災いが訪れるという説がまことしやかに囁かれるようになったのだ。いや間違ってねぇわ。
曰く付きどころか曰くそのものなので、彼らの考えは的中である。
なにせ芽凛衣はかの "メリーさん" であり、そんな彼女が本気で手を下すとなれば、それこそ俺に接触を図ってきたあの時のやり方で来るに違いない。
あの方法は俺でも怖かったからな、それが過激になったとすれば暗闇から襲われたって不思議じゃない。どんなやり方かは知りたくないので、考えることはやめておく。
芽凛衣が転校して以来の、静かな時間を終えて帰路に着いたした。ずいぶんと快適だったのでこれからはずっと、余計な連中に絡まれない日々であってほしいものだ。
芽凛衣と手を繋ぎながら帰宅すると、家には出張から帰ってきた両親がいて、芽凛衣はすぐさま二人に頭を下げた。
「お久しぶりです、お義父さんお義母さん!先にお邪魔しています!」
「久しぶりだね芽凛衣さん、お義父さんだなんて照れるじゃないか。更斗と仲良くしてくれてありがとね」
「更斗が迷惑かけてないかしら?お付き合いしてくれるのは嬉しいけど、この子で本当に良かったのかしら?」
「とっても幸せです!私こそたくさん更斗くんに愛してもらって、感謝しっぱなしです」
揃いも揃って恥ずかしいことを言って盛り上がっている。迷惑だの幸せだの、色々言いやがってこのやろう。
「更斗は覚えてる?小さい頃にアンタが仲良くしてた茜ちゃんの妹さんよ」
「え、妹?」
紫崎 茜、長らく忘れていたがその名前は、俺の幼馴染の名前だった。




