三十三話 旧友
彩斗のセフレである三陰から、御天原に対する恐ろしいアドバイスを聞いて数日。あれから特になにがあるわけでもなく、変わらない日々が続いた。
御天原が芽凛衣に声をかけてあしらわれる、そんなやりとりが行われ一週間。今度は御天原が俺を呼び出した。
そう、青崎たちに呼び出された、屋上の扉の前に。
「おまえさ、最近調子のりすぎ」
「乗ってねぇよ」
呼び出されて来てみれば、開口一番に来たのはそれである。御天原の方が調子に乗っていないだろうか。
青崎がすっかり怯えきっている今、クラスの中心になりかけているのは彼女だ。なにせ青崎が一番関わっていたと言っても過言じゃなかったからな。
「乗ってんだろ。紫崎と仲良いからって偉そうにしやがって。釣り合ってねぇんだよ、あんまりキメェことしてっと殺すぞ」
「やれるもんならやってみろ。どうせ一人じゃびびってなにもできねぇくせに」
「女に隠れてコソコソやってる男が言ってんな」
こうしてイキがる連中は何人も見てきたが、三陰の言っていた通りプライドだけなのか、あんまり迫力を感じない。
だからかどうにも、調子が狂う。
「隠れてねぇんだけどな。どうしてそう思ったかは知らんけど、話がそんだけなら戻る」
「……とっとと消えろクソ」
面倒くさくなったので話を終わらせて踵を返すと、後ろから汚く吐き捨てられた。自分で呼び出しといてなんて言いぐさだと言いたくなったが、関わるだけ無駄である。
もしかしたら誰か連れてきているのではと思ったものの、彼女は本当に俺とサシで話すつもりだったらしく周囲には誰もいなかった。隠れてるかもと思ってたけどな。
三陰を差し向けるような真似をしたくせに、良く分からん女だ。
そんな呼び出しで御天原からの明確は敵意を理解したが、結局彼女はなにをするでもなかった。
本当なら先ほどの呼び出しで、俺を芽凛衣から引き離すつもりだったのだろう。しかし俺が頷かなかったために、余計な策を講じることにでもしたのだろうか?
そうなったらそうなったで対応するだけだが、芽凛衣の方はピリピリとしていた。どうやら向こうより先に動くつもりらしいので、俺としては戦々恐々とするばかりだ。
放課後を迎え、芽凛衣と共に帰路に着く。帰り際に御天原から睨まれたような気がしたが、スルーしておいた。
そんな俺に対し芽凛衣は鋭い瞳を向けて、御天原が咄嗟に目を逸らす。美形な女の子の怖い表情は迫力があるからな。気持ちは分からんでもない。
家に向かって歩いていると、先日に三陰と会った場所……というか、彼女たちから尾行されたと感じた場所で三陰と会った。
というか、彼女は俺と会うつもりで来たらしい。その理由は御天原のことであった。
「そんで、あの子から呼び出されて終わりなんだ。まぁそんな気はしたけどね、更斗くんのことだから素直に頷いてないんでしょ?」
「そりゃ当然。しかし、アイツってなんかこう、すごみというか圧というか、迫力がないよな。だから肩透かしって感じちまって調子が狂うんだよな」
「それが可愛いんだよね。なんていうか、か弱い生き物が必死で強がってるみたいでさ」
あくどい笑みを浮かべた三陰が、御天原をそう評した。中々に失礼な物言いに、おいおいとツッコミを入れた。
「それってつまり"弱い犬ほどよく吠える"ってことじゃねぇか」
「その結論に至る更斗くんも中々だね」
思ったことを口にすると、三陰は肩を竦ませて苦笑した。先程の評価を聞けばみんな同じこと考えるだろうに。
「そういえば気になったんだけどさ、結局二人は付き合ってるの?」
「なんだ藪から棒に。付き合ってるぞ」
「ふむふむそっか。いやね、なんか二人の雰囲気が甘くなったというか、前より距離が縮まった感じがしてね」
なんと端から見るとそう感じるらしい。そう言われても、だからなんでしょうか?という感想しか出てこない。
話題がそれだけならばそろそろ帰りたい。
「そっすか。話がそれだけならもう行くぞ?」
「えー、そっけないなぁ更斗くん。せっかく私、キミと会うためだけに待ってたのに」
「ありがとう。期待に添えなくて悪いな」
「感情籠ってねーぞー。まぁいいや、話も終わったし私も帰ろ。じゃね、更斗くん、紫崎さん!」
三陰は、手を振りながら踵を返して向こうへと歩く。俺たちも踵を返して、下校を再開するのだった。
家に到着し、しばらくすると芽凛衣が出掛けていった。彼女はおそらく、青崎たちにしたように、御天原を落ち着かせるつもりなのだろう。
俺にできることはないので、今日も筋トレに励もうとウォーミングアップをしていると、自室の机に置いてある携帯が震えた。
その相手は中学時代に、俺を振り回した友人であった。
「もしもし」
『もしもし!久しぶりだな更斗!声を聞けて嬉しいぜ』
「こっちもな。ってかなんかテンション高くないか?恭平」
彼は伊角 恭平という男だ。ひょんなことから彼に声をかけられ、学校内の小物から、学校外の不良を相手に巻き込まれたのだ。
ことの始まりはアイツが小物と揉めたからであるが。
『いやだってよ、どいつもこいつもカスすぎて、更斗と同じくらいに仲良くしたいヤツがいねぇんだよ。つまらねぇっていうかさ』
「そうかい。恭平のことだから全員シメ上げてんじゃねぇだろうな?」
『売られたケンカは買うしケンカに首は突っ込むけどよ、こっちからはやらねぇよ。まぁ更斗のいう通りだけどな』
そう言って笑う恭平にドン引きしつつ、それを笑って誤魔化した。しかし何用で電話をしたのだろうか?
『んーで、連絡したのは他でもねぇ、お前に彼女ができたって話を聞いたからだ!』
「ちょっと待て」
恭平から告げられたソレに、誰が彼にそう伝えたのかと驚いた。




