三十二話 アドバイス
干からびそうになるかと思うくらいに芽凛衣と身体を重ねた翌日、学校ではちょいちょい御天原が芽凛衣に接触を図る。
しかし彼女には相手にされず、どれだけ関わろうとされてもそっぽを向かれ続けていた。
その様子にこれといって俺と彩斗が介入する必要はなく、つつがなく放課後を迎えた。家に向かって街中を歩いていると、何人もの人とすれ違う。
他校の生徒や買い物に向かう主婦、外回りをしているサラリーマンや年下の子供たちなど様々な人たちがいる。そんな中、なんとなく後ろに気配を感じた。
道中で感じたそれが気になり、ちらりと後ろを見やるとそこにいたのは、三人ほどのガラの悪い男と一人の女。女は彼らの後ろにいるためその顔は窺えないが、街中を抜けて住宅街へと移ってもそれは変わらず、一定の距離を保ちながら彼は俺たちについてきていた。
「更斗くんも、気付いてる?」
「芽凛衣もか」
ボソッと問いかける芽凛衣に、俺も聞き返す。彼女はコクリと首肯して、俺の手を握った。
やることはただひとつ。俺たちはアイコンタクトをして駆け出した。
少し先に行ったところにある交差点を左に曲がり、すぐそこにある家の敷地にお邪魔させてもらい連中の様子を窺う。予想通り追いかけてくる四人を確認し、通りすぎた彼らの後ろ姿を見送ろうと思った。
ただ、そのときに見えた人物に見覚えがあった。
「三陰?」
「あ、やっぱり更斗くんじゃん!なんで逃げちゃうのさ!」
驚いてその人物声をかけると、彼女はビシッと俺を指差してぷんすこと言った。そんな俺たちのやりとりに、三陰のツレ三人は互いを見合わせる。
「えっと、知り合いかよ?風夏」
「まぁね、友達の友達だよ。悪いやつじゃないから仲良くしてあげて」
三陰の説得により、トラブルは起きずに終わった。
「御天原、まさかそこまでキレてるなんてな」
「プライドめちゃ高いらからね。今まで見下してた更斗くんが強気で来たことに怒ってるみたいだね」
なんともめんどくさい話を聞いてしまった。ぐいぐいと絡んでくる御天原が、まさか芽凛衣を従えようとしているとは。
彼女はどうやら、見たものを振り向かせるような美貌の持ち主である芽凛衣を、友人として侍らせることで自身の魅力を高めたいらしい。なんとも他力本願な考えである。
「めんどくさっ!言っちゃ悪いけど小物じゃん、更斗くんの足元にも及ばないよ」
「芽凛衣の方が大したもんだろうけどな」
「まぁあれで繊細なんだよね。だから上手くいかないとすぐにテンパるし不安になるし、最初に会ったときは誰かの後ろにいないとダメな子だったのに、いつの間にか前に出るようになったなぁ……」
意外な話に思えるが、誰しも過去というものがあって、その出来事によっては考え方や立ち振舞いも変わるだろう。
俺もその時代……と言っても一、二年前だが、色々ヤンチャしてた友人と一緒に駆け回ってたっけ。夜もあちこちでトラブルに巻き込まれてたから、それで両親にも心配かけてたりして。
「今の御天原からは想像もできないな。なにかきっかけがありそうだな」
「だね。って言いつつ更斗くんそんなに興味なさそうだよ?」
「バレたか」
御天原は御天原である。友人でもないただのクラスメイト、しかも目の敵にしてくるヤツなんぞ、芽凛衣の言う通り興味はない。直接ケンカを売ってくるのなら話は別だが、そうでなければ関わることはない。
「とりあえず、あの子には気を付けなよ。まぁ二人なら大丈夫そうだけどね」
「実際トラブルは慣れてるからな。あんまりイキったことは言いたくないけど、文句あるならかかってこいって考えはあるな」
「そんくらいでいいでしょ。あの子の友達の私が言っちゃダメだけど、軽く小突いちゃえばなにも言わなくなると思うよ。だからバレないようにコソッとやっちゃえ」
「良いのかそれで」
友達なのにそんなことを言って良いのだろうか?そう思ったのだが、三陰はまぁねと頷く。
「大丈夫。プライドのせいで、シメられても文句は言えないタイプだから。やられたところで周りにはいつも通りツンケンしてると思うよ。ましてや先生にチンコロなんてしたら二度と立ち直れなくなるの分かってるから、バレなきゃ大丈夫。あと分かってるとは思うけど、怪我とかアザとかさせちゃだめだよ」
一切表情を変えずにそんなことを言う三陰に、思わず引いてしまいそうになる。まるで手慣れた様子で暴力的なアドバイスをしてくる彼女は、中学の時に相手をしてきた連中と同じものを感じた。
「ちゅーわけで私らは行くわ。んじゃね更斗くん、また会お。彩斗によろしく」
「おう。じゃあな三陰」
三人の男たちを引き連れて立ち去っていく三陰の背中を見送って、俺たちは帰路に着いた。




