三十話 まぁ芽凛衣さんだし
御天原を無視した後、芽凛衣と彩斗と共に昼食を済ませて雑談に勤しんだ。それから無理に構おうとしてくる連中は減り、随分と楽になった。
時々 彩斗の恋人と勘違いする人もいたが、芽凛衣がそれはありえないとハッキリ告げるので、すぐに誤解は解かれる。とはいえ、相手が俺だというのは納得できないみたいだが。
そんなこんなで今日も一日を終えて、芽凛衣と二人で学校を後にする。あれから御天原は特に接触してこなかったが、青崎たちが意気消沈していたため彼女がその分クラスの中心となっていた。
それだけならまだしも、昼間のことが関係しているのか俺に対して敵意を滲ませていた。
なにも起きなければ良いのだが、なんとなくその願望は裏切られる気がした。
帰宅して芽凛衣が夕飯の用意をしている間、俺は自室で筋トレに励んでいた。一通りのトレーニングを済ませて水を飲んでいると、唐突にスマホが鳴動する。
画面を見てみると相手は父さんで、その電話をとり話をする。
その内容は両親が金曜日に帰ってくるというものと、芽凛衣と仲良くしているかという話だった。いつの間に出会っていたのかと問いかけると、その日は忘れもしない、芽凛衣と出会った日。その翌日だった。
会うというのなら芽凛衣がこちらにいるはずがなく辻褄が合わない、思わず鳥肌が立つ。
彼女とそれなりの時間を過ごし、身体を重ねるまでに至ったことですっかり忘れていたが、彼女はかの "メリーさん" なのだ。
本来ならばこの世の常識の通用しない存在なのだと、今になって再確認。そしてもうひとつ、思い至ったことがある。
青崎たちが芽凛衣を見て怯えていたのはもしかして、昨日彼女が出掛けている間にそれだけのことをしたということだ。
御礼参りというには、あまりにも常識はずれに違いない。とはいえ、考えることはそこまでで、それ以上に至る結論はなく、少し怖いとは思うもののそれだけだ。
初めてデートをしたあの日、不気味なほどに楽観的になっていた……というか、考えさせられていた思考の捻じ曲がる感覚に比べてしまえば、大したことはないとも思える。
とりあえず、この話はじっくりさせてもらうとしよう。
そして夕飯を食べ終えて芽凛衣と向き合う。話す内容は当然だが、両親といつの間に会っていたのかということ。
「うん、ちょっとだけ挨拶はしたよ」
「いやそりゃ分かるけどさ、あの日って芽凛衣ずっと俺の傍にいたじゃないか。もしかして分身でもしたのか?どこかの忍びじゃあるまいに」
「なんだかNから始まりそうな作品だね」
「そだな……それを掘り下げるのはやめよう、長くなる」
まぁ分身ネタなら質量のある分身を使うロボットとか、謎のモンスターの使う技とかその他にも色々あるがやめておこう。
みるみるうちに脱線していく話を元に戻すと、芽凛衣は素直に はいと返した。少年漫画の話はこれくらいにして、大事なのはどうやって顔を合わせたかだ。
「それで、こっちにいる間にどうやって会ったんだ?」
「どうやってというか、そういうことができるというか……私メリーだし」
「便利な理屈だ」
本来なら冗談だと断ずるところだが、そうでもないと説明できないことが多々あった。それこそ交換していないはずの連絡先や、掛けたままであるはずの鍵、気配はあっても足音なく瞬間的に近付く移動術などの理屈ぶら下がったままである。
もしかしたら芽凛衣のことだし、コミュニケーションをとるだけならば、望んだ相手の目の前のみに姿を表すことだってできるのかもしれない。
なにせ、父さんも母さんもいつの間にどうやって出会ったのか、どうしてか覚えていないらしいからな。人の思考に干渉するのもお手のものなのだろう。
なんなら実体験だもん、納得だよ。
「まぁいいや、父さんから話を聞いてちょっと驚いたけど今さらだよな」
「そだよん。それに、悪用できることでも更斗くんだけには絶対にやらないからね。まぁあの二人はちょっとお仕置きしたけど」
「やっぱおまえか」
俺のツッコミに芽凛衣が頷いた。いきなりぶちこまれた事実だが、予想はしていたので驚きはしない。というか、これだけおかしな出来事を起こしてきたのだから隠しきれていないとも言える。
「まぁ命を奪ったわけじゃないなら、俺はなにも言わねぇよ。良い薬だろ」
芽凛衣を怒らせても仕方ないので敢えて言わないが、こちとら階段から突き落とされかけたのだ。同じ目に遭わされないだけマシだろう。
一切の同情はない。




