二十一話 爆弾発言
うちのクラスに転入してきた芽凛衣が、クラスのイケメンである青崎に肩を抱かれ、まるでカップルのような雰囲気を醸し出していた。芽凛衣の表情は硬いが、きっとクラスメイトの視線を受けて緊張しているのだろう。
そんな二人の様子を見て、青崎の友人である御天原が、俺の傍にやってきてバカにしたように笑う。
そんな中、青崎の傍にいたはずの芽凛衣が御天原と向かい合っていた。相変わらずの瞬間移動だったので、全く気付かなかった。
「更斗くんに何か用かな?」
「え……」
芽凛衣に声をかけられて気付いた御天原が、ぎょっとした表情で芽凛衣を見る。向けられた質問に答えられないまま、三秒ほどフリーズしていた。
「えっと、別に汐丸に用はないけど……あれ?兼斗は?さっきまで仲良くしてたじゃん」
「どうでもいいかな、私には更斗くんだけで充分だし。勘違いしないで欲しいんだけど、他の人には興味ないから。青崎くんは馴れ馴れしく触ってきたけど、やめてって言ってきたし」
「いやなんでだよ」
青崎から離れてきたという芽凛衣に驚いて、こちらがツッコミを入れてしまう。性格は知らないが、ルックスだけなら優良物件だろ。
わざわざそれから離れる意味が分からん、何考えてるんだよ?
「えっ……なにかおかしいかな?」
「おかしいっていうか、さっきまで満更でもなさそうだった──」
「社交辞令だよあんなの」
俺の言葉を遮って、芽凛衣が硬い声で言った。表情もどこか緊張しており、今朝に家で見せていた雰囲気は、すっかり消え失せていた。
俺はどうやら、なにか間違えたらしい。
「もしかして更斗くん、私が他の人を選ぶなんておバカさんなこと考えてる?皆に聞こえるようにハッキリ言うけど、私は更斗くんを愛してるの。隣の席になれなかったのはすっごく悲しいけど、仕方ないから我慢するよ」
芽凛衣はそう言いながら、俺の頬にキスをした。それを見ていた皆が、なんとも言えない微妙な空気を醸しだす。
まったく大概チョロい男だな俺も。さっきまでは芽凛衣がいい男を見付けたのだと思っていたのに、それは勘違いだったのだと思っている。
「いや、おもんねぇって。わきまえろよ汐丸」
離れたところからそう言ったのは、芽凛衣にフラれたであろう青崎……ではなく、その友人だ。
不快感をありありと出しながら、俺を睨みつける彼は、今朝に青崎と共にいた三人の内一人だ。
「いや、俺に言われてもな。そもそも、誰が悪いってもんでもないだろ」
「知らねぇよ、空気読めっておま──」
「まぁ落ち着けよ、別にいいだろ。汐丸の知り合いなんだろ?紫崎さんはさ」
怒る男を止めたのは青崎だ。相手の肩に手を置いて、持ち前のにこやかさで周囲を和ませる。
でも目が笑っていないのは、なんだろうな?まぁ、大方諦めていないということだろう。
チャンスがあると思っているのかもしれないな。面だけ見ればありそうではあるが、どちらとも言えないだろう。
「お前らなにしてんだ?あっ、そういや紫崎さんこっち来たんだな」
剣呑な空気を呑気に切り裂いたのは彩斗だった。先ほどまで他のクラスの連中と話していた彼は、何が起きていたのかを知らないようだ。
「うん、更斗くんに会いたかったからね」
「結婚前提の付き合いって言ってたもんな」
彩斗の言葉にクラスがざわついた。そりゃあ結婚前提の付き合いなんて聞いたら驚くだろう。
周囲からのざわめきは、驚き半分嘲笑半分だった。俺なんかが、芽凛衣の隣に立ってはいけないらしい。
どいつもこいつもバカバカしいな、相手にすらされてないクセに。
「うん。それなのに、青崎くんにくっつかれるから困ってたんだ。更斗くんまで変な勘違いするから、めっ!てしてたんだ」
「へぇ……?まぁ、他の連中を選ぶくらいなら俺を選べばいいさ」
「あはは、それはないから心配しないでよ」
前に話したことがあるからか、彩斗に対しては柔らかい態度で接する芽凛衣。彼の誘いを断ったところで、周囲は驚いたような、どこかホッとしたような声を出している。
面白いくらい一喜一憂していて、本当に滑稽だな。男としても人としても、彩斗の足元にも及ばない連中がよ。
まぁ、それは俺も同じだが。
「ねぇねぇ更斗くん。ハッキリ言っておくけど、私は更斗くんが大好きだからね!」
「あっえっ……ありがとう」
──俺も、とは言えなかった。恥ずかしいのもそうだが、まだ芽凛衣への気持ちは固まっていないのだ。そんな急に言われても困る。
いやまぁ毎日言われてるんだけどさ。
「私の全てをあげたのは、後にも先にも更斗くんだけだからね♪」
芽凛衣のそんな爆弾発言に呼応するように、休み時間終了のチャイムが響いて、彼女はひとり自分の席に戻っていった
なんとなく、チャイムの音がいつもより小さく感じた。




