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同居人

 アーチェと別れた後、俺達は屋敷の中を見て回る事にした。

 今は昼頃だ。明日の会議までの時間は沢山有る。


「ムツキこれから俺達はこの屋敷み住む事になる。今の内に屋敷を少し見て回ろう。どこか先に見たい所は有るか?」


 俺は隣に立っているムツキに聞く。ムツキは少し考え口を開けた。


「…………広い庭あった……そこ……見たい」


 庭か。俺達は今屋敷の入口に居る。庭は外から直接行ける。


「わかった。まず庭に行こう」


「……うん……ご主人」


 庭に向かう俺の後をムツキは後ろから着いてくる。俺はムツキの歩幅に合わせムツキの横につき話しかける。


「これから住む場所、俺が勝手に決めてしまったけど大丈夫か?」


「……ご主人と一緒なら……どこでも……大丈夫」


 ムツキは小さく笑顔を見せる。


「そうか。それならば良いが……」


 そんな話をしながら歩いていると直ぐに庭に着いた。その庭には一人の老人が居た。

 老人は手に持つ剣を一人で振るい続けている。一振りまた一振りと振るう。その素振り一つづつに圧を感じる。

 剣の道など知らない俺にもこの老人が剣の達人だという事が一目で解る。その目は真剣なものだった。先に住んで居るという二人の内の一人だろうか? 俺達もここに住む以上、早めに挨拶した方が良いだろうな。


 俺はそう思い声を掛けようと考えたが、直ぐ考えを改める。あれほど集中しているのだ邪魔するのも悪いか。

 ムツキに庭を見るのは後回しにしよう。そう言う前に老人のほうが先に俺達の存在に気づき声を掛けてきた。


「おや、ご客人ですかな?」


「いや、違います。今日からここに住む事になったユヅキ・サヤマです。よろしくお願いします。こっちは……」


「…………ご主人の妹の……ムツキ・サヤマ」


 俺は慣れない敬語を使い話す。その老人の雰囲気に何となく尊敬を感じたからだ。


「おお、これはご親切にどうも、私はエルセリア・サクネスと申します。」


 エルセリアは先ほどの真剣な表情から変わり俺達に優しい笑みを見せる。


「俺達はこの屋敷を少し見て回ろうとしていたのですが。お邪魔になってしまいましたか?」


「いえお気になさらないでください。これは私の習慣の様な物でして、剣を振っていないと落ち着かないのです」


「それならば良かったです。俺達は少し庭を見てみようと思ったのですが。いいですか?」


「ええ、構いませんよ」


 俺はそれを聞きムツキと共に庭を見て歩く。色々な花などが植えられている。どれも綺麗に手入れされている。この屋敷には二人しか居ないらしいが、エルセリアさんかもう一人が花を手入れしているのか?         

 その花たちは見たことの無い花が多いが、中には日本にも生えてる花も有る。チューリップみたいな形だな。名前も同じなのだろうか?この異世界意外と俺達がいた世界と変わらない物が多いな。


 そんなことを俺は植えられてる花を見ながら考える。ムツキも横で花を見ている。あまり花を見たことが無いのだろう目を少し輝かせているのが俺には解る。花を見ているとエルセリアさんが俺に話しかけてくる。


「ユヅキ殿、その腰に差している木刀は貴方の武器ですのかな?」


 俺は少し考え込む。この木刀とはこの異世界に来てから助けられてきた。ラクギリヤから奪ったような物だが俺にとっては相棒と言ってもいいほど短い間だが共に戦い続けている。武器と言っても問題無いだろう。


「ええ、そうです。この木刀を普段俺は使ってます」


「ふむ。ユヅキ殿? 私と挨拶変わりに一つ手合わせして頂けないでしょうか?」


「剣を使ってですか? 自分は戦闘経験や武道の覚えなどは有りませんが。それでも構わないのなら良いですが……」


「それで構いません。私も木刀を使いますので。どうぞ遠慮などせずに来てください」


 エルセリアさんが木刀を構える。俺はそれを見て腰から木刀を引き抜き構えエルセリアさんに向けそのまま振るう。その振るいは簡単に払いのけられ俺はかなりバランスを崩す。

 俺は剣の素人だ。俺の一振りなど赤子の手を捻るように簡単に払いのけれる簡単な物だ。


「…………その程度ではないのでしょう! 遠慮せずに構いません!」


 エルセリアが語気を強め言う。エルセリアから先ほどの笑みが消え、真剣な表情に変わっていた。

どうやらエルセリアさんは俺の剣の腕が見たい訳では無さそうだ。俺の持てる力を使いかかって来いと言う事か?


 俺は「調節アジャスメント」を使い自分の身体能力を強化する。身体に力が沸き上がる。先ほどとは数十倍にも跳ね上がった力と速度で俺は木刀を再び振るった。

 だがエルセリアさんはその木刀を簡単に払いのけて見せる。

 この感覚は二度目だ。これは同じだ。ラクギリヤの時と全く同じ。


 遊ばれている、俺はエルセリアさんと自分に圧倒的な力の差を感じながら木刀を振るう。木刀は全く当たる事は無い。


「ユヅキ殿!貴方は既に相当の死線を潜り抜けて来たみたいですね。この木刀の一振り、その一つずつに感じます。それに剣の一振りそれは素人のそれでも、迷いが全く無い。ですがまだ足りない。貴方は何の為に戦っているのですか?」


 エルセリアはその質問と共に木刀をこちらに振るうラクギリヤのよりも早い! 躱しきれない! 木刀は俺に直撃しようとする。


 だが木刀は俺に当たる直前で動きを止める。


「ふむ、ここまでで良いでしょう。貴方の事はだいぶ解りました」


 俺はそれを聞き木刀を腰にあるベルトに差す。


「これで、満足ですか?」


「ええ、とても良き手合わせでした。久方ぶりの感覚です。…………ユヅキ殿一つ忠告して置きましょう。貴方は迷いが無い。それは戦いに置いてはとても良い事ですが。その一振りには同時に想いが込められていない。貴方の剣はとても軽いものなのです。それは何時か貴方自身を殺す事になる。何の為に自分が戦っているのか一度考えて置くとよいですよ」


 何の為に戦ってきたか? 俺はそう言われ少し考えた。俺が今まで戦って来た理由、それは同盟国に向かう為だ。だがその目的はもう果たした。

 なら次はここに住み生活する為に戦う事に成るだろう。俺の戦う理由は決まっている何の問題も無い。


「見てたよ。エル! まだ小さい少年相手に手加減無しに酷いじゃないか! その少年が可哀そうだよ」


 屋敷の二階の窓が開いておりそこから声が聞こえる。その窓から魔女の様な帽子を被った人物が顔を覗かせる。


「エル! 君は「剣鬼」の二つ名を持っているんだよ。それを自覚して立ち振る舞わないと!」


「おや貴方も「魔女」の二つ名を持っているではないですか。小さい身体を隠し引きこもってないでそれなりの振る舞いをするべきではないですか?」


「エル! 今ボクを小さいと馬鹿にしたな!」


 そう言うと「魔女」は怒りながら二階の窓から飛び降りた。二階といえそれなりの高さがある地面とぶつかれば骨折程度はするだろう。

 俺はそう思いながら「魔女」が飛び降りるのを眺めていた。「魔女」は重力に逆らわず落ちていく。今にも地面にぶつかる直前に「魔女」の周りに魔法陣の様な物が浮かび上がる。辺りに風が沸き上がり「魔女」は地面に怪我なく着地した。


 そのまま「魔女」はエルセリアに近づくとポカポカと叩き始めた。

 その光景は自分の祖父におもちゃを買ってもらおうとしているが中々買ってもらえず駄々をこねる孫娘のようだ。


 この人が屋敷に住む最後の人だろう俺は挨拶するために花を見ていたムツキを呼び「魔女」に挨拶しようと話しかけた。

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