最悪の出会い
何処からか悲鳴が聞こえ、それと同時に俺は目を覚ました。頭がフラフラする、意識もボーっとしている。
「…………お兄ちゃん……起きたんだね」
目の前に銀色の無月の顔が映る。俺は無月の膝に横になって気づいたら寝ていたのか。
うっ……。頭がフラフラとして意識を保てない。
遠くから悲鳴が聞こえる。
「なっ……。何だってこんな所にキングボアなんて居るんだよ!!」
「そんな事は今はどうだっていいだろう! それより今はシスター様の安全を第一に!!」
「十メートル級のボアだと! ここいらは魔物が滅多に出ない事で有名なのになんでこんな化け物が居るんだよ!!」
遠くで、でかいイノシシにより馬車の集団が襲われているのが見える。俺はそれを後目に無月との会話を楽しむ。
「ああ、今起きた。俺は長い事寝ていたのか?」
「……三十分ぐらいだよ……お兄ちゃん」
「すまないな。無月こんな危険な野党とか出そうな所で俺が起きていられなくて……。すまない無月」
一瞬俺の頭に死体となっている無月が映る。
だがそんな事はあり得ない無月は、今ここで五体満足で喋り息をして生きているからだ。
「……お兄ちゃん……最近……眠れて無いみたい……だったから……寝てて安心した……今日は……途中から……魘されて無かった……見たいだし」
魘されるどういう事だ? 俺は無月が生まれてこの方悪夢など見た覚えがない。
うっ……。頭痛がする。まるで何かを忘れてるみたいだ。
だが、そんな事はどうだって良い。無月が近くに居るそれが俺にとっての生き甲斐で、俺にとっての全てなのだから。
「無月、お前のおかげで良く眠れたよ。ありがとう」
「……お兄ちゃんが……よく眠れたなら……良かった」
遠くで聞こえた悲鳴が大きくなっていく。五月蠅い俺と無月との時間の邪魔だ。
「シスター様! 下がってください!!」
「この状況を解決できる可能性が有るのは能力者である私だけ! 貴方たちは下がっていなさい! 怪我をするだけだから! 誰が直すと思ってるの!?」
「そんな! 貴方様に何かあれば私達は貴方のお父様に何て報告したら!! 王女様!!」
俺は悲鳴が聞こえた方を見る。あいつら確かキングボアって言ってたな。その単語を思い出すと頭が凄く痛む。頭がボーっとしている。
今の状況何かがおかしい目の前の食べかけのキノコを見ながら考える。だが頭がふらつくだけで何も思い出せない。
いや、そんなどうでも良いことは置いといてだ。俺はキングボアを再び見る。
「無月。お前にはこんなキノコだけしか食べられなくて済まなかったな」
「…………お兄ちゃん……まさか?」
「あのイノシシを狩って食べる! 久しぶりの肉だ無月」
俺は腰のベルトに差して置いた木刀を握る。
「……お兄ちゃん……私……お肉食べるの……初めて……頑張って」
無月の応援を俺は有り難く受けキングボアに向けて走る。
足がおぼつかない。上手く走れない。頭がフラフラする。さっき無月が肉を食べるのを初めてだと言ってたな。俺と無月の食生活は同じだ。肉なら幾らでも食べてきたはずだ。頭が痛い。そんな事よりも今はキングボアだ。
俺はキングボアの所まで足をふらつかせながらたどり着く。
「……なっ? 貴方一般人? もう血だらけじゃない! キングボアに襲われたのね! 後で直すから下がってて」
突然現れた俺に何故かキングボアと戦ってる女が話しかける。このイノシシは俺と無月の獲物だそれをこの女は何をしている?
「邪魔だ! 女! コイツは俺と無月の今日の飯だ! 邪魔をするな!!」
俺は女を睨みつける。女は俺を心配するように話しかける。
「貴方! キングボアの凶暴性を知らないの!? 下がってここは私が何とかするから──」
五月蠅い女だ俺は女を無視する。
俺は足をふらつかせながら木刀をキングボアに向けて力づくで振るい切った。
「──貴方そんな足取りじゃ怪我するわよ。下がって──えっ」
木刀はキングボアを文字通り真っ二つに切った。キングボアの血を俺は全身で浴びる。
「嘘だろ! あんな木刀でキングボアを切りやがった!! 木刀だよなアレ!!」
「そんな事、俺が知るか!! 坊主、王女様を助けてくれてありがとう! 礼を言う!」
周りに居た五月蠅い男共が歓声を上げている。俺はそれを無視しキングボアを俺の持てる範囲に小さく木刀で切る。
切り分けたボアを俺は無月の元に運ぶ。その後を五月蠅い女が追ってくる。
「貴方さっきは助けてくれてありがとう! 血まれだったけど貴方怪我してるの? 私は能力者で怪我を治せるのお礼にって訳じゃないけど見せて治すから!」
「五月蠅いぞ! 女! 俺の後を着いてくるな!」
俺は女を無視し無月の所に向かう。ボアの肉を持った俺を無月は暖かい笑顔で迎えてくれる。
「無月。肉取ってきたぞ。待たせたか?」
「……ううん……早かったよ……お兄ちゃん……後ろの女の人は?」
「コイツは気にするな無月。そんな事より肉を食べよう」
俺は焚火に肉を置く。すると着いてきた女が声を上げる。
「ちょっと!貴方達このキノコを食べたの!? この森の中の中で!?」
女はキノコを指さし俺達にその五月蠅い声を向ける。
「いちいち五月蠅い女だ。見れば解るだろ! 食べたよ!」
あまり大きな声を上げると無月が怖がる。無月は昔から俺の後ろを着いて回る子だった。人見知りだったからな。
俺は昔を懐かしがりながら、無月を見る。無月は別に平気そうだ。おかしいな。
「このキノコは一本、水につけるだけで一樽分のお酒を造れるの! それを食べたの!? すぐ治すから!」
五月蠅い女はそう言い俺に触ろうとする。俺は必至に抵抗する。
「なんで! 暴れるの! そこの妹さん手伝ってこのまま行けばお兄さんアルコール中毒で死ぬわよ!!」
「…………お兄ちゃんが……死ぬ!?」
無月の目のハイライトが消える。ハイライトが消えた無月は慌てて俺を抑え込む。
「な、なにをするんだ。無月!?」
「……こうしないと……お兄ちゃん……死んじゃうって!!」
「そんな胡散臭い女を信じるのか!? お兄ちゃんの俺よりも!?」
無月は泣いていてこちらの話を聞いていない。
「胡散臭いとは何よ!」
無月に抑え込まれる以上俺は抵抗できなくなる。俺が暴れて無月に怪我をされては困る。女の手が俺に触れる。
「急に大人しくなったわね……。はい、これで治療完了!」
俺の意識は急激に薄くなり意識を保てなくなる。
嗚呼、無月どうか無事でいてくれ。俺は意識を手放した。
「少しの間意識は飛んでるけどこれで貴方のお兄さんは無事に治ったわよ」
「……良かった……無事で……お兄ちゃん」
ムツキは涙を手で拭きながら話す。
「……ありがとう……お姉さん」
「よかったわね。──次は貴方の番ね」
「……? ……えっ?」
女はムツキに触れる。するとムツキは意識を手放した。
「妹さんのほうは簡単に治療できたから良かったからいいけどお兄さんのほうが厄介ね。キングボアから助けて貰ったお礼をしないといけないし。一度本国まで戻るかぁ。ここまで来たんだけどな」
女は小さくため息をつく。
「お兄さんの方は荒っぽい性格だったし、目を覚ませば暴れるかもしれないわね。縛っておくかな」




