謎の契約
目の前が暗い。ああ、また何時もの悪夢か。
何時の間に寝てしまったのだろう。寝る前の記憶が無い。たしか俺はキノコを食べて、それから……。思い出せない。
ただ俺が手錠に縛られ近くに両親のバラバラば遺体が有る。そして、目の前で無月が殺人鬼に今にも陵辱されて殺されそうとしている。間違いなく何時もの悪夢だ。俺はいつものように手錠を外そうとする。だが、俺を縛り付ける手錠は俺の手から外れない。
ああ、まただ。また目の前で無月が殺される。俺はその光景をただ見つめるだけになる。無月は俺に助けを求める様に見つめてくる。その眼に答える事は俺にはできない。無月がただ殺される。その光景ただを眺めることしかできない。これはそう言う悪夢だ。
俺は自分の無力さを何時も通り思い知る。その光景に何処か違和感がある。何時もの光景に一人多い。俺は横に誰かが居るのを感じる。俺がその存在に気づくと横に居た者が俺の目の前に現れる。
「……ん。……久しぶりだね。……随分寝て無かったから……干渉出来なかった」
目の前に現れたのは一人の女の子だ。ここは俺の夢の中だ俺の記憶に存在しない者も出る事が有るのだろう。
ここ五年間見続けた夢で初めての変化だ。だが、それでもう既に死んでいる無月が助かる訳でも無い。俺は目の前の女の子を見る。
「……私は……貴方が夢の中で創り出した存在じゃないよ。……私は……現実から貴方に干渉している」
「思考が読めるのか?」
「……ん。……ここは貴方の夢の中、……貴方が思い描いた事は全て口に出さなくてもすぐに解る」
「何が目的だ? 俺の夢に何か入って何がしたい?」
俺は目の前の女の子に問う。俺は手錠に繋がれていて身動きが出来ない。今の俺に出来るのはこれぐらいだ。
「……前も言ったけど。……契約しに来た。……私と貴方は相性がとても良い。この心地良い夢からも解る」
「契約? どういう事だ? それにこの悪夢が心地良い物だとふざけているのか!」
俺は意味が解らず怒り気味に女の子に聞く。
「……ん。貴方はようやく、この世界と馴染み始めてきた。……だから私と契約して貰うために来た。……ホントはもっと早く契約したかったけど……貴方が中々寝付かなかったから出来なかった。……でも、これでやっと契約できる」
「その契約とやら、俺に何の利点が有る? 契約するのなら他を当たってくれ。俺は無月を助けないといけない」
俺は女の子を無視し手錠を外そうとするのを続ける。その手錠が外れる事は無いのは解っている。それでもだ。
「……ん。それじゃあ外せないよ。……私と契約したら外せるかもしれないけど。……私も数百年生きてきて契約出来そうな人をやっと見つけたんだ。……私の夢の為にも逃がさない」
「今。この手錠を外せると言ったな! 間違い無いな! 俺はその為なら何でもする! 何だってする!! 契約だろうと何だってしてやる!!」
俺は自分でもこんな声を出せたのかと思いながら大声で女の子に頼み込む。
「……ん。……意外と簡単に契約してくれるんだ。……「??」もここ数百年の第二候補者たちも話がまともに通じない精神異常者しかいなかったから助かる。……でも、その手錠が解けてもその子はもう死んでるよ」
「それでも構わない! 俺は無月を助けれるなら何でもする! 早くその契約を俺に!」
俺は恥も何もかも捨て自分より遥かに小さな女の子に懇願する。
「……慌てなくても契約する。……だけど、貴方は別世界から来た異物。……まだ、身体がこの世界と完全に馴染んでない。……その手錠を外すのにはまだ時間が掛かる……それでも契約してくれる?」
「ああ、構わない! どれだけ時間が掛かろうとこの場所から無月を救い出せるなら──」
「……それなら、……契約を始めよう。──我、世界により「??」の「??」に選ばれし者、汝、世界にて「??」の「??」に認められし者汝に我から別れし「??」の「??」を全て授ける」
女の子が何らかの呪文を唱え始める。その呪文が終わると女の子の身体から俺の身体に──いや精神に向けて何等かの感情が押し寄せてくる。俺はその感情をただ受け入れる事しか出来なかった。その感情を俺は精神で受け入れると酷く気分が塞いで行くのを感じた。目の前の景色が全て薄暗く見える。俺は確認とばかりに手錠を外そうとする、だが勿論外れない。
「……ん。……契約は無事成功したみたいだね。……貴方に「??」の「??」は問題なく譲り渡せた」
「何も変わらない」
「……変化と言う物はいつだって自分では気づかない物。……貴方には私の夢の為に……いや私と貴方二人の夢の為に頑張ろう」
女の子は俺の頭を優しく撫でる。
「聞いていなかったな。お前の夢ってなんだ?」
俺は女の子に頭を撫でられながら聞く。女の子は俺の頭を撫で続けながら答える。
「私の夢は────────────だよ」
俺は初めてその女の子の見た目を確認する。
その女の子はムツキよりも十くらい小さな慎重で、寝ぐせだらけでかなり伸びきった白い長い髪をしている。眼はその髪色と同じくとても白いものだった。服はパジャマの様な物を着ており目は今起きましたといったような半開きの目でこちらを優しく見ている。
「ああ、そんな簡単な夢か。それなら俺でも協力出来そうだ」
「……ん。……簡単な事が一番難しいんだよ。……協力するって言った以上は必ず叶えてもらうよ」
女の子は俺という協力者が出来て嬉しそうにする。
「……貴方に与えた力を使ってもらう為に近くに寝ていたキングボアを寝ている貴方に向かって攻撃するように向かわせたよ」
「わざわざ向かわせる必要無いだろう」
「……力っていうのは使って体に馴染ませないと意味が無いんだよ。……貴方には協力者として早く力を身につけて欲しいから」
「それで魔獣を向かわせたのか?」
「うん。ダメだった?」女の子はそう言い首を横に傾げる。
「いや、別に構わないさ。それがこの手錠を外す事に繋がるんだろ? 名前を聞いていなかったな。俺の名前はユヅキ・サヤマだ」
「……ん。……ユヅキ、私の名は──────
少女の名前を聞き終えそこで俺の悪夢は終わった。




