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能力名

 俺達は今帝国の植民地を抜けて同盟国に向かうための森を歩いている。

その歩く道はある程度、舗装されていて歩きやすい。


「……なあ、ムツキ俺の恰好どう思う?」


 隣を歩くムツキに俺は話しかける。ムツキはこちらをジッと見ると答えた。


「…………ご主人は……いつでも……カッコいい」


キラキラした目でムツキは見つめてくる。


「……いや、違うそう言う意味じゃない。俺の今の服装や臭いについて聞きたい」


 俺の今の服装は、下は黒い学生服のズボン、上は元は白かったが血に塗れて真っ赤になった半袖のワイシャツだ。それ以外にも肌が見えている所にも血はたっぷりとこびり付いている。ライネスの「狂気爆弾(クレイジー・ボマー)」による民衆爆撃を直撃で受けたせいだ。爆破のダメージを消せても飛び散る血は防げない。


「…………だいぶ……血なま臭い……見た目も……家畜を解体した後……みたい」


「……だろうな。この見た目で同盟国に入れるのか?」


「…………行ったこと……ないから……わからない」


 どう考えても入国できないだろうな。何処かで血を落とせたり、服装を変えれればいいのだが……。周りを見ても一面緑に生い茂る木のみ、近くに人気は無い。


「……こっちの道で合っているのだろうか?」


俺達の歩く道は一本道だ分かれ道とかは無かったため問題は無いと思うが。


「…………それも……わからない」


 それでムツキとの会話は終わる。

 俺もムツキもかなり言葉数が少ない方だ。この二人旅は静かで中々居心地は悪くない。

 俺達は黙々と同盟国に向けて歩き続ける。俺の見た目の問題は今はまだ考えないようにしよう。それよりも今重要な事は──食料だ。ライネスにより食料の入った鞄を爆破された。同盟国までどのくらい時間が掛かるか分からない。それまで食料無しで行くのは流石にきついだろう。


「ムツキお腹は空いてないか? まだ歩けるか? 一度休憩を挟むか?」


 俺は隣を黙々と歩くムツキに話しかける。ここまで休憩無しだ。ムツキが疲れていないか気になる。


「…………大丈夫……問題ない……歩ける……お腹も……大丈夫」


「そうか、疲れたらいつでも言え。食料については今は手に入らないから、俺の能力で少しだけ何とかしよう」


 そう言い俺はムツキの手を触る、そして能力を使用し俺とムツキの空腹を減少させた。現状食料を手に入れる手段は無い。回復した能力は空腹を凌ぐ為に使う。完全に食事を取らなくて言いわけでは無いが多少のその場しのぎにはなるだろう。


「……さっきの……戦いでも……凄かったけど……ご主人の……この力は?」


「ああ、これは能力って言うらしい。俺の能力は人や物の力とかを上げ下げできる。それを使い俺とムツキの空腹の減りを減少させた。だが減らしただけで完全に無くなりはしないから腹が減ったらすぐ言えよ」


「…………やっぱり……ご主人は……凄い……この能力って……名前は有るの?」


「名前? 名前か……。いや無い」


 考えた事も無かった。いや考えたついたとしても多分、いや間違いなく俺は自分でこの能力に名前をわざわざ付けないだろう。自分で能力に名前を付けてもその名前を使う機会は無いだろうからな。


「…………名前は……大切……ご主人が……戦ってた人が……言ってた……つけるべき」


 ムツキが名前を付けるように圧力をかけてくる。俺の能力の名前を付ける事にどうしてここまで拘るのか解らない。


「俺にはいまいちピンと来る名前は思いつかないな。ムツキお前が決めていいぞ」


 何故ムツキが俺の能力の名前に執着するか知らないがムツキに決めさせれば落ち着くだろう。俺には名前の重要性が理解できないし、名前など思いつかない。なら適当に付けて貰った方が良いだろう。


「…………私が……付けていいの?」


 ムツキは少し嬉しそうに考え込む。


「……なら……ご主人の……能力名は……「調節アジャスメント」なんて……どうかな?」


 ムツキはわくわくと気持ちを表現するように俺に尋ねる。「調節アジャスメント」かそのままの意味だな。まあムツキが嬉しそうならそれで良いだろう。


「ああ、解った。俺の能力の名前は「調節アジャスメント」だ。これからそう言うようにしよう」


「……やった」


 ムツキは小さくガッツポーズをする。よっぽど俺の能力に名前を付けれたのが嬉しいんだろうな。俺は横で嬉しそうにするムツキを見ながら歩き続ける。今の位置や場所は解らないが大分進んだんじゃないか? 

 日も傾いてきた。今日はこの辺で休むか。


「ムツキ今日は結構進めた。ここらで朝まで休もう」


「…………うん……ご主人」


 俺達は少し森の奥に入りムツキに地面に腰を掛けるよう指示を出す。

 俺は周囲に落ちている木の枝をある程度集め原始的な方法で火をおこそうとする。

 普通にやっても体力を消費するだけで火は着かないだろう。だが、俺の能力で木と木の摩擦力を上げてしまえば話は別だ。簡単に火をおこせる。


「…………あたたかい」


「食事は無いが暖は簡単に取れる。これで寒さに苦しむことは無いはずだ」


「……ご主人……私が……鞄を……守れなかったから……ごめんなさい」


「何度でも言うが別に気にしなくてもいい鞄を守れなかったのは俺の責任もある。そんなことよりも今日はもう寝るといい。寝れば空腹を多少は誤魔化せるだろう。日が昇ったら直ぐに歩き始めよう。同盟国に着きさえすれば何とかなるだろう」


 自分に言い聞かせるように話す。同盟国に着いても俺達は金銭も何も無い。着いた所で何が変わるというのだろうか。そんな考えが頭によぎる。だが、俺達に同盟国に行く以外の選択肢は初めから無い。考えても無駄な事だったな。


 隣からムツキの寝息が聞こえてくる。ムツキは俺の肩に寄りかかる。俺はそれを受け止める。焚火の暖かさ以外にムツキの暖かさが俺の肩を通し伝わってくる。それを感じ俺は焚火の火が消えないように枝を足し続ける。


 俺は今能力を使い自分の眠気を極限まで少なくしている。理由は沢山ある。一つは焚火の火を消さないようにするため。もう一つは、獣や盗賊などが現れた時にすぐ動けるため。この森は結構深い野生の獣などが出てくる可能性は高い、そして帝国の植民地を少し見た感じではこの世界の文明はそんなに高くなさそうだ。それと同じく治安の方も俺達の居た日本と違いかなり悪いだろう。警戒して損は無さそうだ。


 そして最後の理由だが、いやこれが本当の理由だろうこの能力を使用し眠気を消している間は俺は悪夢を見ずに済む。無月が無残な姿で殺される姿を見ずに済むのだ。俺はこの世界に来て能力を手に入れて嬉しいと思ったのはこれが初めてだろう。これで俺から無月を奪う光景をもう見ずに済む。


 俺は暗闇に燃える火をただ見つめた。

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