狂気爆弾 その③
俺の拳がライネスの顔に直撃した。
(……どうなっている? 俺の思考に身体が追いついてこない! 俺が防衛のための爆破をしようとヤツに触れようとしても……。遅い! 触れ無い! 何もかもがスローモーションだ!! 俺の腕も! 今ヤツが振るっている拳も! 全てゆっくりと動いている! 痛い! 痛い! まだ顔を触れたばかりだぞ!! この拳が俺の顔を殴り抜ける! その痛みの最後まで俺は耐えきれるのか? いや、ヤツのあの眼は本気で俺をこのまま殺す気だ!! 痛い! 痛い! この状況ヤツが俺の腕を掴んでからだ! この手を振りほどかなくては、ああ、遅い! 痛い! 身体が付いてこない! ああ畜生!! この状況を解決するにはあの手しかないか! ああ痛いだろうな。ああ畜生!)
「このまま殴り抜ける。止めを刺す」
俺が拳を振り抜こうとするも途中で爆音がする。直ぐにライネスを掴んだ手に違和感を覚える掴んだ感覚がない。俺の手は宙を掴む。ライネスの手はそこには無かった。すぐさまその部分を見る。そこには俺に掴まれていた部分が欠けているライネスの腕があった。
コイツ俺の能力による拘束を解く為に自分の腕を爆破したのか。この爆破によるダメージは俺には無い。まだ能力による耐爆が効いているからだ。
「──この傷、あいつに直させるも間違い無く跡に残るだろうな。ああ畜生。痛い! お前、名前はなんだ?」
「先に自分の名前を言うのが礼儀じゃないか? そもそもお前に教える名前な──」
「ああ、お前転移者だから俺の名前を知らないのか俺の名前はライネス・クリューケント。墜国のライネス・クリューケントだ! 小僧お前の名は?」
「…………ユヅキ・サヤマだ」
「……ユヅキ・サヤマ……。覚えたぞ。その名! お前は俺が必ず殺す! そのすました顔を苦痛と悲鳴に溢れた顔に塗り替えてやる!! ユヅキ・サヤマァァァ!」
ライネスは苦痛を耐え大きく笑い俺の名を叫ぶ。
「カズマ撤退だ! ここでできる事はなくなった! 糸を出せ!!」
「そいつに手を出すな。その約束で俺達は強力関係を結んだはずだったが?」
「ユヅキ・サヤマは俺の爆破を喰らって傷一つ付いていない。手を出していないのと同じだと思うが? 何か問題でも有るか? それよりお前には本国に戻って異世界転移者共の能力を知っている限り全て教えて貰わなくちゃいけない」
舌打ちをし一真が壁を超える様に糸を出す。その糸はライネスと一真を結び二人は宙に浮き壁を超える。
「じゃあな! 俺はお前を必ず殺す! ユヅキ・サヤマァァァ!」
叫び声と共に二人はその場から消える。
「ムツキ! 大丈夫か? 怪我は無いか?」
俺はライネスとの戦闘時に爆破されたムツキの元に駆け付ける。俺の能力で爆破耐性を上げたから問題は無いはずだが……。
「…………ご主人……私は……大丈夫……でも」
ムツキは指を指すそこにはライネスとの戦闘時に爆破されたと思われる俺の鞄があった。ムツキの防御しか考えていなかったため鞄に耐性を付けるのを忘れていた……。
「…………鞄……守れ……命令……果たせなかった」
「お前が無事なら、問題は無い。それより騒ぎを聞きつけ人に来られると不味い。走ってこの場を逃げるぞ。立てるか?」
今周囲は大量の爆散した死体に塗れて居る。更に俺は全身その血に塗れている。この場を見られれば間違いなく犯人だと思われるだろうもしその場を切り抜けられても俺は火災の罪で追われている。捕まれば死罪は免れない。そして俺の奴隷扱いとなっているムツキにもその罪はかかる。
もう俺の能力の残量は残っていないこれ以上の戦闘は無理だ。人が集まって来る前に逃げる以外選択肢は無い。
俺は投げた木刀を拾う。
「……大丈夫……走れる」
申し訳なさそうな顔でムツキが俺の後を着いてくる。
俺達はやっとのことで、門を抜け街の外に出た。
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ラクギリヤの部屋に慌てて部下が入り込む。
「ラクギリヤ様! 街に墜国のライネス・クリューケントが現れたと言う報告が上がりました!!」
「…………今の被害状況はどれくらいになっている?」
部下の報告を聞きラクギリヤは深刻そうに聞く。
「五十名ほどの民間人が殺害されたとの事です!」
「五十人……少ないな」
「…………お言葉ですが! 一人で五十名の民間人を大事ですよ!!」
「君ここに帝国から配属されて今日で何日になる?」
「……はあ? 半月程になります!」
その言葉を聞きラクギリヤは静かに話始めた。
「それならば知らないのは無理も無いだろう。我々十刀聖騎士の内二人はライネス・クリューケントにより殺害されている。その殺害の犠牲に五千万人の民が巻き込まれ死亡された。それでライネスはまだ暴れているのだろ。これ以上犠牲者が出る前に私が出よう!!」
「……五千万人!?」
部下はその犠牲者の数を聞き軽く悲鳴を上げる。
ラクギリヤは腰に差す剣六本と一本の木刀の中から真剣の方に手を掛けた。
「それが私達の取り逃した少年により撃退されたそうです!!」
それを聞きラクギリヤは軽く笑みを浮かべる。
「……ほう、少年が墜国のライネス・クリューケントを退けたか! 私の見込み通りだな! やはり彼はこの世界の扉を開ける鍵になるかも知れないな……」
ラクギリヤは自身の金髪の髪を触りながらつぶやく。
「…………世界の扉の鍵? どういう意味ですか?」
「いや、こちらの話だ。忘れてくれたまえ。それよりサンクはまだ見つからないのか?」
「……はい。今だ何の情報も見つかりません」
ラクギリヤはその言葉を聞き小さくうなずくと部下に尋ねる。
「ヤツにこちらにくるよう指示を出していたが……まだ来ないのか?」
「十刀聖騎士ボーエル・アハナム様ですね! こちらに到着するまでに後二日ほど掛かるそうです!」
「そうか、解った。到着次第直ぐにこっちに来るように伝えて置いてくれたまえ」
「了解です!」
そう言うと部下は部屋から出ていく。一人になった部屋でラクギリヤは嬉しそうに呟く。
「…………少年。君は私の期待を裏切らない。君はこの世界を間違い無く変革する存在となるだろう。その舞台の為に私も準備を進めて置くとしようか……」
その眼はこの世界全てを憎むような金色の眼をしていた。




