契約
まだ夜がふける中立ち尽くす俺に銀色の髪の少女が下から話しかける。
その少女の銀色の眼を見つめて俺は聞く。
「……名前?」
「ん?なんだ」
「…………名前……まだ聞いてない」
少女は何かを期待する目で聞く、俺はその眼をみながら答える。
「……俺の名前は狭山有月だ」
少女は俺の名を聞くとその部分を小さく呟く。
「……サヤマ…………ユヅキ」
「ああ、そうだ。君の名前はなんて言うんだ?」
少女を警戒させないように優しく少女の名を聞く。すると少女は、
「……名前は無い……そこの、とか……お前って呼ばれてた」
少女は顔色一つ変えず俺に伝える。
「なら、帰る場所も行く場所も無いのか?」
「……ない」
俺は少し考え込みその答えが解っていながら少女に尋ねる。
「行く場所がないなら着いてくるか?俺は今追われる身で、同盟国に逃げ込む予定だが……でもそこに行っても今の状況が良くなるとも限らない、しかも俺は同盟国に行ったことも、名前を知ったのもつい最近のことだ、それでも着いてくるか?」
少女がどう答えるか、それはきっともう何を言っても変わらないのであろう、俺はそれを知りながら念入りに聞く。少女の言葉は俺の予想と全く同じものだった。
「……ついていく…………どこまでも」
少女の目には光は一切なく俺をじっと見つめた。
「なら、お前の名前は狭山無月だ。……いやムツキ・サヤマそう名乗ると言い。
俺は今日からユヅキ・サヤマと名乗る。俺の事は好きに呼べばいい」
少女に、いや、ムツキにそう伝える。妹と一瞬見間違えた少女に妹の名前をつけることに何も考えていないわけもなく、それでも自分の考えを無視しムツキとその名前を冷静に呼ぶ。俺の感情を全く知らずに、少女は目にほんの少し光を灯し、嬉しそうに自分につけられた名前を呟く。
「……ムツキ……サヤマ………うん……わかった」
そう自分の名前を呼ぶ少女に俺は感情を捨て話す。何も考えないようにして、ただ冷静に話す。
「俺達は兄妹ということにしよう。そのほうが何かと都合がいいからな……」
俺は自分自身に吐き気を催す、それを知らず少女はほんの少し笑みを浮かべる。
その笑みは近くでよく見なければ全く変わって見えない。だが、その笑顔は純粋でただただ綺麗なものに俺には映った。
「……きょう……だい……うん……わかった……私たちは……今日から……兄妹」
「まずはこの家から出るぞ。これから朝まで身を隠す場所を探しに行くぞ」
俺はムツキの笑みを見なかったことにし、自分を冷静にし話す。
「……まって」
「何か、持っていくものとか有るのか?」
「…………奴隷契約……しないと……私は……ここから……出られない」
ムツキは机の上にある何かの契約書のようなものを指さす、その内容は俺の理解できる言語で書かれて居らず、おそらく魔術言語なのであろう、その契約書の前に俺は立つ。
「俺は何をすればいい?」
「……その紙に……私と……貴方の……血をたらせばいい」
ムツキは机の上にあったナイフを手に取り右手の指を少し切り契約書に赤い液体を垂らす、その顔色はすこしも変わらない。俺はそれを見てそのまま指を少し切り血を垂らす。すると、契約書が光だし、ムツキの右手の甲に赤い魔導陣のようなものが刻まれる。
「…………これで……大丈夫」
「もう、忘れ物はないな?」
「……ない……大丈夫」
ムツキがそう言うと俺達は家を後にした。




