プロローグ
9月。新学期。
普通の学生達は憂鬱な時期だが、今年の私はそんなことない。
死に直面したことで日常の大切さがとか、そんなんじゃない。
9月に修学旅行がある。浮かれている。
私も、私以外のクラスメイトも。
半年後死ぬかもしれないのにお気楽なことだと言われれば否定はしきれないが、だからこそこういったものは楽しみたい。
行き先は大阪と京都。
大阪は初日にテーマパークに寄って遊ぶだけらしいから、実質的には京都旅行。
班員も私、優子、遥、小宮さん、鬼宮さん。仲良し5人組だ。
きっと楽しい修学旅行になる。
「悪いが俺と遥は修学旅行には参加しない。当日には風邪を引く予定だ」
神無月家で、浮かれている私に彼方が言った。
風邪を引く予定という聞いたことのない予定。当日は4人班になるわけだ。
多分仮病使うってことだろう。もうだいぶ慣れて来たけど、一応ツッコんでおこう。
「風邪引く予定って何よ」
「仮病使うって意味だ。俺と遥は修学旅行には行かない」
「結界作りが忙しいから?」
「いや、関係なくやる事があるからだな。もう随分前に決めていたことだ」
なんだ関係ないのか。
もしそうなら悪いなって少し罪悪感あったんだけど、関係ないならいいか。
「彼方、あさひ甘やかすのやめなさいよ」
私と彼方が話していると、やって来た遥が入り込んできた。
「通常業務に結界作り入ったのよ。おかげで忙しくて仕方ないわ」
「そんなこと言っても仕方ないじゃん。私のせいではあるけど、別に私がやらかして業務増えたわけじゃないんだしさ」
「まあ、本来で言えば特別業務に当たるだろうな。神無月家の本来取るべき行動から考えればさっさと殺してアマテラス様を救出するべきまである」
「……特別業務って通常業務より下なの?」
私の疑問に、彼方と遥が少し呆れた顔をする。
「いい、あさひ。毎日こなしていくタスクや、特定の期限までに何かしたり、事前にわかっているのが通常業務、特別業務は通常業務と違い手の空いた人がそれぞれ余力で進める業務よ」
「うーん。じゃあなにか緊急で動かなきゃいけなくなった場合は何業務なの?」
「その場合は臨時業務だな。講習でやったが、覚えてないのか?」
「うん、まあ、ちょっと忘れちゃってたかも」
「もう一回受け直させるか」
やべっ、地雷踏んだ。話そらすか。
「そ、それより!本来特別業務なんでしょ?なんで通常業務になったの?」
「ああ、それは遥が会議でお前を助けたいと泣きながら幹部説得してどうにか通常業務としてねじ込んで」
「か、彼方!そんなことより京都のこと話したほうがいいんじゃない!?」
私の逸らした話題は、遥によってさらに逸らされる。
ごまかそうとしてるけどしっかり聞いたからね。あとでからかってやろう。
「京都のこと話すって言っても、彼方達来ないんでしょ?じゃあ別に話すことないんじゃないの?」
「うーん、よく考えたら別に話して不安にさせることもないかしら?」
「いや、一応話しておこう。修学旅行の頃に京都で八岐の大蛇が復活する」
「……は?」
ヤマタノオロチ。何したとかあんまり知らないけど、私でも聞いたことのあるビッグネーム。
私でも名前知ってるってことはそれはもう相当なやつだろう。それが出るって?
「修学旅行やってる場合じゃなくない!?中止よ中止!」
「安心しろ、現地の神無月家が対策を立てている。何も問題ない」
「安倍晴明を呼び出すんだっけ?じゃあまあなんとかなるでしょ」
「あ、彼方の部下たちがなんとかするのね」
よく知らないけど、なんかすごい人呼び出すらしい。
普段小うるさい遥がこれだけ言うならまあ大丈夫なのかな?
「別に部下じゃないぞ」
「ん?晴明さん部下じゃないの?」
「まあそっちも部下ではないが、京都の神無月家はうちとは別の家だからな」
「……そうなの?」
「彼方がトップなら指揮しに行くに決まってんでしょ。彼方が入っても指揮系統ぐちゃぐちゃになるだけよ」
「京都の神無月家は俺達みたいな野良じゃなくエリートだから、まあ何もしない方がいいだろ」
「野良?彼方が?」
「……今のは忘れろ」
彼方がそう言ってそっぽを向く。なにか隠してんなこいつ。
「まあいいわ。任せとけば大丈夫なのね?」
「ああ、多分無いが一応要請されたら力を貸してやれ。いざという時はツクヨミ様を祀る神社に行け。手助けしてくれる」
「万が一そうなったらアマテラス様とツクヨミ様がヤマタノオロチ退治か。奇妙な巡り合わせね」
「どういうこと?」
「あー……いや、お前は別に知らなくていいことだ」
そう言って彼方は話を打ち切った。
今度はなにか隠してるのではなく、単に説明がめんどくさいといった感じだった。




