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険しきを冒す者たち  作者: 村松 柊榎
第二章︰絶海の遺跡群
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第16話︰フュージアの6日間②

「ぐっ、急になにするんだ、シズク。」

「あんた、理性と理屈だけで槍を振ってるんですってね。やっぱり、予想通りね、直感を疎かにしすぎよ。」


ああいった戦い方の弱点は、直感のような、戦闘に重要な感性すら無視してしまう事。全ての行動を考えてから行っていては、どうしても反応の速度が遅くなる。あの程度の奇襲、彼と同じ高名位の冒険者なら誰でも防げたはずだ。


「だからって、急に斬りかかって来ることは無いだろ……。」

「気に入らないのよ、あんたのその戦い方が!考え方がっ!」


ウチは、ノアルに向かって剣を構える。普段使っている刀とは重心も違えばリーチも違う。でも、それはアイツも同じことだ。


「いいかしら、剣っていうのは、武器っていうのは、心で振るものよ!」

「……違う。武器は合理をもって理性で振るものだ。」


ノアルも槍を構え、臨戦態勢をとる。


そして、ほんの一瞬の静けさのあと、互いに武器へ魔力を込め、駆け出した。


~~~~~~~~~~


「「はぁ、はぁ、」」


勝敗は、引き分け。そもそも初級位(ビギナー)から中級位(ミドル)の修練用に作られた武器だ、ウチらが本気で魔力を込めて撃ち合った結果、数合の後、互いの武器は同時に砕け散った。


「あーあ、弁償だよ、これ。どうしてくれるんだ。」

「知らないわよ。アンタが素直にやられてくれないからでしょ!」

「無茶苦茶だ……。」


互いに武器が砕け、戦意はもうなくなった。消化不足な感じもあるし、まだノアルに思うところはあるが、今日はもう、いいやって感じだ。きっと、コイツもそうなんだろう。

そんな事を考えながら、修練場の地べたに2人座って、話をしていた。


「お疲れさん、2人とも。」

「お、お疲れ様です!自分、おふたりに比べればまだまだだなって、自覚しました。いつか、2人みたいに強くなれるように、もっともっと努力しますっ!」


アレスとマリウスが、タオルと水を持ってきてくれた。


「ありがとよ。なぁ、アレス。俺たちは、どっちが正しいんだろうな。」

「戦い方は人それぞれだよ。どっちかが確実に正しい、だなんて言い切れるものじゃない。それはノアルが一番分かっているだろ?」

「そうだな、すまん。」

「でもまあ、僕個人としては、冒険者としては、どちらかと言うとノアルの考えに賛成かな。冒険者ってのはパーティで行動するものだから、一人ひとりが自分の感性と直感で動くより、合理的に規格化された動きの方が連携も組みやすいしね。」


そっか。アレスも、ノアルの味方か。


「でも、感情を排して戦うなんて、誰にでも出来る事じゃない。そうだね、」


アレスはマリウスの方に振り返る。


「マリウス、感情を一切乗せずに剣を振れ、とまではいかなくてもいい。ただ、感情に流されちゃダメだ。想いを乗せた剣と、想いに乗せられた剣は、違うよ。これだけは、覚えておいてね。」

「はいっ!」


それなら、ウチも納得ができる。何というか、彼はこういうのを、周りが程よく納得いく形に落とし込むのがとても上手だ。


なんだか、使った体力以上に、疲れた気がする。


「それじゃあ、ウチはもう帰るわ。」

「おい、シズク。」


立ち去ろうとしたウチを、ノアルが呼び止める。


「何よ、まだなにかあるわけ?」


不機嫌に聞き返したウチに、ノアルは少し悔しそうに言った。


「お前の剣、その、悪くなかったよ。きっと、もう何合か続いていたら、負けていたのは、俺だ。」

「……当然よ。」


上から目線で気に入らないが、その悔しそうな顔に免じて、今回は不問にしてあげることにした。



~2日目・冒険者クラン「バベルブリゲード」仮拠点~



「ねぇミラ、アレスの好きな物とかって、知ってる?あ、賭け事以外でね。」

「アレスさんの、好きな物?」


最近、シズクさんとよく喋るようになってきた。

最初は、私たちのクランを壊そうとしていたって聞いて警戒していたけれど、何度か話してみると意外と話が合ったりした。

可愛いものとかが好きだったり、普段はとっても勝気でカッコイイ女の人なのに、アレスさんの話になると途端に恋する乙女って感じの顔をする、普通の女の子。


「うーん、好きな物かぁ。あ、辛い食べ物かな。」

「うっ、辛いのはウチ苦手なのよね。どうしようかしら。」

「アレスさんをデートに誘いたい、とか?」


図星だったらしい。こういう時のシズクさんはとても分かりやすい反応をする。


「アレスさんなら、特にそういう理由を付けなくても、ふたりで遊びに行きたいって誘えば喜んでくれると思うよ?」

「そう、かしら?」

「うん。そういうお出かけのプランとか立てるのも上手だろうしね。」

「それはそれで、何か手馴れてる感じで嫌だわね。」

「アレスさんはモテるからねー。でも、あの人“あんな”だから、大抵の女の人には最終的に見放されているの。だから、シズクさんがこのままアピールし続ければ、きっとアレスさんはシズクさんに振り向いてくれるよ。」

「理由が理由すぎて素直に喜べないわね、それ。」


そう言ってシズクはため息をつく。


「それにしても、ミラのアドバイスはとっても参考になるわ。やっぱりこういうのは成功者に聞くに限るわね。」


え?


「成功者?」

「そうよ?あんたノアルと付き合ってるんでしょ?」


……。


…………。


「付き合ってないよ?」


………………。



「はあぁぁぁぁぁぁぁ?!うっそでしょ?!」


そこまで驚くことだったのだろうか。

でも、私たちって、そういう風に見られているんだって思うと、なんだか嬉しく思う。


「ミラ、ノアルの好きな物とかは知ってるわよね?」

「えと、物語、特に英雄譚の類い。それと甘いものと辛いもの、というか味の濃い食べ物、かな。」

「いい、あの男をデートに誘いなさい!そしてさっさとくっ付くのよ!」


すごい剣幕で迫ってくる。さっきまでの恋する乙女は何処へやら。


「今日よ!今日アイツがここに来たらそのまま誘いなさい!」

「う、うん!わかった。」


押されるままに返事をしてしまった。

でも、ノアルさんとデート、かぁ。

うん。勇気をだして、声を掛けてみよう。


「でも、その前に、まずはシズクさんから、みたいだね。」


扉が開き、そこにはアレスさんの姿が。


「ほら、シズクさん!」


背中を押す。

彼女はさっきまでの勢いを失い、何って声を掛けようかで悩んでいる様子。


「あ、あのっ


ばーーんっ!


意を決し、シズクさんがアレスさんに声を掛けようとした直後、入口の扉が勢いよく開かれる。


「おいアレスっ、聞いたか?!この街に本格セントラル料理の移動屋台が来ているみたいだぞ!セントラルフラワー出身の料理人が作る激辛マーボードウフが看板メニューだってさ!コイツは行くしかねぇだろ!!」

「本当かいノアル!いやしかし、僕は今お金が……」

「そんなもの俺がいくらでも出す!行くぞ!今すぐだ!」

「ノアルっ!キミは僕の最高の親友だよ!さぁ行こうか!」


……。


…………。


そして、テンション高めな男2人は街中へと消えていった。


………………。


「「はぁ。」」


2人のため息だけが、部屋に残された。

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