第 2 話
私達は伊藤くんの提案で、階段を引き返した。
「12段だったね。これって現実?」
シッ……と、伊藤くんに制される。
彼はそっと、上を指差した。
コツ……コツ……、ゆっくりと降りる足音。
「誰にも会っちゃダメだ。早くここを出よう!」
小声の伊藤くんに、私は素早く頷いた。
駆け出した廊下の先で、灯が揺れる。
「マズい……こっちだ!」
私達は、ドアの開いていた教室へ飛び込んだ。
――静寂。
咄嗟に入ったのは、『開かずの教室』だった。
内から閉めたドアは、壁のように動かなくなった。
時が止まったような感覚におかしくなりそうだった。
「帰りたいよ……」
私は適当な席に座り、教室のドアを見つめていた。
伊藤くんは教室を歩き回り、時折何やら呟きながら手帳に文字を書いていた。
――真剣な表情が心強い。
目線をドアに戻した、その時。
ドアガラスに現れた『動く人体模型』と……目が合った。
瞬間、息が止まる。
教室のドアが激しく揺れ、見る見る軋んでいく。
真っ二つになったドアを持つ人体模型が、破片を踏んで入ってくる。
その肩を、後ろから伸びる手が引き戻した。
人体模型の後ろから現れたのは、懐中電灯を持つ先生だった。
「君タチ……逃ゲナサイ」
伊藤くんは私の手を取った。
「行こう!昇降口だ!」
私は手を引かれながら、人体模型の怪力を抑え込む背中を見て呟いた。
「……あの時の先生じゃない」
――昇降口は、びくともしなかった。
「私……トイレ行きたいかも」
伊藤くんは目を見開いて、頷いた。
静まり返ったトイレ前、二人の声は震えていた。
「……じゃあ、後でね」
「うん……また後で」
――男子トイレ内。
伊藤は洗面台の前に立った。
蛇口を捻る。
「僕の予想が正しければ、脱出は可能なはず」
水を止め、顔を上げた……その時。
「――背後に鏡!?いつの間に!?……マズい!」
伊藤は咄嗟にポケットに入っていたものを投げ……鏡の割れる音と共に、姿を消した。
「――ッ!伊藤くん!?」
――恐る恐る踏み入れた男子トイレ。
床には、割れた鏡が散乱していた。
その中に、見覚えのあるものを見付けて拾い上げる。
「これは……さっき教室に居たとき、伊藤くんが書いてた……」
『魔の合わせ鏡』
『トイレの花子さん』
『七不思議の呪い』
「『異界の異界は現実』……私、伊藤くんを信じるよ」
私は手帳を胸に抱いて、女子トイレに戻った。




