第 1 話
バイト帰りの夜道を、私は走っていた。
教室にスマホを忘れるのは珍しいことじゃない。
でも、学校を出るまで気付かなかったのは初。
連絡できなくて、お母さん……心配してるかも。
夜の学校。小走りで辿り着いた教室。
そのドアが開かなくて、手が滑った。
「えっ……どうして!?……まさか、『開かずの教室』!?」
開かないドアを揺らしていると、カチャカチャと金属の当たる音が聞こえてきた。
音のする方に振り向いた瞬間、眩しい光が目に刺さった。
「そこで何してる」
「先生眩しい!スマホ忘れたの!」
「忘れ物か。開けてやるから、下がってろ」
そこに居たのは、懐中電灯を持った先生だった。
先生は鍵束をさっと照らし、すぐに鍵を開けてくれた。
「ほら、早く取ってこい」
「ありがとうございます!」
私はスマホを回収すると、そのまま逃げるように帰った。
でも……何かがおかしいような。
先生の顔……暗くてよく見えなかった。
鍵束が揺れる音が聞こえて、懐中電灯で照らされて……
あれ……?どの先生だったっけ?
ちょっとだけモヤモヤする。
……そうだ!
クラスの怪談マニア『伊藤くん』に聞いてみたら、何か分かるかも!
――翌朝。
窓際の席に座る伊藤くんに、昨日のことを聞いてみた。
「……それ、開かずの教室じゃなくて、『宿直の先生の怪』だよ。本当に困ってる生徒を助けてくれるんだけど、2回目は『居残り』させられるんだって。
……楠さん、よく帰ってこれたね」
ため息混じりにそう言われ、急に恥ずかしくなる。
「……以後気を付けます」
私はそそくさと、自分の席に戻った。
――2日後。
部活で遅くなった帰り、またしても私は置き忘れたスマホを取りに来ていた。
「やっぱりドア、開かない!」
鍵の音が近付いて来た……その時。
「こっちだ!」
「え?伊藤くん!?」
私は急に現れた伊藤くんに手を引かれて、上の階まで駆け上がった。
階段を登りきったところで伊藤くんは立ち止まり、自然と手が離れる。
「はぁっ……伊藤くん、なんでここに?」
見ると、伊藤くんも少し息が上がっていた。
「君を……『宿直の先生の怪』から助けるためだよ。
……はい、スマホ」
彼の手には、私のスマホが握られていた。
「神じゃん!何か行動を見透かされてる気がするけど……ありがと」
スマホを受け取ると、伊藤くんは階段に振り返ってぼやき始めた。
「アイツ、追って来ないな……ん?今の階段……」
気味の悪い、無音の間。
首だけ私に向けて、伊藤くんは呟いた。
「……13段あった?」
「まさか……」
伊藤くんの口調が、確信めいたものに変わる。
「そうか……この学校は教室が施錠管理されてて、先生は普通に居たんだ!
……楠さんゴメン、『魔の13階段』で異界に連れて来ちゃったっぽい」
「伊藤くんのバカ〜ッ!」
私の叫び声は、虚しく響いた。




