運命の出会い(リーヴァ視点)
俺がいる国は独裁国家パラシアス。地図で言えば南側に位置していて、海が近いため海産物が豊富な国。
俺は昔その王都に住んでいたが、ある事件が起きてしまい俺は逃げるように西側にある残虐の森と呼ばれる森に逃げ込んだ。
山賊に襲われていたところを師匠に助けられて、今はこの森で修行しながら一人で過ごしている。
「今日も大漁っ大漁っ!」
俺は川で釣ってきた魚を背負い籠に入れて、上機嫌で家へ帰ろうとしていたのだが。
「ルビナ様!お逃げください!」
そんな大きな声を聞いた俺は声のする方へ向かうため、獣道を歩き少し開けた道を上から見た。
「おいおい、つれないじゃねえか。俺らと遊んでいけよ」
「あなた達みたいな野蛮な人間の言う事など聞くはずないでしょう!」
十人程の山賊に女性が二人。完全に囲まれているが、女性のうち一人はもう一人を逃がそうとしている。
名前はルビナとか言ってたか。
まぁいい、あの山賊完全にあの二人を弄んで殺す気だろう。俺は太ももに携帯していた短剣に手をかけてタイミングを見計らっていた。
「強情な女には少し痛い目見てもらったほうがいいみたいだな!」
その瞬間、女性の方が剣を構え受ける体制を見せたが、体格差があるだけじゃなく、性別差もある。
山賊の振りかぶった剣を受けることはできず、カキンッと大きな金切り音が響いた後剣を落としてしまった。
「くっ.....なんて力....」
「おいおい、あんだけ威勢がよかったのに一発で終わりかよ」
取り巻きの山賊たちは武器をおろし完全に油断している。
女性の方は弾かれた拍子に手を痛めたようで、手を抑えながら山賊を睨みつけるだけ、もう一人のルビナとか言う女性は怯えているだけで、剣を構えることもしていない。
(なん何だこいつら)
女性が剣を持つこと自体が珍しいのに、なぜこんなところに二人だけなんだ。このあたりでは特に内戦などは起きていなかったはずだが....っとそろそろか。
「じゃあ言った通り少し痛い目にあってもらうぜ」
山賊が剣を振りかぶりその女性に降ろされる...がその剣は目標を捉えることはなかった。
俺がその山賊に短剣を投げ頭を貫いたからだ。
「お、おかしらぁー!」
山賊共は何が起こったか分からなかったようで、混乱しているようだ。
(さて後は八人で後ろに弓兵1人、まずは遠距離兵を潰すか...というよりあれって頭だったのか)
そう思い音を立てずに後ろの方まで行くと腰に携帯している剣を抜きながら目標を捉えた。音を出すことなく弓兵の背中に斬りかかり、即座に近くにいたもう一人を串刺しにした。
しかし、こいつらが死に際に声を上げたことで、俺の存在がバレてしまった。
「な、何が.....お、鬼!」
残りの山賊は俺の姿を見たことで戦慄した。それもそのはず、俺は鬼の仮面を被り剣を持っている。それだけなら戦慄することもないのだが、大事なのは場所だ。
この森が残虐の森と言われている理由にこの鬼の仮面があり、はるか昔に帝国軍の一万の兵士がこの森で鬼に殺されたという伝説があり、それは今でも語り継がれ恐れられているからだ。
「山賊共、今から逃げるなら殺しはいないが」
俺が最後の忠告として、慈悲を与えると逃げ出すように山賊たちは散らばっていった。残ったのは俺を含めて三人。
俺は山賊に襲われていた二人に近寄り声をかける。
「お前らはなぜこんなところに来たんだ?」
俺の質問に対して帰ってきたのは疑いの瞳。
「あ、あなたは私たちをどうするつもりですか?」
さっきの惨殺を見てか少し怯えたように質問をしてきた女性だが、質問に質問で返されても困るので、少し圧をかけることにする。
「お前らはただ、聞かれたことに答えればいい。どうするかはそれを聞いてから決める」
殺気を向けながら、もう一度問うとあきらめたように口を開いた。
「私たちはパラシアスの軍のものです。敗戦してしまいここまで逃亡してきたんです」
それを聞いた俺は疑問にしか思わなかった。
嘘は言っていないようには思えるが、パラシアスはあれでも大国で軍事力も1・2を争う程だ。
こんな女性を増してはもう一人の方は子供、そんなやつを兵にするとは思えなかった。
「パラシアス軍が敗北したといったが、何があったんだ?内戦などはなかったはずだが」
首をかしげている俺に女性は少し呆けたように聞いてきた。
「ミクラナ帝国の進軍があり、それを止めるための兵でした。それよりもこんなことも知らないなんて、あなたはパラシアスの国民ではないのですか?」
その言葉を聞いて俺は返答に戸惑った。王都での事件以来、俺はパラシアスにかかわらないようにこの場所にいる。
確かに土地の問題ではパラシアスの国民ではあるが、パラシアスが好きなわけでもなければ憎んですらいる。
「パラシアスにいるだけと言っておこう。それよりもお前らはこれからどうするんだ。パラシアスは逃亡兵には厳しいだろう」
そうこのパラシアスが独裁国家と言われる一つは逃亡兵は最悪殺される、よくて奴隷落ちだ。
そして女性なら.....
「それに関してはどうにかなるはずです」
迷いもなく断言するこの女性は何か確信を持っているようだった。
「それはどういった理由だ?」
これは興味本位だったが聞いてよかったと思う返答が帰ってきた。この女性は少女の近くに行き、「もう大丈夫そうです」と声をかけるとこちらを振り返ってきた。
「この方がパラシアスの第三王女だからです」
それを聞いた俺は耳を疑った。
パラシアスには確かに王女と王子がいる、しかしそれは王子が三人、王女が二人。
つまり第三王女などいるはずがないのだ。
そのため俺はこの女性が嘘をついていると思い剣を向ける。
「俺がパラシアスにいるだけといってもそれが嘘なのは分かる。パラシアスに第三王女などいない」
こうすれば本性を現すはずだ。だが俺の思惑とは裏腹にこの女性は変わらなかった。
「嘘などではありません!この方はパラシアスの第三王女パラシアス・ルビナ様です!」
それが嘘じゃないと思った瞬間俺は鬼の仮面の下で口角が上がるのが分かった。
(あぁ、やっとこの時が来た。みんな見ててね)
「なるほど、本当のようだな」
頷いた女性.....いや従者か。従者を見て俺は剣をしまい、第三王女のもとへ向かう。
王女のもとに着き警戒する従者だが、次の瞬間その警戒は解かれることになる。
「今までのご無礼お許しください。パラシアス・ルビナ第三王女。私はアルデナ・リーヴァと申します。どうぞお見知りおきを」
俺は膝をつき王女に頭を下げた。
それを見てか王女はローブを取ると、陰によって見えずらかった金色の瞳そしてそれに対するような、綺麗な銀色の髪を見せてくれた。
前髪には左側に三つ編みが施されており、視界の邪魔にならないよう、そして何より気品が漂うだった。
「謝罪はいりませんよ。私たちはあなたに助けられたのですから....お礼申し上げます。」
二人が立ち上がったのを見て俺も立ち上がると従者が空を見て王女に提案をした。
「ルビナ様もう日が沈んでしまいます。道から少し離れたところで野営して明日また王都を目指しましょう」
かしこまった様ではあるが、どこか平民のしぐさを隠しきれていない従者を見ながら、俺はこれを好機ととらえた。
「失礼を承知で申し上げます。ここでは先ほどのように山賊に襲われる可能性がありますので、私の家でお休みになられてはいかがでしょうか」
胸に手を当て頭を下げて、誠実を表し敬意を示す。
助けられたこともあるためこれならば....
「そうですね、ではお言葉に甘えさせていただきます」
思ったより簡単に物事が進みすぎて、仮面の裏で上がる口角を抑えるのが難しくなってくる。
「いいのですか?ルビナ様。」
チッ、余計なことを言いやがってこの従者、疑い深い。
逆にこの王女は人を疑うことを知らないのか。王族の癖に謙虚にしているのも気に食わない、何を隠してやがる。
「大丈夫です。シャーレこの人は悪い方ではなさそうです。それに助けていただいた方を疑うのは良くないですよ。」
「ですが....」
この従者シャーレというのか、こっちはどうでもいいことだ。
話は決まった様でシャーレはまだ不満そうだったが主がそう決めたのだから従うだろう。
「では、こちらへ」
俺は先行するように家へ向かう道中、置いたままだった魚が入った籠を取りに行った。
「ここです。王女様をもてなすには貧相な家ですが、出来ることはしますので体を休ませて下さい」
「もともと野宿の予定だったのですから、家があるだけでもありがたいです」
王女からはお礼を従者からもお辞儀をもらい、家のドアを開き王女と従者を中に入れる。
二人が入った瞬間ロープを手にした俺は王女に素早く巻き付け捕縛した。
王女は「えっ」と何が起こったのか分からない様子だったが、従者はこちらに殺気を飛ばして持っていた剣を抜いた。
「やはり信用するべきではなかった!」
今助けますと、こちらに向かってくるが俺は直ぐに静止させる。
「まて、王女はここだぞ」
捕縛した王女を従者に向ければ、従者は剣を収めた。
「何が目的ですか」
そうして、俺に殺意を持った目を向けているがこいつにとっては、いいことが起きるはずだ。
「この王女を殺したいだけさ、出来るだけ苦しんでもらってからな」
こいつは平民だろうから、王女に気に入られたかで無理やりやらされているんだろう。
こういえば王族が嫌いなパラシアスの国民は何も言わないどころか解放される、と喜ぶ....そう思っていたんだが。
「そんな事させる訳ないでしょう!早く開放しなさい!」
驚くことに帰ってきたのは、怒りの感情。俺には理解できないものだった。
「何故だ。お前の立場では王女に好きなようにされる。憎むことくらいあるのだから死のうが構わないだろう」
「私は心からルビナ様に忠誠を誓っているのです。その方を殺すことは絶対に許しません」
そうしてもう一度剣を構えたシャーレとかいう女性の目には、刺し違えても殺すというものが見える。
どうして横暴なパラシアスの王族に、ここまでの忠誠を誓えるのか分からなかった俺は、シャーレを試してみることにした。
(人間の本心は死に際にわかるもの)




