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孤独の人  作者: 神の恵み
現代編
9/113

第9話 不覚


どこから仕入れて来たのか知らないが、父は6年生の勉強時間の調査結果を持って来た。


中学受験をする子供の勉強時間は、平日で2~3時間。

勉強時間のアンケート結果と偏差値を関係付けると、

2~3時間は偏差値換算で46以上。

3~4時間で偏差値換算54以上。

4~5時間で偏差値換算62以上。


で、お前はどうなんだ?という話題らしい。

A4スケッチブックに書いてみる。


俺は

5時起床、仏壇に読経どきょう。準備運動とトイレ。

6時から7時半まで問題集、1.5時間。

7時半から8時が朝食。30分で身支度。

9時~15時が学校。

16時半に道場や英語塾に移動。

17時~18時、道場や塾。

道場や英語塾から戻り参考書20時~23時の3時間。

合計して4.5時間ほど。


「時間だけで見ても問題はないみたいだけど…」


「しかもおまえ、好きで勉強してるもんな~」


「自分なりに目標をすぐ近くに設定して、達成感が得られるようにしてるからね。そういえば、資源株が高く売れたあと、しばらくは上昇トレンドだったけど、最近は円高に振れて来たね」


「あぁ、ギリシャの財政赤字をはじめ、EU諸国が次々と債務危機に陥っているみたいだ。ユーロ安、円高基調が続くかもな」


父と祖母は今日も缶ビールで親睦を深めるようだ。

俺は、大人チックな経済の話をしてから部屋に戻る。


「あっ、あきら! 俺、明日からの土日、あっちで泊まるから居ないぞ」


「了解」




いつもと同じ、朝5時半に起きて仏壇にお経を唱えてからスクワットを50回。

6時から中学用問題集に取り組み、7時半に朝食。


今日は祖母も、友人と紅葉を見に行くらしい。

そういう季節だ。


実は学校の無い土日は、LINEで『おはよう』と交換している。

ただ、それだけなのだが、今日は喫茶店でお昼を食べる事になった。


『今日のお昼ご飯は、お店で食べるからね』


と、いつもの指示口調でLINEが届いたのだ。

何も考えずに『了解』と返事した俺も、悪いと言えば悪いのだが…。


俺は長財布を使ってなくて、小銭入れを使っている。

4つ折りの千円札を4枚、1万円札が1枚。

小銭入れの両側にポケットがあって、片方には交通系カード。

裏側のポケットにクレジットカードを入れている。



11時半に家を出て、約10分。

ショーケースのサンプルを見て、大体の価格を知っておく。

ほぼ外食や買い食いはしない生活をしているから相場感がないからだ。



『カラ~ン』


ドアを開けて入ると、カウンターの中にいた彼女が一番奥の席を指差した。

そこには『予約席』の札が立ててあった。

(もしかして彼女の誕生日か?)



「いらっしゃい」


きれいな声でお水を持って来てくれたのは、初めて見るバイトのお姐さんのようだ。


「あ、ありがとうございます」



なんか、『ふふっ』と小さく笑って、戻っていった。

自分の服装チェックをもう一度してみるが、ミスはない…はず。


お水を少し飲んだあと、カウンター辺りを見てみると、彼女が盛り付けをしているみたいだ。

(お店のメニューなら手作りと言うのか、言わないのか…)


オムレツが彼女の手で運ばれて来た。

バイトさんは、スープを。


めっちゃニコニコしてる。

「私が作ったのよ!」


「記念に撮ってもいいかな?」


「もちろん」


「じゃ~ ケチャップで、ハートマークいれてくれる?」


「ん? で、でも…そういう関係じゃないし…」


「いや、写真映しゃしんばえ?しないと…」


「ま、ま~ね…これでいい?」


「うん、あと、この下に『あきらへ』って」


「何で私がコクらなきゃいけないわけ?」


「じゃ~蘭の分は俺が書くから、どう? 助け合うんでしょ?」


「こ、これって、助け合いなの? ふう~~ ま~いいわ」



オムレツにハートマークとその下に互いの名前をケチャップで書いて、お互いに写真を撮り合った。

そしてバイトのお姐さんが、二人の並んだ写真を撮ってくれた。


「いただきま~す」


俺ははっきり言って、味覚が未発達なので、微妙な味の違いは分からない。

寺に預けられるまでは、主に総菜で育った。

だから最初の寺の食事には、味が無いように思っていた。


だけど、高野豆腐や野菜の料理は、住職と手伝いの農家のおばさんの手料理で、次第に味が分かるようになった。

もっと長い期間寺にいたら、料理も教えてもらえたのかも知れない。


正直、野菜が好きで、お肉が食べたいとかはあまり思わない。

ハンバーグやトンカツも、特に好きとかではなく、普通かな。

カレーは別。時々、カレーうどんが食べたいと思う時がある。



向かいの席の蘭の視線を感じた。


「おいしいです」


本当は普通だと思っているけど、自分の味覚に自信がないだけ。

おそらく、俺がおいしいと感じる味は、必要以上に濃い味なんじゃないかな。


「ごめんね、オムレツを食べた事がない気がする」


「えっ? 初めてってこと?」


「うん」


「いつもは祖母の作る和食だし、その前はお寺の料理だったから」



なんか、みんな、可哀想な人を見る目になっている…


「お寺って、どういう事?」


「3年生になる時に奈良の山寺に預けられて…4年生になってここへ来たんだ」


「その前は?」


「ん~ 大阪にいたんだけど、覚えてないんだ…」


泣きそうな顔になっていたのかも知れない。

オーナーさんが俺のところに来て、裏口から連れ出してくれた。


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