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亡き婚約者の遺言〜20歳年上の婚約者に先立たれました。息子(20歳)を頼むと遺言されましても〜  作者: しののめ


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7-1 誘惑の館

「どうぞ、こちらへ」


 無駄口ひとつ叩かず、表情ひとつ変えない、人形のような使用人に導かれるまま、私とリオンは廊下を進んでいく。


 外国から輸入した特産の大理石の床。水晶が輝く豪奢なシャンデリア。異国情緒あふれる精巧な置物。

 

 その屋敷は、リオンが居住する領主の館よりも贅を尽くしたものだった。まったく。


(ろくでもないなぁ)


 その金の出所は一体どこなのか。少なくとも綺麗なお金ではないだろう。隣を歩くリオンは顔色ひとつ変えないけれど、きっと苦々しく思っている。


 さて、ここはサレノ領主一族の一人、リオンの祖父の弟、つまり大叔父であるグラート様の屋敷だ。

 リオンには大叔父が二人いて、どちらも領主の館から馬車で一時間程度の場所に居宅を構えているので、そこそこ行き来しやすい。


 リオンの頼みとは予想に違わず、この反リオン派の筆頭、グラート様との面会に立ち会え、というものだった。確かに一人で相手にするのは面倒だし精神的に疲れる人物だ。


 私も会いたくない。


(しかも食事会と一泊付きとか)


 地獄かな。

 でもリオンは、ジーク様の遺言を私の鼻先に突きつけて、


「着いてきてくれるよな?」


とにっこり微笑みながら恫喝した。ジーク様に恩がある私は、その遺言には逆らえず、ただただ、


「はい」


と殊勝に答えるしかないのだった。心の中で、


(チッ)


と舌打ちすると、


「お前、今、舌打ちしただろう」


と指摘された。


 心を読まないでください、怖いです。


⭐︎


 そんな経緯でグラート様の居宅を訪れた私たちは、使用人に案内され客室に通された。


 グラート様は革張りのソファにどっかりと座っていて、そのままの姿勢で、


「ようこそ」


と口を開いた。

 リオンの大叔父、グラート様。一体、どんな暴飲暴食をしているのか、でっぷり丸々と肥え太っている。


(領主候補を入り口で出迎えしないなんて、舐められてるなぁ)


 いくらリオンが若輩者とはいえ、彼は直系の主筋で後継(予定)だ。失礼な態度だと思いつつも、そんな気持ちはおくびにも出さずに、私もリオンも、それなりに愛想良く挨拶の言葉を口にする。


「お招きいただき、ありがとうございます」

「ごきげんよう、グラート様」


 グラート様は、さすがにリオンにはにこやかな笑顔で対応してみせたけれど、私を見るなり、ふんと鼻を鳴らした。


「貴女まで付いてきたのか。ーー相変わらず行き遅れて辛気臭いことだ」


 まあ、招かれざる客ですよね。分かります。


 でも一応、私もフォスター領主の直系の娘なんだよね。領主の継承権こそ義弟に譲っているけど、身分は保持されているから、このサレノ家傍系の男に、あからさまに下に見られる謂れはない。

 けれど、私は温厚な平和主義者なので、軽妙に返してみせましょう。


「あらあら。グラート様こそ、少し見ない間に、またふっくらされたようで。お洋服からも脂肪がはち切れそうで腸詰を思い浮かべてしまいました。こんなにたっぷりのお肉、何だか私、胸焼けがしてきました」


 にっこりと微笑む。

 グラート様のこめかみがぴくっと痙攣した。


 ほほほほほ。はっはっは。


 私たちは微笑み合う。素晴らしいコミュニケーションだ。仲良きことは、素晴らしい。


 隣ではリオンが、げんなりした顔をしていた。


⭐︎


 そんなふうに応接室で、大して実のない話を続け一時間ほど経つと、ちょうど夕食時に差し掛かった。


 ……ちなみにグラート様のお話はほとんど、リオンと私に対する嫌味だった。まあ、半分以上、適当に聞き流していたけれど。


 まあ、そんなわけで、


「そろそろ食事にするとしよう」


となり、食堂に通された。


 食堂のテーブルには既に、所狭しと食べ物が並んでいた。なかなか貴重な食材も多いけど、多分、客のために用意したのではなく、自分が食べたかっただけだろう。


 そして壁際にはずらりと並んだ使用人。グラート様の機嫌を損ねないよう、主人の一挙手一投足見逃さないという緊張感に溢れている。

 そんな中、一人の肉感的な美女が、ワインの瓶を持ってリオンの元に近づいてきて、


「お注ぎいたします」


と婉然と微笑んだ。

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