叔母様来襲
3人も侯爵家に慣れただろうということで、お父様が対外的に3人を侯爵家に迎え入れた事を発表する為にお披露目会をすることになった。
主だった親族や貴族が招待されてのパーティーだ。もちろんキャサリンさんが取り仕切る。
奥方としての手腕を発揮する場だ。
元々身分は低くとも趣味の良いキャサリンさんの出した招待状は上品で素敵だった。
あとは会場のセッティングや料理の手配が女主人の役目となる。
実を言うと前回のお披露目会は大失敗した。
何故って?それはもちろん私が陰で邪魔をしまくったから。それともう一つキャサリンさんには強力な敵が私の他にももう一人いたから。
それは何を隠そうお父様の実の妹であるエイダ叔母様だ。
エイダ叔母様は身分絶対主義者でお父様が身分の低い男爵家の娘と再婚したのがとても気に入らなかった。
前回の私はお父様が3人を連れてきたと同時に叔母様に連絡を入れ、激怒した叔母様はお父様をなじり、キャサリンさんをなじり、私が可哀想だと抱きしめて泣いた。
私も私の味方は叔母様だけだと訴え、叔母様とタッグを組んで3人を追い出すワナを山ほど仕掛けた。全部不発か不完全燃焼で終わってしまったけれど。叔母様が考案した意地悪をカイルやクレアにしたこともある。
私の反発叔母様の反対などがあって、前回のお披露目は今回よりもはるかに遅かったけれど、お父様のごり押しでお披露目会は開かれた。当然女主人としてキャサリンさんは奮闘したけれども、私が招待客リストを紛失させたり、誤った人数を告げたり、叔母様が料理や飾りつけ業者に根回しなどをして最初から満足いくようなスタートにはならなかった。それでもなんとか開催はされたものの料理の質は低いわ年配者に配慮されない椅子配置だわ、極めつけに最後大きな事件が起こってしまい、キャサリンさんの社交界での立場はどん底まで落ちた。
その時に叔母様は強く離縁を訴えたけれども、お父様は頑として承諾しなかった。
けれども今回は違う。
今回の私はキャサリンさんの敵ではない。むしろ味方。
絶対に今回のお披露目は成功させてみせる。
キャサリンさんの為にも、私の(隠居の)為にも!
その為には叔母様に邪魔をされる訳にはいかない。
幸い今回は私が叔母様にお父様の再婚を告げなかったおかげで、叔母様は招待状が来るまでこのことを知らなかった。
そこで私は招待状が届くであろう日にちの翌日にキャサリンさんとカイルとクレアを街に買い物に出かけさせた。
名目はお披露目会の衣装の寸法を測りに。
衣装屋に言えば向こうが来てくれるのは分かっていたけれども、急なことだからこちらが出向くと伝えて無理やり3人を外に追い出した。
もし今日来なければ明日また別の理由をつけて3人を屋敷から追い出さなければいけない。
しかし予想どおり、招待状を見たエイダ叔母様は翌日早々馬車に乗って我が家に押しかけてきた。
「お兄様!再婚なさったというのは本当ですの!?どうして私に一言の相談もなく勝手に決められたのです!?しかもこのキャサリンって名前に憶えがありましてよ!お兄様が昔付き合っていた身分の低い男爵家の女ではなくて!?」
スカートを持ち上げて迫って来る姿は暴れ牛の突撃のようだ。
「やあ、エイダ。よく来たね」
しかしお父様は慣れた風で叔母様の怒りを無視して朗らかに挨拶をする。
「やあではありません。お兄様には前々から私の親友であるバーバラを薦めていたではありませんか。バーバラは伯爵令嬢ですのよ、それなのになぜ身分の低い男爵令嬢などと再婚なさったの?」
「バーバラ嬢は美しく身分も高い申し分ない女性だと思うよ」
「そうでしょう、それなのに。分かったわ、またあの卑しい女がお兄様を誑かしたのね。任せて、お兄様。私があんな女追い出してやるわ。どこ!どこにいるの?」
「まあ、落ち着きなさい。キャサリンたちはいないよ。今外出中だ。それに私はお前が何を言おうとキャサリンと別れるつもりはない。バーバラ嬢と付き合う気もね」
「なぜですの?」
「バーバラ嬢は身分も高く容姿も美しい。けれども少し束縛が強い」
「そんなの相手を愛しているなら当然ですわ」
「一緒に道を歩いて少しよそ見をすれば他の女に見とれていたんだろうと詰られ、仕事で待ち合わせに少し遅れれば浮気を疑われる。そんな疲れる女性と一生生活を共にするのは無理だよ」
「バーバラは少し繊細なだけですわ。女性の焼きもちなど可愛いもんじゃありませんか」
「お前があんまり煩いから何度かデートをしたけれど、それだけで私はもうお腹が一杯だよ。あれを可愛いと思えるのは10代までだよ。この年でいちいち痛くもない腹を探られるのはご免だ」
「まぁ。それではバーバラのことはもういいですわ。でもそれとこれとは別です。独身ならまだしもバツイチの上に子供が二人もいる女性と再婚するのはどういった了見ですの?はっ、もしかしてあの二人は実はお兄様の隠し子!?」
叔母様思考が私と丸被り。
そうよね、普通はそう思うわよね。
実際前回キャサリンさんは長い間お父様の愛人で二人は隠し子だったって噂がまことしやかに流れていたし。まぁ流したのはほとんど私だけど。
「落ち着きなさい。とりあえずまずは座ってお茶でも飲みなさい。折角ティアナがお茶を煎れてくれたんだから」
「どうぞ」
私がテーブルに叔母様の好きな紅茶を置くと、初めて私の存在に気が付いたようで、私に向かって駆け寄ってきた。
「ああ、ティアナ!可哀想に」
言うなり私を抱きしめた。
叔母様の豊満なおっぱいに顔を押し付けられて苦しい。
く、く、く。
「お兄様、こんな可愛い娘を不幸にするなんて死んだお義理姉様になんと申し開きをするおつもりですの!?」
「・・・とりあえず今ティアナを苦しめているのはお前だぞ、エイダ」
お父様の言葉に私が息が出来なくてジタバタしているのに気が付いて、叔母様は手を緩めた。
「ぷはっ、叔母様お久しぶりです」
「ティアナ、いい子ね。叔母様に任せておきなさい。身分卑しい女など私が追い出して差し上げるわ」
優しく頭を撫でられる。私の事を可愛がってくれる私にとっては良い叔母様なのにね。
「私の心配をしてくださってありがとうございます、叔母様。でも大丈夫ですわ。キャサリンさんは素敵な方ですし、クレアも可愛いしカイルに至っては聡明で優しくて思いやりがあってそれでいて大胆な所もあって容姿も素敵なんですのよ」
ここぞとばかりに叔母様にカイルを売り込む。
叔母様を懐柔出来ればカイルがこの家を継ぐのに強い味方になってくれるのではないかとの打算付きだ。
しかし叔母様は甘くなかった。
私の言葉に少しも心を揺るがすことはなく、それどころか親子そろって悪女に騙された被害者だと認識された。
「なんてこと、私が少し目を離しただけでこの家が悪女に乗っ取られようとしているなんて。お兄様もティアナも優しすぎるからすぐ人に騙されてしまうのよ」
「私が人に騙される訳がないだろう」
「お兄様の頭が働くのは仕事の時だけじゃありませんか!それ以外はポンコツの癖にっ」
叔母様容赦ない。
でも死んだお母様も同じこと言ってたし、そこは私も同意。
「とにかくこの再婚は無効ですわ、私は認めません」
「私の結婚にお前の許可は必要ないよ。再婚に反対ならお披露目には来なくていい。縁を切っても構わない」
「んまぁ!悪女に騙されて唯一の血縁である私まで切ろうだなんて。良いですわ、このお披露目で私がしっかり判断してあげますわ。あの方が立派に侯爵夫人としてふるまえるのならば私ももう何も言いませんわ。その代り私や他の方が失格とみなしたらお兄様も諦めて離縁なさってくださいね」
「・・・どうしてそんなことをする必要がある?」
「あら、自信がありませんの?ご自分が選んだ女性が侯爵夫人として立派に家を切り盛りできるかどうか」
「あるに決まってるだろう」
「ほほほ、ならば何も問題はないじゃありませんか」
エイダ叔母様はパチンと持っていた扇子を手に打ち付けた。
「お兄様の妻になるということはすなわちこの伝統ある我が家の侯爵夫人となること。お飾りじゃ許されませんのよ」
エイダ叔母様は下からお父様を睨みつけた。
「私は容赦致しませんことよ。愛や恋で身分不相応の女をこの家に入れる位でしたら徹底的に排除してやりますわ」
ぞくっと背筋に寒気が走った。
叔母様は本気だ。
叔母様が反対なことは最初から分かっていた。けれど、前回子供だった私が反対していたような軽い気持ちではなく、叔母様は貴族の歴史や実家の重みを背負って反対している。
私とは深みが違った。
なんとなく私が意識を変えられたから叔母様にも3人が悪い人じゃないと分かれば理解してもらえるんじゃないかと簡単に思っていたけれど、そんな甘いものじゃなかった。
叔母様は敵だ。
今回それを改めて認識した。




