↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王殺しの最強剣士、居酒屋の親父になる~引退した元SS級冒険者のおじさんは、王都の片隅で正体隠してひっそりと無双する  作者: 流あきら
一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/10

002 孤児院

「あなたは……ロイさん?」

「お久しぶりです」


 その女司祭とは、何度か顔を合わせたことがあった。

 名前は確か、ヴァレリーといったはずだ。

 俺は一室に通される。

 壁の一角には、主神である女神レナスの像が飾られていた。


「このあたりも被害にあいましてね。幸いうちは、施設も子供たちも全員無事でしたけれど」

「そうでしたか」


 しばらくは、よもやま話が続く。

 とはいえ、ぐだぐだ思い悩んでいても仕方ない。

 それにヴァレリーも、俺がここに来た用件には、薄々気づいているだろう。

 俺は懐からペンダントを取り出し、机の上に置いた。


「これは……まさか」


 ヴァレリーの声がかすれる。


「イザベルの形見です」


 彼女は黙って、銀色の鎖に魔術文字が刻まれたそのペンダントを手に取る。

 しばらくは無言の時間が過ぎた。


「あの子はここの誇りでした。とっても優秀な子で。魔術学校を首席で卒業して。王宮魔術師にだってなれたでしょうけど、冒険者の方が稼ぎがいいからって。この施設にも随分寄付してくれました。それで……」


 ヴァレリーは涙をぬぐった。

 あふれ出す感情のままに、言葉を続けなければいられなかったのだろう。

 

 イザベルは大陸一の魔法使いと言われていた。

 純粋な魔術師としての実力なら、魔族より劣るとされる人間族。

 それを術式の改良や合成魔術、多人数連携で補ってきた。


 だがイザベルは数少ない、個人の力で上位の魔族を圧倒できる魔術師だった。

 魔王との戦いの前には、魔術師ギルドから大魔導師の称号も贈られていた。


「何といって言いかわかりませんが……魔国との戦いでは大きな戦功をあげ……そして苦しまず、安らかな最期でした」

「それもまた、レナス神の思し召しなのでしょう。取り乱してごめんなさいね。ロイさんの方が、お辛いでしょうに」

「いえ、とんでもありません」


 イザベルたちの葬儀は、アステリア王国の主催で行われる。

 だがそれとは別に、イザベルの霊を慰める儀式を行うと、ヴァレリーは言った。

 

「ロイさんは、これからどうなさるのですか?」

「ずっと王都にいます。ウミネコ亭という親友の酒場を継ぐつもりです……何かあったら、いつでも訪ねてください」


 俺はそう言って、孤児院を辞去する。

 次に向かうのは、そのレオンの実家の酒場、「ウミネコ亭」だ。

 港にも近い十一番通り沿いにある。


 ウミネコ亭までは孤児院から一時間もかからない。

 だが目的の場所に近づくにつれ、遠目にウミネコ亭の酷い有様が目に入る。

 屋根には穴が開き、壁は崩れ、敷地を囲む石垣も破損している。

 

 道すがら、王都のあちこちで見た破損や火災の痕は生々しかった。

 だが目についた限り、この周辺で、ここまで破壊されている建物はなかったはずだ。

 まさかこの建物が、魔族の狙い撃ちにあったのか……


 その時ふと、レオンの言葉を思い出す。


『父さんに、おふくろの実家に疎開してくれって言ってるんだけどね。店を離れるわけにはいかないってさ』


 レオンが手紙を握りつぶしながら言った姿が目に浮かんだ。


「おやじさん、おふくろさん、ティータ!」


 自分でも気づかぬうちに、俺は叫びながら馬を駆る。

   

 その時――


「だから売らないって言ってんだろ!」


 怒鳴り声が聞こえた。

 俺は急いで馬を止め、慌ただしく街路樹に繋いだ後、敷地の中に入る。


 店の庭では、二人の女性と数人の男が言い争っていた。

 一人はもちろんレオンの妹のティータであり、もう一人の中年女性も顔に見覚えがあった。


「まぁまぁ。そんなに大声をあげなくても」

「あんたたちがしつこいからだろ。さっさと帰っとくれ。二度と顔見せるんじゃないよ」

「おい、ババア。黙って聞いてりゃ」


 主に話しているのは男たちと中年女性であり、ティータは怯えたように立ちすくんでいる。

 そして一番大柄な男がその女性に詰め寄り、手をあげようとする。

 だがその手が振り下ろされることはなかった。


「暴力はあまり感心しないな」

「なんだてめぇ」


 男は俺の手を振りほどこうとする。

 俺は相手の手を軽くつかみ、男の動きに先回りして、微妙に相手の力をいなし、重心をコントロールする。

 つかんだ手を外すことも、俺を突き飛ばすこともできず、圧倒的な力量の差をさとったのだろう。

 男は黙りこくって大人しくなる。


「もうすぐ日が暮れる。とりあえず、出直しちゃどうかね」


 俺は男たちに視線を送る。

 俺の迫力に気おされたように、それぞれ顔を見合わせていた。

 腰の剣も効果があったかもしれない。


 俺は彼らの力量を瞬時に見抜いていた。

 つかえる奴はいない。

 武器も持っていないようだった。


「わかりました。今日のところは退散します。また考えておいてくださいよ、デボラさん」

「何度来ようと同じだよ!」

 

 というやりとりの後、男たちは去っていった。


「奥さん、ティータ、大丈夫かい?」

「……まさか……ロイさん?」


 ティータの目にみるみる涙がうかぶと、俺に抱きついてきた。


「よかった……ロイさんが生きてて……よかった」

「お前が無事でよかったよ、ティータ……その」


 俺は後の言葉を飲み込み、優しくティータの背をなでる。


「知ってるよ……兄さん死んだんだよね。シェンさんもイザベルさんも。でもロイさんだけでも生きててよかった」

「あぁ。安らかな、レオンらしい最期だったよ。これを」


 俺は腰の物入れから指輪を取り出し、ティータに渡した。

 ティータはしばらくそれを握りしめる。

 やがて一筋の涙が頬を伝った。


「可哀そうにねぇ、ティータも。ご両親とお兄さんをいっぺんに亡くして。あたしゃ赤ん坊の頃からレオンを知ってるんだよ!それで……」


 ティータの横にいた中年女性も、泣きじゃくる。


「ティータ、おやじさんとおふくろさんはやっぱり……」

「うん。死んじゃった」


 涙も枯れ果てたのか、ティータは寂しそうにぽつりと呟いた。

 ティータが学校に行っている時、実家が火事にあったらしい。

 魔族の襲撃の可能性もあるが、原因は不明だそうだ。

 ティータの父のニコラと母のタマラだけでなく、従業員たちも亡くなったという。


「そうか……」


 俺は何とも言いようがなく、もたれかかってくるティータを抱きしめる事しかできなかった。

 やがてティータは身体を離すと、笑顔を見せる。


「元気出さなくちゃね。せっかく生き残ったんだし」


 明らかに無理をしているが、今は他に話すべきことがあった。

 

「ティータ、この人は」

「うちが取引してる酒屋のおかみのデボラさんだよ」

「何回か会ったことあるねぇ、ロイ。あんただけでも生きててよかったよ」


 デボラは顔をくしゃくしゃにして、俺の背をたたく。

 

「デボラさん、お久しぶり。デボラさんこそお元気そうで」

「なんのなんの。最近うるさい奴らがうろついててさぁ」

「その事だが」

「あぁ。こんなところで立ち話も何だから、うちへ来なよ」


 俺は酒屋の中庭に馬を移動させると、ティータと一緒にデボラの家へ招かれる。

 客間に通され、俺には麦酒(エール)、ティータはリンゴ水が出された。


「ふぅ。久しぶりのデボラさんとこの麦酒(エール)は最高だね」

「当り前さぁ」

「それで、さっきの奴らは何なんだ?」

「それがさ」


 デボラとティータは事情を説明する。

 デボラが主に話し、ティータが補足する形だった。


 今回の戦争は、王都のあちこちに被害を及ぼした。

 この機会に、再開発の動きがあるという。

 あちこちの店や土地を買いとって、市場や劇場を含む大規模な施設を建てる計画らしい。


「あたしんとこは、じいさんのそのまたじいさんの頃からここにいるからさ。今更よそへ行けと言われてもね」

「奴らはよく来てるのか?どこの商会だ?」

「最近ちょくちょくね。さっきのはバルビエ商会の奴らさ。どうせどっかの貴族が後ろ盾に

ついてんだろうけどね」


 俺がずっと戦場にいたせいもあるが、こういった話を耳にした事は無い。

 『ウミネコ亭』が無くなってしまうのは困る。


「お店が無くなって、家も半分壊れて。魔術学校の授業もあって……わたし、どうしていいか……」


 ティータは語り出した。

 やって来るのは、あの地上げまがいのバルビエ商会の奴らだけではない。

 元の客や地元の人間が来て、色々な事を言うらしい。

 こういう状況でも営業した方がいいとか、落ち着くまで店をしめろとか、少女一人ではどうにもならないから廃業を検討しろ……等々。

 魔術学校に通う、まだ十五の少女には荷が重すぎる状況だった。


「こんな時にする話じゃないかもしれんが、ティータ。レオンから、ウミネコ亭を手伝ってくれと言われててな。俺としても、できたら奴の望みをかなえてやりたいのさ」

「ええ。聞いてます。お父さんがレオンとロイに店を譲るって。確かそんな証文も」

「なんだって?」


 それは初耳だった。


「わたしも学校があるし、一人でお店なんてできないし……お父さんのお店をロイさんが継いでくれるなら、わたしも安心できます」


 店を譲るという証文は、冒険者ギルド『黄金の牙』に預けているという。


「わかった。確認してみる。それと今日から家で寝ない方がいい」

「はい」

 

 ティータは何か言いたげだったが、そう返事をした。

 今までは半壊した自宅の一室で寝泊まりしていたという。

 俺はデボラにティータを泊めてくれるよう頼む。

 デボラは快く了承してくれた。

 俺自身は今日は、近くの宿屋にとまることにする。


「これ、少ないけど」


 別れ際、俺はデボラにこっそり銀貨を数枚渡す。


「あらあら、こんな。いいのに」

「ほんの気持さ。頼むよ」

 

 色々と驚く事があった一日だった。

 明日は、どうあってもギルドに顔を出さなければならないだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。