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第5話 焦り

 カエデが月に話しかける時間だ。

俺は退屈な任務を早々に切り上げた。


 俺はいつもカエデのいる場所に照準を合わせた。

だが、カエデはいなかった。

いつも同じ時間にいるのに。


まー、マミと学校で寝てるんだろう。


 俺は退屈な監視に戻り、カエデを待つことにした。

監視中俺は何度もカエデのことを考え、いつもの場所に照準を合わせた。

カエデはいなかった。

その度に、こんな日もある。

友達と遊んでいるんだろう。

そう思うようにしていた。


 俺の仕事は地球の監視だ。

カエデのことは仕事のおまけに過ぎない。

なのに……

全く仕事に集中ができない。


 また、照準を合わせる。

カエデは——いない。


カエデ……何かあったんじゃないか?


 俺は頭が真っ白になった。

鼓動が早くなり、目の奥が熱を発しているのがわかった。


カエデを探さないと!


 監視人には一人一台、単座艇が支給されている。

それで探しにいけば——

俺は、単座艇の起動装置に手を伸ばした。


「あー疲れた」


 その時、カエデが現れた。


「塾で遅くなっちゃった。来年受験生だからって、張り切りすぎなんだよね」


 カエデはいつも通りだった。


 しんどい。

……寿命が五十年くらい縮んだ。

間違いない。


 はぁ、と息が漏れた。


……何やってるんだ、俺。


「それでさー、補習になっちゃって」

「志望校上げないとダメかな?」

「で、マミがまた寝ちゃってねー」


 今日もカエデは月に向かって話しかけている。

学校のこと、塾のこと、友達のこと。

変わらず話している。


「で、お前はどうなの?MOON。地球にだって可愛い子ぐらいいるだろ?」


 ARTEMの言葉が脳裏をよぎる。


あるわけねーだろ、三原則違反だ。


 俺はそう言い聞かせた。


 カエデは地球人、監視対象だ。

たまたま興味深いだけ。

何ならマミにも興味あるぞ!

会ったことないけどな。


 俺はそう言い聞かせた。

……言い聞かせるしかなかった。


「マミって本当に面白くて——」


 まだマミの話をしている。

カエデよりも、マミの方が詳しくなってるかもな、俺。


 カエデの話は面白い。

俺の退屈な人生を少し楽しくしてくれる。


 ただ、それだけだ。

……それで十分だ。

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