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拠点は、一時間で消えた。
森に着いてから夜通しで組み上げた防御結界。アナライズで最適化した食料保存庫。水源への導線。魔力循環を利用した照明。それら全てが、魔物の奔流に呑まれ、踏み潰され、炎に焼かれた。
壊滅の決定打は、四人の能力が噛み合わなかったことだ。
セレーナは後から何度もこの夜のデータを分析し直すことになる。そのたびに同じ結論に辿り着く。
もし、ヴェルナーがモルスと連携して戦っていたら。ヴェルナーが大型を倒し、モルスが即座に屍壁に変え、その壁で次の波を止める間にヴェルナーが休息を取る——このローテーションが成立すれば、防衛線は持続できた。
もし、カイの偵察情報がセレーナの解析と結合していたら。カイは暴走の三十分前に魔物の動きの異変を察知していた。セレーナの解析能力と組み合わせれば、スタンピードの到達時刻と進行ルートを予測し、事前に拠点を移動する選択肢があった。
もし、セレーナの解析結果をヴェルナーが戦術に反映できていたら。八体を無差別に倒す代わりに、群れの「起点」となっている個体だけを選別して排除すれば、消耗は半分以下で済んだ。
全て「もし」だ。連携がなかった以上、その「もし」は机上の空論に過ぎない。
四人の能力は、それぞれが強力だった。しかし噛み合わなかった歯車は、どれほど精巧でも機械を動かせない。
セレーナが判断を下したのは、拠点が完全に炎に包まれた時だった。
「撤退。森の最深部へ」
命令ではなかった。最も合理的な選択肢の、提示。
死の森は奥に行くほど木々が密になり、大型魔物は侵入できなくなる。スタンピードの圧力は外縁部が最も強く、深部ほど弱まる。逃げるなら奥しかない。
これは四人全員が独立に辿り着ける結論だった。そしておそらく、実際にそうだった。セレーナが口にした時、ヴェルナーはすでに森の奥に向かって走り始めていたし、カイの気配は最深部の方向に消えていた。モルスだけは急ぐ様子もなく、屍壁の残骸を淡々と土壌に還元しながら歩いていた。
初めて四人が「同じ方向に」動いた。それは連携ではなかった。ただ、合理的な結論が一致しただけだ。
しかし——それでも。同じ方向に走っているという事実だけが、この夜、四人の間に生まれた唯一の共通点だった。




