交渉
革命軍はその後も勢力を増してトゥラグスへ到着した。
ヒラルトスから出発して3週間後のことだった。
帝国に対抗する力はもはや残っておらず、ギアソ山脈以北の中心地は僕ら革命軍が抑えることになった。
「大成功ですね!」
「このままエデアランドとの交渉もやってしまいましょう!」
教会関係者、ヒラルトスの関係者は口々に喜びを表す。
ー呑気なもんだ全く。
エデアランドとの交渉。
西部戦線への遠征。
その間のこの土地の管理は教会が行う。
この革命、提案したのはヒラルトスと教会。
しかしそれがうまくいった理由を、彼らは忘れている。
自分たちの立てた計画があまりにうまくいけば、その要因を自分たちと錯覚する。
もしくは権力に溺れたことを理解しないまま過ごしていれば、他者に権力が行ったことを理解できない。
権力の在処など考える必要もなくそれは自分たちだ、とでも思っていそうだ。
エデアランドとの交渉は、そう言った意味でも僕らの今後に大きな影響を与える。
ー勝負、だな。
喜びに溢れるこの場所で、僕は1人、静かに腹を括った。
♦︎
エデアランドとの交渉。
それは西部戦線のちょうど境目で行われることになった。
トゥラグスからは馬車で3日ほど行った先にある。
この行軍中も帝国北西部の懐柔に使う予定であったのだが...
「逃げた?」
北西領領主はエデアランドとの戦争の敗戦を悟るとすぐに逃亡し行方をくらませたらしい。
おかげで領内は大混乱。
僕らの進軍の噂を聞きつけ逃亡した領主の従兄弟がさっさと服従を申し出た。
何人か鬼の形相でこちらを見てきたが、まぁ気にしない。
この革命に、僕が求める意味は平和でも権力でもない。
革命のための革命。
馬車に揺られ戦線へ向かう。
向かいに座る2人に、僕の意図を伝えるべきだろうか。
最初から最後まで伝えて、2人は納得してついてきてくれるだろうか。
リェレンに伝えているのは、最後以外は出る幕は無いということ。
進軍はカルラと僕がメインで行う。
神と話した。
この事実は最後の切り札だ。
リェレンと僕だけが知る神様の意思。
この世界の秘密。
それを民衆に伝えるのは、この革命の後。
僕ら3人だけの、革命だ。
♦︎
何事もなく旅路は続き、エデアランドとの交渉の場に到着した。
「基本的に交渉は我々で行います。ユーザさんたちはそこに立っていてもらえれば。」
教会関係者はそう言った。
僕らが到着して、しばらくはヒラルトスと教会の人たちがボソボソ話していた。
そして、ドアがノックされた。
「失礼します。」
そう言って、エデアランド王国の使節は厳かな態度で交渉のために用意された部屋へ入ってきた。
大男だ。
2メートル以上あるんじゃないか...?
その男の陰に隠れるように、何人かの正装の男性が続く。
彼らも目立たないがかなり大きい。
みんなして180以上ありそうだ。
威圧感に思わず息を飲み込む。
「此度の侵攻は、一体何が目的ですか。」
椅子に腰掛けたエデアランドの大男は鋭い眼光で教会関係者を睨んだ。
「侵攻とは人聞きが悪い。単に帝国の不始末のかわりでございますよ。」
教会側も毅然とした態度で答えた。
おそらく、教会の狙いは革命後の防衛。
このままいけばギアソ山脈の資源をヒラルトスに取られてしまう。
その前にうまいこと防衛をお願いしてヒラルトスの侵攻を食い止めつつ資源を確保したい。
ヒラルトスとしてもそれくらいは読めている。
その上でエデアランドとの対立は望まない。
おそらく事態が動くのは今夜か明日の明け方。
密談でも賄賂でもなんでもするだろう。
少なくともこの会談では、きっと何も進まない。
表面上はニコニコしておいて、内心いつでもエデアランドという後ろ盾を狙っている。
そして、それは僕も同じ。
問題は、エデアランドがどれを獲るのか。
だが、明らかに大きな魚がいることを、教会とヒラルトスは見落としている。
この革命の、成功の理由。
国民全てを巻き込み得る、巨大な力。
「してお二方。」
延々とくだらない話を続けるヒラルトスと教会。
その間を破るようにして大男は言った。
「我々は、英雄に興味があるのですがね。」
その男の目は、こちら側を向いていた。
教会とヒラルトスは見落としている。
いや、気づけていなかった。
誰が一番力を持っているのか。
「神の思し召しです。」
僕は続けた。
「魔法を途絶えさせよ。」
と。




