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希望の音

 ヒラルトスと教会による共謀。


その準備は着々と進んだ。


そして、革命開始の、合図が鳴る。


 ◆


「ユージさんさぁ…。」


剣術の指南は、初歩の初歩、剣を受けるところで足踏みしていた。


「あはは…。死んじゃいますね。」


普通に受けてしまえば死ぬことはないのだが、打たれたら痛い。


痛いのは嫌いだ。


あの2人のために負う痛みじゃなければ、ちゃんと痛むのだ。


「笑い事じゃないですよ…。先頭に立つのはあなたですよ?」


「大丈夫!僕は魔法も使えますし。」


「それだけじゃ不安なんですよ。」


「一度も僕の力を見ていないからです。見てからでも同じことが言えるかなぁ?」


この場において、僕がやるべきこと。


徹底して、自分が先頭に行くという内容の発言を避けること。


教会とも、ヒラルトスともそんな約束はしていない。


そこが、望みだ。


僕らの先頭は、もう決まっている。


いつまでもヘラヘラしている僕に、本気で腹を立てたのか、指導役は怒った声で言った。


「いい加減にして下さいよ、全部あなたにかかってるんですよ。」


どれだけ圧をかけられても、それに負けてはいけない。


「いざとなれば、役割チェンジ。よろしくお願いしますね?」


この革命を、僕らで成し遂げる。


それは、この世界の命運を、僕らが分かつのと同義。


けれど、それで構わない。


僕は、この世界なんかどうでもいい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ユージ…。」


あてがわれた部屋は広く、ベッドはふかふかだった。


この革命が終わったら、どうなるかな。


消されてしまうかな。


エデアランドは保護してくれるかな。


私はカルラとユージと、3人でいたい。


いざとなれば、人だって殺せる。


それをユージが喜ばないことは、わかっている。


それでも…


「会いたいよ…。」


彼のいない日々は、寂しく長く、辛いものだった。


はやく世界を壊したい、そう願うほどに。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


2人は今、何をしているだろう。


ユージはたぶん剣術で、レンはまだ礼儀作法なのかな。


私はこの何日間かで、随分と賢くなった。


望まない方向に。


私の仕事は、私にしかできない。


何の役にも立たないのなら、それくらいはこなせ。


そんな指導だった。


ユージがそれを望む日なんて、来るんだろうか。


そんな想像は、できなかった。


ー会いたいなぁ…。


2人が恋しい。


革命中は、一緒にいられる。


それならもう、ずっと世界中で革命が起きていても構わない。


私は2人と、一緒にいたい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 革命の合図は、エテロネア帝国の帝国騎士団のエデアランド戦線からの撤退。


その事実がエテロネア帝国民に知られれば、少しは帝国権力も揺らぐ。


そこに追撃する形で、ヒラルトスから英雄が誕生し、教会騎士団もろとも市民を懐柔しながら革命軍を進めていく。


目的地はエテロネア帝国内ギアソ山脈以北の大都市、トゥラグス。


そこまでの占領が完了すれば、即時西部戦線へ赴き、エデアランドとの和平を結ぶ。


そこから先はヒラルトスとエテロネア教会、エデアランドの仕事になる。


僕らが勝負を仕掛けるのは、そのエデアランドとの和平の場以降。


エデアランドの出方次第で、動き方は2パターン。


いずれにしても、僕らは三つの勢力の要望に応えることはできる。


表立って処刑なんてことはできなくなるわけだ。


あとは、世界が僕らをどう受け止めるかだ。


 ♦


『エテロネア帝国、エデアランド王国に惨敗』


その知らせは、予想よりも早く届いた。


この情報は、今やエテロネア帝国内全土へ波及しているはずだ。


帝国への信頼、帝国の掲げる神威へ信頼は、確かに揺らいでいる。


「では、出発ですね。」


ヒラルトス軍の大将は、僕らを馬車へ乗せた。


久しぶりに見たカルラとリェレンは前より少し、元気がないように見えた。


不安、絶望、いろんな負の感情が彼女たちの中に渦巻いているんだろう。


だが、僕の胸の中にあるものは、確かな希望への高揚だ。


揺れる馬車の中で、向かいに座った二人に言った。


「大丈夫。全部うまくいく。」


その言葉には、自分に言い聞かせる意味も含まれていた。


欲望に、生活に、命に…。


いろんなものが渦巻くこの世界を、今から変える。


いまだかつて、だれも望んだことのない方向へ。


けれど、僕ら三人が、一緒にいるための方向へ。


僕にとって正しい世界は、そんな世界だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「大丈夫。全部うまくいく。」


ユージは言った。


私の胸の中にあった、ユージが変わってしまったという不安。


それはその一言だけで一気に晴れた。


そうだ。


大丈夫だ。


私たちは三人で、世界を変える。


変えた先の世界を私に想像することはできないけれど、ユージが導くその世界なんだ。


きっと大丈夫だ。


私の胸の中にあった、絶望や不安は全部。


いつも彼が晴らしてくれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


私たちは、いずれ消されてしまう。


どれだけ上の要望に従っても、上の意向はかわらない。


ユージがそれを勘定に入れていないわけがない。


それでも、ユージは言った。


「大丈夫。」


と。


たったそれだけで、確信できた。


私たちはきっと、ずっと三人でいられる。


いつかに祈った。


私を選んでくれるように。


そんな夢は、今はもうない。


彼についていこう。


その先が、私たち三人にとっての、革命の終わりなんだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


馬車はガタゴト音を立てて走った。


僕にはそれが、僕たちにはそれが、確かに、希望の足音に聞こえていた。

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