正体
教会騎士の男を連れて、ダンジョンから脱出。
生きた人間を一人でも連れて帰ってきた。
しかもそれは神聖なる教会の騎士。
世間からの評価を考えても、教会の望みはすべて砕いた。
そして、男から頂戴した2,000ペリル、約束された報酬の2,700ペリル、元々持っていた400ペリル。
合わせて5,100ペリル。
受諾証と教会騎士の男を連れてギルドへ行った。
「教会からの依頼をこなしたんですか…?」
受付嬢の表情には困惑の色が濃く出ていた。
やはり教会は無理難題を押し付けるのが好きなのか。
「すごい!報酬の2,700ペリルです!」
受付嬢の顔には一気に笑みが宿った。
「なんか嬉しそうですね。」
「こういう無理な依頼に成功する人がいると教会だってちょっとは動きにくくなるはずですからね。税金嫌いなんですよ。」
このまま教会倒しましょ!
そう言って受付嬢は僕の手を取ると、小銭を数枚のせた。
「私からのチップです。」
ウィンクをして裏へ入っていく。
手には300ペリル。
ーは…?
馬鹿みたいに心臓が騒いでいた。
…かわいい!なんだ今の?!
全身から力が抜けた。
僕はしばらくその場から動けなかった。
◆
その日のうちに、僕らはネペロから抜け出した。
このまま首都のエテロネオンも通過する。
目指す都市はメディオ。
地図で言えばど真ん中の都市だ。
目指す北端は、まだ先。
それでも、一度の依頼で一気に何千ペリルも稼げるダンジョン調査をすればそう長くはかからないだろう。
しかしまぁ、あのギルドの受付嬢さん。かわいかったなあ。
「ユージ、どうかした?」
ぼーっとしているのがカルラにばれてしまったらしい。
「いや、大丈夫。」
「でもなんか変だよ?」
リェレンにもばれていた。
「いや、ギルドの受付嬢さん、かわいかったなぁ、って。」
沈黙が流れた。
「そ。」
リェレンはそっぽを向いてしまった。
「ユージは、ああいう顔が好みなんだ…。」
カルラはそう言ってうつむいてしまった。
「変な反応やめてよ。」
「いや、いいんじゃない。」
「うん、ユージも男だしね。」
二人の返事には生気がない。
ーなんなんだ。
一抹の不安も乗せて、馬車は駆けていった。
♦
到着した都市メディオ。
そこはーー
「さっぶ。」
想像の5倍は寒い土地だった。
今何月だ?
12月だ。
そりゃ寒いわけだよ。
ところどころ雪も積もっている。
「さむ~。」
馬車から降りた二人も体をさする。
「一旦どっか入ろう。」
適当に見つけた喫茶店の扉を開ける。
こういう寒い土地は酒がメインの飲み物になりそうだと思ったが、メニューに酒らしいものはなく、僕はホットティーを注文した。
「あったまる~。」
提供されたホットティーは思っていた以上においしかった。
それ以前に店にある暖炉だろう。
これがあるおかげで店内がかなり暖かい。
とりあえず、喫茶店を出た後にギルドへ向かうことにした。
「またかわいい受付嬢だといいね。」
そんな風にカルラは僕をからかった。
そこまで受付嬢のことを気にしているわけではないのだが…。
やっぱりちょっと変なことを言ってしまったんだろうか。
この雰囲気はなんだか嫌いだ。
♦
メディオのギルドに、ダンジョンに関する依頼はなかった。
教会関連の依頼も少ない。
総本山以北は意外と教会の影響が小さいのかも知れない。
それは好都合。
しかしーー
「どれもパッとしないねぇ。」
カルラが呟く。
全くそのとおりだ。
『木こり 150ペリル』
『子守り 180ペリル』
『掃除 100ペリル』
…安いのばっかだ。
「とりあえずなんか好きなの受けよう。」
リェレンの提案に反対する理由はなく、僕らは3人仲良く木こりの依頼を受諾した。
ついでに教えてもらった安宿へ向かう。
「3部屋?1泊795ペリルだよ。」
受付のダウナー系お姉さんは答える。
財布の中身はーー
「700…。」
馬車代だけなら4,500ペリルだから900ペリルなら余るはず…。
ー!!
あの喫茶店だ…。
3人で200ペリル…。
ー終わった。
立ち尽くす僕に、リェレンが言う。
「私とカルラ、同じ部屋でいいから。シングルベッド分けるから…。」
リェレンが気を利かせてくれたおかげで、2部屋530ペリルになったのでなんとか今日の宿を確保することができた。
安宿らしく、激狭の部屋。
薄いベッドに横になる。
この狭い布団を、2人で使う…。
「最低。」
金は任せろとか言っといてこのザマ。
ダサすぎる。
せめて明日の木こりだけでも、2人の負担を減らさなくては。
ガクガク震える寒さの中、激薄の布団にくるまって、明日が来るのを待った。
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「いや、ギルドの受付嬢さん、かわいかったなぁ、って。」
ユージのその言葉を聞いた時、なぜか分からないけれど、とても複雑な気持ちになった。
「そ。」
口の外へ出ていけたのは、その一文字だけ。
あの受付嬢が可愛かった。
事実だ。
あの明るい性格はこっちまで元気になれるから私だって好きだ。
なのに…、なんでこんなに気になるんだ?
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「ユージは、ああいう顔が好みなんだ…。」
知らなかった。
彼の好みの女性のこと。
私とは正反対の明るい性格。
きっと、私よりレンの方が魅力的に見えるんだろうなぁ…。
それは嬉しいことのはずなのに、なぜか素直に嬉しいと思えない。
何なのか分からない。
何がこんなに感情に絡みついているのか。
それでも、私だって彼に見て欲しい。
気づけばそう、思っていた。
◆
馬車に満ちた不穏な空気。
その正体を言葉にして言える人は、まだいない。




