66 掃射した
少し離れた木立の傍にミーマを残し、兵たちはこちらに歩み寄ってくる。さっきのあたしと同様に、岩地の裂け目を子細に観察している。
「確かにここでまちがいないな」
「はい。指令にあったように周囲の状況から、魔獣はここを通る他考えられないようです」
「まだ畑の被害が見られないので明らかに、通過はこれからということですね」
「うむ。それでは我々はすぐ配置につく。一匹たりとも魔獣を逃さないように間を詰めて、ここを囲め」
「は!」
キビキビとした動作で、兵士たちは位置を定めた。
剣を振るうにギリギリの余裕という程度に横を詰め、岩地出口を中心に半円状の並びとなる。
ひいふうみいと数えると、総勢三十四名だ。
「先にも言ったように、第二陣の到着が間に合えばこの後方を囲んで二重三重の構えとする」
「は!」
「おそらく二陣は一~二アーダ(時間)程度の遅れで着くだろう。間に合えば迎撃の構えも厚くなるわけだが、今はまずこの配置で最善を尽くすことを考えよ」
「は!」
エトヴィンの話よりミーマ騎乗の兵の数が少ないと思ったけど、まだ続きがあるらしい。上司らしい兵の口ぶりだと、この後着くのもまだ全軍ではないようだ。
もしかすると今着いたこの三十四名は、特にレベルの高いミーマを速駆けさせていち早く目的地を目指してきたのかもしれない。
その辺の事情はともかく、一~二アーダ(時間)程度遅れておそらくこの先陣より多い人数が到着する、本隊はまだその後ろ、と思っておけばよさそうだ。
そんな考えを巡らせながら、あたしは草叢の中を大きく迂回して十数メートル彼らの後方、改めて岩地出口から正面の位置に移動した。兵士たちの背中しか見えないわけだけど、とりあえずこの後の状況を観察する特等席と言えるだろう。
それぞれがっしりした体格の兵士たちが、いつでも抜刀できるようにと剣の柄に手を置いて一点を凝視している。半円周の中心点、魔獣が走り出てくるはずの出口を。
そのまま動きを止めて、数十ミーダ(分)が経過した。
最も岩地近くに立つ一人が、声を上げる。
「来たぞ!」
「来たか!」
足音が耳に届いた、ようだ。
兵士たちの囲みに遮られて聞こえにくくなっているけれど、あたしも耳を澄ましてみる。
少し待つと、確かに遠く軽めの地響きみたいな音声が聞こえてきた。タタタタというか、ダダダダというか、そんな地を伝う響きだ。
もう少しして、キイキイキイというような多数の高音の重なりも届いてくる。
三十名超の逞しい男たちの背に、緊張が走る。
「剣を構え!」
「おう!」
兵たちは、一斉に抜刀する。
両手で剣を握り、やや腰を落とし、すぐにも目の前の地面を斬りつけるような構えだ。
「来た!」
岩の間に、目標物が見えたらしい。
キキキキキ、と金切り声の重複がさらに高まる。
一方、兵たちは声を殺して息を止めた、か。
「いやあ!」
「やあ!」
「やあ!」
最先の兵が、剣を振りかぶった。
並ぶ者たちも、それに続く。
次々と、剣が振り下ろされる。
剣戟の様子は、男たちの背に遮られて、見えない。
それでも次々と斬りかかり、敵を仕留めているらしい様子だ。
前方から順に剣の振り下ろしが続き、最も後方、あたしのすぐ前の数名も振りかぶって前進する。
次の瞬間。
「わあ!」
「わあ!」
その数名の、腰が砕けた。
踏鞴を踏む、兵の間から薄茶色の獣が飛び出す。次々と、何匹も。
おそらく、横手からの斬りかかりはそれなりに効果を上げたけど、魔獣が全速突進する正面ではその勢いを殺せなかったということだろう。
次々と、十匹を数えそうな魔獣がこちら向きに駆け出してくる。
迷う暇もなく、あたしはレーザー砲を繰り出した。
水鉄砲!
横並びに走り出す標的へ、向かって左から右へと、掃射。
キイイイイイ!
キイイイイイ!
キイイイイイ!
狙い通りすべて大きな目を射貫き、獣たちは甲高い悲鳴を上げて次々と崩れ落ちる。
しかし、兵士たちの囲みを抜ける突進はさらに続く。
息もつかず、連続掃射。
左から右、右から左、何度も何度も往復。
気分は以前戦争映画で観た、あの機銃掃射の映像だ。
掃射。
掃射。
前では、兵士たちの斬り下ろしが続く、
正面で囲みを破られた数名もすぐ体勢を立て直し、目の前の突進に向かったようだ。
しかし一度破られた箇所に敵の勢いは止まらず、さらに次々と抜け駆けは続いてくる。
兵たちが斬り伏せるのと抜けてくるの、どちらの数が多いのか分からないけど。
とにかくあたしは、その抜け出してきた魔獣を殲滅すべく掃射を続ける。
左から右、右から左、何度も何度も。
それが、延々と続くんだ。
あたしの前には、キイキイと鳴き悶える毛皮の山。
次々と倒れ臥し、しかし息絶えるまではいかず目の痛みにのたうち回っている。
それでもさらに次々と、その山を乗り越えて魔獣の駆け出しは続く。
一匹ごとは、中型から大型の犬相当か。
それがのたうち、累々と積み上がっていくんだ。
一回の掃射で、十匹足らずといった戦果だけれど。それをくり返し、くり返し。もう何十回か数える暇もない。
延々と、掃射、掃射。
左から右、右から左。
前方で、兵たちの斬り下ろしも続く。
もうほとんど自棄みたいに、ただただ剣を上下往復させているかのようだ。
それでもまだ魔獣の溢れ出しは止まないようで、その腕の動きは止まる気配もない。
振り下ろす、振り下ろす。
相変わらずその隙を抜けて、こちらに飛び出す群れも止まらない。
掃射、掃射。
左から右、右から左。
それが、何十分続いたか。
最先の兵らしい、声が上がった。
「やった!」
「もう終わりだ!」
群れの最後尾が、抜け終わったらしい。
安堵の息を吐く気配。
そこへ、上司らしい声がかかった。
「まだだ、ここを抜けていった奴らを追え!」
「は!」
慌てて、三十四名が振り返る。
それらの顔が、一瞬で硬直した。
この数十分、眼前の魔獣征伐に夢中でこちらを見る暇もなかったんだろう。
「何?」
「何だこりゃあ?」
すぐ背後にのたうつ魔獣の山ができていることに、初めて気がついたようだ。
「何だ――何で、こんな――」
「何でもいい! こいつらまだ息があるぞ、止めを刺せ!」
「は!」
上司の指示に、総勢が駆け寄ってくる。
その前に、あたしは気がつかれないように横手に移動していた。




