第4話 世界樹の種
「イルミアさんの……子ども……!?」
その言葉に僕は驚く。
でも考えてみれば確かにそうだ。
世界樹は特別な樹木だけど、植物の一種であることに変わりはない。新しい命を作るには受粉をして、新しい種を作る必要があるんだ。
「僕は植物に詳しいわけじゃないですけど、植物が繁殖するためには、他の同じ種類の植物が必要ですよね?」
『はい。世界樹は他の世界樹と交わることで、新たな種を生み出します。私一人でも新たな世界樹の種を生み出すこともできますが……それだと大きな力を持った世界樹を生むことはできないでしょう』
「そうですか……」
新しい世界樹には、瘴気を浄化してもらいたいと思っている。
できるだけ大きな力を持った世界樹でないとその役目を果たすのは不可能だ。
「でも他に世界樹なんてないですよね? アナスタシアさんはなにか知ってますか?」
「申し訳ありません、あなた様。残念ながら私もこの地に他の世界樹様があるという話は聞いたことがありません。我らの先祖がいたというエルフの国であれば、他の世界樹様がおられるかもしれませんが……そこはかなりの遠方ですし、正確な場所は分かりません。かなりの長旅になるでしょうし、見つかる保証もございません」
アナスタシアさんは申し訳なさそうに言う。
うーん、どうしよう。アナスタシアさんが知らないってことは、死の大地に世界樹がある可能性はほぼないよね。
エルフの国を探す余裕もないし、完全に手詰まりだ。
『あの……よろしいですか?』
「へ? どうしたんですかイルミアさん。あ、もしかして他の世界樹に心当たりがあるのですか?」
『いえ、そういうわけではないのですが……』
イルミアさんは言いづらそうに口ごもる。
いったいどうしたんだろう? あ、もしかして。
「もしかして新しい世界樹を作るのが嫌でしたか? でしたらすみません、無理なお願いをしてしまって」
『いえ、そういうわけではありません。私も自らの子を持ちたいという欲求はあります』
ほっ、よかった。
子どもを望んでないのにそんなことを頼むわけにはいかないからね。
『私が申したかったのは、繁殖する相手についてです』
「え? もしかして相手の候補がいるんですか?」
尋ねるとイルミアさんは小さくこくりと頷く。
世界樹の相手となれる人……いったい誰なんだろう? いや、人じゃないのかな? 世界樹じゃない特別な木が相手なのかも。
そんなことを考えていると、
『世界樹の番となれるのは同種だけではありません。神力を有する異性でもなることができるのです』
「え、それって……」
『はい。テオドルフ、神力を有するあなたと交われば、新たな世界樹を生むことが可能なのです』
「え、ええええっ!?」
想像もしてなかった事実に、僕は驚く。
僕がイルミアさんと!? だってイルミアさんは世界樹で神聖な存在で、どちらかと言えば神様とかに近いような人なのに。
それに交わって新しい世界樹を作るって……そしたらその世界樹は僕の子どもみたいじゃないか!
『ご安心ください。世界樹は長い年月をかけて魂を宿します。それまでは普通の樹木であり、意志のようなものはありません』
僕の考えを見透かしているように、イルミアさんが言う。
それならすぐに父親になることはなさそうだけど、でもそんなことしていいのかな?
「でもイルミアさんは僕となんて嫌なんじゃないですか? 無理しなくても大丈夫ですよ?」
『……正直なところ、私はアンナローゼとエレオノーラを羨ましく思っていました。あなたのような可愛らしいお方と結ばれることができて。嫌などととんでもない、あなたとの種でしたら、いくらでもお作りしますよ』
「イルミアさん……」
まさかイルミアさんが僕のことをそんな風に思っていたなんて、びっくりだ。
ここまで言ってもらっちゃったんだから、その気持ちにちゃんと応えないと。
「あの……えっと……じゃあ、その、よろしくお願いします」
『ふふ。こちらこそよろしくお願いいたしますね』
嬉しそうににっこり笑うイルミアさん。
まさか村を増やそうとしてこんなことになるなんて、想像もしなかった。
「ご安心くださいあなた様。交わり方は私が手取り足取りお教えしますので、心配いりません」
「え? アナスタシアさん? いったいなにを……わぁ!?」
アナスタシアさんに捕まった僕は、そのまま彼女とイルミアさんに挟まれ、優しく抱きしめられる。イルミアさんは花の蜜のような優しい甘い香りがした。
「イルミア様に見初められるとは、さすが我らの救世主。その上この愛くるしさ……私の方が夢中になってしまいそうですね……」
『アナスタシアまで夢中になってしまうとはさすがですね。では私たちで救世主様をたくさん労って差し上げましょう』
「あの、できれば優しく……」
「無理です」
『無理ですね♪』
こうして僕は、世界樹の天辺で二人にたくさん労われてしまったのだった。




