第14話 ブラックウィドウ討伐戦
『ギギ……チィ!!』
「わわ!?」
素早く振り下ろされるブラックウィドウの脚をなんとか避けて、僕は距離を取る。
するとすぐにブラックウィドウは口から糸の弾を吐き出し、攻撃してくる。自動製作で壁を生み出しなんとかそれを止めることに成功するけど……危なかった。
「一つ一つの攻撃が重くて速い! なんて強いモンスターなんだ……!」
今まで瘴気に侵されたモンスターと何回も戦ってきたけど、ブラックウィドウはその中でもかなり上位の強さを持っていた。
硬い体と高い攻撃能力、動きは機敏で予測もしづらい。おまけに遠距離攻撃も持っていると隙がない。
長い間封印されていたから弱っているはずなのに……なんて恐ろしいモンスターだ。
「自動製作、大砲!」
僕は大きな大砲をクラフトして、それでブラックウィドウを撃つ。
放たれた砲弾はブラックウィドウの顔面に命中してボカン! と爆発して煙が舞う。
「よしっ!」
綺麗に命中して喜ぶ僕だけど、煙が晴れると、そこには無傷で『ギチチ……』と威嚇音を鳴らしているブラックウィドウの姿があった。
う、うそ。砲弾をこの距離で食らって無傷なの!? ブラックウィドウは硬いって聞いてたけど、ここまでなんて……!
『ギギ……ッ!!』
僕が攻めあぐねていると、ブラックウィドウはお尻の穴から黒い塊をぽこぽこと地面に生み出す。
楕円形のそれはパキッ、とひび割れると、中から粘液に包まれた小さなクモが出現する。
「うわ、あれタマゴだったんだ……」
気持ち悪い孵化シーンを見た僕は顔をしかめる。
そうしている間にも子クモは十匹ほど生まれ、キチキチと僕たちに威嚇音を発する。
どうやら生まれて間もないのに、僕たちを敵と認識しているみたいだ。あのクモたちは子どもというより、ブラックウィドウの分身みたいなものなのかな?
だとしたらかなり厄介だ。
「この……どけっす!」
エルフの戦士、ウェンディさんが子クモの一体を斬って倒す。
どうやら子クモはそれほど硬くはないみたいだ。僕たちが地上で戦ったのと同じくらいの強さだろう。
子クモを倒すだけなら難しくなさそうだけど……今はその親のブラックウィドウがいるせいで、子クモだけに意識を割くことはできない。
どうすればこの状況を打破できるだろう。そう悩んでいると、子クモたちが一斉に糸を僕の方に吐いてくる。
「しま……っ」
僕は咄嗟に壁をクラフトしようとするが、間に合わない。
糸は様々な角度から吐かれているのでその全てから身を守るのはできなかったんだ。
糸を食らうことを覚悟していると、突然背後から声が聞こえる。
「風よ舞え!」
そう聞こえた次の瞬間、突然突風が巻き起こり、飛んできた糸を切り刻んでしまう。
刻まれた糸はそのまま散らばってなくなる。おかげで僕は糸を食らわずに済んだ。
今のは森司祭の魔法だと思うけど、声はアンナさんじゃなかった。いったい誰が助けてくれたんだろうと振り返ると、
「お待たせしました、テオドルフ様。事情は娘たちからお聞きしました。ここからは私も加勢させていただきます」
「アナスタシアさん……!?」
そこにいたのはさっき助けたばかりのアナスタシアさんだった。
隣にはアンナさんとエレナさんもいるけど、肩は借りず自分の足で立っている。
「えっと、加勢してくれるのは助かるんですけど……動いて大丈夫なんですか?」
「八十年封印されていた程度で根を上げるほど、やわな女ではありません。エルフの里一の森司祭と呼ばれた実力、披露させていただきます」
アナスタシアさんの体から、強力な魔力が立ち上る。
凄い圧だ。さすが二人のお母さんだね、頼りになりすぎる。
「ブラックウィドウは恐ろしい硬さのモンスターですが、長年の封印の影響で、多少は脆くなっているはずです。みなの力を合わせ、一気に叩くのです」
アナスタシアさんがそう言うと、みんなが頷きそれに応える。
アンナさんとエレナさんだけじゃなく、ウェンディさんたちの表情もさっきより明るくなっている。それだけアナスタシアさんはエルフのみんなにとって頼りになる存在なんだ。
『ギギ……ギィ!!』
一方アナスタシアさんを見たブラックウィドウは、表情に怒りを滲ませると、生み出した子クモたちと共に襲いかかってくる。
アナスタシアさんは自分を封印した存在。一番憎んでいる対象なんだろう。
「火よ起これ!」
アナスタシアさんがそう言うと、強烈な火炎が巻き上がり、ブラックウィドウたちを包み込む。
ブラックウィドウ本体はその炎に耐えるけど、子グモはそうはいかない『ギチ……!』と呻きながら燃え尽きてしまう。
「子クモが消えた今が好機です! 本体を叩くのです!」
「はい!」
まずはエレナさんが突っ込む。そしてそれに続いてウェンディさんたちもブラックウィドウに詰め寄り激しく剣を体に撃ち込んでいく。
『ギギ……ッ!』
苛立たしげに声を荒げるブラックウィドウ。
一見するとこっちが押しているようにも見えるけど、みんなの攻撃はブラックウィドウの硬い体の表面に傷をつけることしかできていなかった。
これじゃあ何百回攻撃しても、致命傷にはならない。
どうしようと思っていると、
『ギギィ!』
ブラックウィドウが脚を振り上げ、エレナさんめがけてそれを突き出す。
あの角度はまずい。僕が自動製作を発動してエレナさんを守ろうとすると、
「水よ湧け、氷よ止まれ――――二重魔法、大氷結!」
突如地面から水が沸いてブラックウィドウの体を包むと、それが一瞬にして凍り、ブラックウィドウを氷漬けにしてしまう。
『ギ、ギギ……』
全身が凍ったブラックウィドウは完全に動きを止める。
無事助かったエレナさんは、魔法を使って助けてくれた恩人の方を見る。
「姉上! ありがとうございます助かりました!」
「気にしないでください! それよりも……動きます!」
ブラックウィドウは体を強引に動かし、氷を破壊する。
二重魔法は二つの属性を同時に行使する高等技術だと聞いたことがある。さっきの魔法もかなりの大技のはずなのに、それを無理やり突破しちゃうなんて……!
「ならこれならどうだ……えいっ!」
ブラックウィドウがアナスタシアさんたちに気を取られている隙を突き、僕はブラックウィドウに接近する。
そして次元収納から神の斧を取り出すと、それを振りかぶってブラックウィドウの脚に振り下ろす。
『ギギィ!?』
カキィン! という音と共に、ブラックウィドウの脚の表面が欠ける。
なんとか傷をつけることには成功したけど、斧は弾かれて僕は後ろによろめいていた。
まさか神の斧でも切断することができないなんて! ブラックウィドウの硬さは想像以上だ。
『ギギ……ヂチィ!』
「わわ!?」
神の斧の一撃は痛かったのか、ブラックウィドウは起こった様子で僕を攻撃してくる。
僕はなんとかその攻撃をかいくぐると、アンナさんたちのもとに避難する。
「大丈夫ですか旦那さま!?」
「は、はい。なんとか。くそ……神の斧でも傷をつけることしかできないなんて硬すぎる。いったいどうすれば……」
神の斧をギュッと握りながら悔しがっていると、アナスタシアさんが僕をじっと見ていることに気がつく。
いったいどうしたんだろう?
「その斧、強い神力を感じます。どこで手に入れたのでしょうか?」
「これは女神様から貰った金属で作ったんです。神金属っていうんですけど」
「神金属……聞いたことがあります。神の武具の元となった、伝説の金属。神話でしか語られない幻の素材でしたが、まさか実在するとは」
アナスタシアさんは深刻そうな顔をしながら、神の斧を観察する。
神金属が貴重な物だということは知っていたけど、そんなに凄い物だったんだ。
「女神様からこのような物を賜るとは、テオドルフ様はそれほどまでに素晴らしいお方なのですね。あなたたちの殿方を見る目は確かなようです」
「そうです、旦那さまは凄いんですよ!」
「ま、まあ、見どころのある奴ではあるな」
アナスタシアさんの言葉にアンナさんとエレナさんがそう答える。
こんなに褒めれると恥ずかしい……。
「それほどの神力であれば、ブラックウィドウにも有効なはず。私たちでサポートし、テオドルフ様の活路を開くのです」
「でもさっき神の斧で斬った時は弾かれてしまいましたよ? もう一回やっても上手くいくか……」
「それはブラックウィドウの外皮に弾かれてしまったからです。その斧に込められた神力を内部に打ち込めば、ブラックウィドウを倒すことは可能でしょう。私たちで奴の動きを止め、そして外皮を砕きます。テオドルフ様は砕いた箇所に攻撃を打ち込み、内部から破壊してください」
「分かりました。僕にできるか分かりませんが、やってみます!」
僕がそう答えると、アナスタシアさんは驚いたように少しだけ目を丸くする。
「よろしいのですか? 初めて会った私の作戦に、そんなに簡単に乗ってしまわれて」
「はい。だってアンナさんとエレナさんのお母さんですから。信用しています」
「……ふふ。やはり娘たちはよい殿方と巡り合った。ご安心くださいテオドルフ様。もう、あなた様には一つの傷も付けさせません」
アナスタシアさんの体から、凄まじい魔力が放たれる。
凄い、まだこんな力を持っていたなんて。これなら……勝てる!




