第12話 封印を解こう!
「ブラックウィドウはすでに半覚醒状態にあると思います。封印下にありながら手下のクモを生み出せるようになったことからも、それはほぼ確実でしょう。つまり封印を解けば、すぐに動き出すということです」
封印を解く前に、僕たちは作戦会議をした。
相手は恐ろしいモンスター。無策で戦うなんて無謀なことはしない。
「封印を解いたら、まずはお母さまを安全なところに避難させましょう。そしてみんなでブラックウィドウを叩き、倒すのです。ブラックウィドウは強力で凶悪なモンスターですが、長い封印の中で弱っているはず。今なら私たちだけでも十分に倒せるはずです」
「分かりました。みんなで力を合わせて倒しましょう!」
その後も僕たちは作戦会議をして、ブラックウィドウの対策を立てた。
ブラックウィドウの攻撃手段は大きく分けて二種類あるらしい。
一つは鋭い爪や牙による、物理攻撃。
その攻撃は家屋を一発で倒壊させるほどの威力があるらしい。
そんなもの僕が食らったら、一発であの世行きだろう。当たらないように気をつけなきゃ。
そしてもう一つが、クモらしい『糸』による攻撃。
粘着性の糸は強靭で、剣でも切断が困難だったらしい。そんな糸を食らったら抜け出すのは困難だ。こっちにも気をつけないと。
「ブラックウィドウの肉体は竜の鱗のように硬かったと聞きます。生半可な攻撃は通用しないと考えた方がよいでしょう。関節の隙間に鋭い攻撃を与えるなど、工夫して攻撃しましょう」
「任せてください姉上。ブラックウィドウなど、私の剣で切り刻んでみせます」
「ふふ。頼りにしてますよエレナ」
アンナさんはエレナさんにそう言ったあと、僕の方を見る。
「旦那さま。危険な戦いになりますが……どうか、よろしくお願いいたします。お母さまを長い呪縛から解き放ってください」
「はい。みんなで絶対に助け出しましょう」
僕とアンナさんはお互いを見ながらこくりと頷く。
覚悟はできた。後は戦うだけだ。
アンナさんは封印の方を向くと、アナスタシアさんの方に手を向け、集中する。
するとアンナさんの体から光が漏れ始め、その光は封印の中に吸われていく。多分自分の魔力を封印に流し、繋いでいるんだ。そうすることで封印に自分の魔力で干渉しようとしているんだろう。
僕は魔法は使えないけど、魔力自体は持っているのでなんとなくの魔力の流れくらいなら感じ取ることができる。
「――――繋がった。やります」
アンナさんの魔力が封印と一体化し、中に干渉し始める。
封印全体が強く光を放ち、封印の鎖が少し緩まり始める。瘴気全体を覆っていた半透明の壁も徐々に消え始める。
「時間停止魔法――――解除」
アンナさんがそう呟いた次の瞬間、パリン! という音と共に封印の鎖が砕ける。
それと共に鎖に縛られていたアナスタシアさんが解放され、前に倒れる。
「お母さま!」
「母上!」
アンナさんとエレナさんが、アナスタシアさんを受け止める。
アナスタシアさんは衰弱している様子だが、息はある。
二人の娘に抱かれた彼女は「んん……」と言いながら、ゆっくり目を開けて自分を覗き込む二人を見る。
「ここは……あなた、たちは……?」
「お母さま! 良かった……本当に……生きて……っ!!」
目に大粒の涙を浮かべるアンナさん。
エレナさんも「母上……っ」と涙を浮かべている。
二人とも本当にお母さんが大好きなんだね。生きてまた会うことができて本当に良かった。
アンナさんとエレナさんの様子を見て、アナスタシアさんも状況を飲み込めてきたのか、二人を見る目が変わる。
「あなたたち……まさか、アンナとエレナ……なのですか……?」
「はい、そうですお母さま。あなたの娘のアンナローゼとエレオノーラです」
「なんと……そんなことが……」
アナスタシアさんは二人を愛おしそうに見ると、彼女たちの頬を手で触れる。
「大きく……なりましたね……顔を……もっと見せてください……」
「はい……はい……っ。思う存分、見てください。これからは、ずっと一緒ですから……」
八十年ぶりの再会の喜びを分かち合う三人。
見てるだけで僕まで泣いてしまいそうだ。
このまま三人には親子の時間を大切に送ってほしいけど、そうは言っていられない。
なぜならもう、封印されていたブラックウィドウは活動を再開し始めていたからだ。
「来る……っ!」
封印の鎖が砕けたことにより、瘴気の塊がドクン、と脈動する。
そして次の瞬間、瘴気の塊から八本の細長いトゲのような物がいきなり出現し、それらは地面に突き刺さる。
いや、あれはトゲじゃない。脚だ。
黒い光沢を帯びたその足が地面を噛むと、瘴気の塊の形がどんどん変わっていき、巨大なクモの胴体となる。
『ギギ……チチ……ッ』
全長十メートルは優に超す、巨大なクモ。
その体はまるで金属鎧のごとき光沢を纏っていて、とても硬そうだ。
八本ある脚の先端はトゲのように尖っていて、地面や壁に突き刺して自由自在に動けるようになっている。
その恐ろしい顔には、妖しく光る赤い瞳と、なんでも噛み切りそうな鋭く強靭な顎がついている。
一目見ただけでブラックウィドウが規格外の、恐ろしいモンスターだと分かる。
『ギィ……ヂヂ!!』
ブラックウィドウはぐったりとしているアナスタシアさんを睨みつけると、耳障りな甲高い声と共に長い脚を突き出し、アナスタシアさんを襲う。
アナスタシアさんに対する強い憎しみを感じる。どうやら彼女が自分を封印した存在であることを分かっているみたいだ。
「危ない! 自動製作、鉄壁!」
僕が手をかざすと、鉄の壁がアナスタシアさんの前に出現し、そのすぐ後にガキィン! という音がしてブラックウィドウの脚が鉄壁に突き刺さる。
結構ぶあつく作ったはずなのに、鉄の壁には穴が開いてしまっている。
素材をケチっていたら完全に貫通してアナスタシアさんに当たっていたかもしれない。危ないところだった。
「アンナさんとエレナさんはお母さんを連れて下がってください! ブラックウィドウは僕が抑えます!」
「すみません旦那さま! 少しだけ持ち堪えてください、すぐ戻ります!」
アンナさんとエレナさんはお母さんに肩を貸しながら、一旦ブラックウィドウから離れる。
そして僕はすれ違いざまに、次元収納から回復魔法薬を取り出し、エレナさんに渡しておく。
「これをアナスタシアさんに」
「助かる。すぐに加勢するから耐えてくれ」
僕は「はい」と頷き、ブラックウィドウに向き直る。
ブラックウィドウは鉄の壁を完全に破壊していて、僕のことを赤い瞳で睨みつけてきていた。
おっかないけど、戦うしかない。




