第8話 海を取り戻そう!
『ギオオオオオッ!!』
大きな魚が吠えると、海が揺れて振動がぴりぴりと肌に伝わる。凄い迫力だ。
魚人の王、レオニスさんの話だと、あの魚はガーディアンフィッシュという魚らしい。昔はこの海を守るような存在だったらしいけど、今は瘴気に侵されハデスの手下になってしまったらしい。
あそこまで瘴気に侵されたら、治すことはできない。
悲しいけど倒すしかない。
『ギアッ!』
もう一度ガーディアンフィッシュが吠えると、それに呼応しサハギンたちがこちらに向かってくる。
連携の取れた動きだ。厄介だね。
どうやら手下のサハギンに足止めをさせて、その隙を突いて攻撃する作戦みたいだ。
どうやってその作戦を攻略しようかと考えていると、
「皆の者! 奴らを蹴散らせ!」
レオニスさんがそう叫び、魚人の人たちにサハギンの相手をさせる。
彼らは僕が作った武器を手に、サハギンと互角の戦いを繰り広げる。凄い、今まで捕まってたのにあんなに戦えるなんて。
「ここは通さん!」
「お前らは俺らが倒す!」
凄い気迫で戦う魚人の戦士たち。
長年虐げられていた怒りが、彼らの力を引き出しているのかもしれない。
「テオドルフ殿、今の内に我らでガーディアンフィッシュを討つ!」
「はい、やりましょう!」
僕はレオニスさんに近づくと、彼の背中に生えている立派なヒレを抱えるように掴む。
するとレオニスさんは猛スピードで泳ぎ始め、ガーディアンフィッシュに向かっていく。
(凄い速い……これが魚人の遊泳能力!)
人間ではとても出せない速度に、僕は驚く。
ここに来るまでに数度サハギンと戦ってきたので分かるけど、レオニスさんの身体能力は他の魚人と比べても数段抜けて高い。
遊泳能力も高くて、サハギンではとても相手にならないほどだ。
刻鎖の呪いがなければ、彼も彼の父上も負けはしなかったと思う。
『ギギ……ギアア!!』
高速で向かってくる僕らに吠えたガーディアンフィッシュは、自身の体をプクッと膨らませる。
いったいなにをしているんだろう? そう思った次の瞬間、ガーディアンフィッシュは体から生えた鋭く長いトゲを射出してくる。
「わっ!?」
弾丸のごとき速さで飛んでくる無数のトゲ。あんなの当たったらただじゃ済まない。
しかしレオニスさんはそんなトゲに怯むことなく泳ぎ、それらを紙一重で回避しながらガーディアンフィッシュに向かっていく。
「す、凄い! さすがです!」
「これくらい当然だ! テオドルフ殿は必ず奴のもとまで送り届ける!」
そう頼もしく言ってくれるレオニスさんだけど、その顔は少し青ざめ血色が悪い。
どうしたんだろうと思って彼を観察すると、レオニスさんの右肩が傷を負い、血が流れていることに気づく。
どうやらトゲの一つがかすってしまったようだ。
「レオニスさん、その怪我……」
「バレてしまったか。しかし止めないでくれ。私の覚悟を、少しでも尊重してくれるならば」
こんなに痛々しい傷を負いながら泳ぐなんて、凄い精神力だ。
彼の覚悟を無駄にしないためにも……あいつは絶対倒さなくちゃ。
「……分かりました。あいつは僕が倒します」
「感謝する」
レオニスさんは最後に加速し、ガーディアンフィッシュの背後に回り込む。
彼はしっかり約束を果たしてくれた。次は僕の番だ。
僕はレオニスさんから離れ、一人ガーディアンフィッシュに肉薄する。
「次元収納オープン! 神の斧!」
僕は白金色に輝く斧を取り出し、頭上に構える。僕の接近に気づいたガーディアンフィッシュは呪いを強めようとするけど、それは機能しない。
なぜなら呪いの源に見える額の『目』には、僕が投げた神の鍬が突き刺さっているからだ。
神の鍬はその目に溜まる瘴気を自動で浄化してくれている。それが刺さっている限り呪いを強めることはできないはずだ。
「くらえ!」
僕は両腕に力を込め、思い切り神の斧でガーディアンフィッシュを切り裂く。
神の斧の攻撃を食らったガーディアンフィッシュの鱗はズパッ! と綺麗に切断され、その奥の肉体も深く傷つける。
『ギアアアアアッッ!!』
苦しそうに呻くガーディアンフィッシュ。神の斧の攻撃は体の芯まで響く。
体内の瘴気も浄化され、かなりダメージを与えているだろうね。
もう一発当てれば倒せるはず。
僕は斧を振り被ろうとするけど、それより早くガーディアンフィッシュは僕に背を向けて泳ぎだす。
「あ! 逃げるつもりか!」
ここで逃げられたら海は汚染されたままだ。逃すわけにはいかない。
だけど僕の泳ぐ速度じゃ、ガーディアンフィッシュには追いつけない。どうしたらいいか考え、僕はあることを思いつく。
「出てこい! 超絶いい釣り竿!」
僕はナディアさんを釣り上げた時に使った最高級の釣り竿を出し、ガーディアンフィッシュに投げつける。
その針はガーディアンフィッシュの口を捉え、ガチっとハマる。自動追尾機能を付けていて本当に良かった。
普通の糸ならすぐに切られてしまうけど、金毛羊の毛で作られた糸を切ることはできない。でも、
「ぐぎぎ……重い……!」
ガーディアンフィッシュの力は強く、僕の体は引っ張られてしまう。
引きずられるまま広い空間の外に出て、いくつも柱が立っている細長い部屋に僕は連れて行かれる。このまま引きずられ続けていたら、どこかで壁に激突しちゃう。
どうしようと思っていると、誰かが僕の握っている釣り竿を一緒に握ってくれる。
「私も手伝う。共にやるぞ」
「エレナさん!」




