第3話 海底遺跡
「近くで見るとおっきいね……」
ついに海底遺跡にたどり着いた僕は、そう言葉を漏らす。
遠くからだからよく分からなかったけど、海底遺跡はかなり大きい。外周の塀まで含めると、小さな都市くらいの規模がある。
遺跡と呼んでいるけど、最近作られたように新しい。住んだら普通に都市として機能しそうだ。
こんなものが海底にあったなんてびっくりだ。
「私たちの目的は中心の建物だけだ。あそこから瘴気が噴き出しているからな」
ナディアさんが指差す先には、ピラミッドのような巨大な建造物がある。
この建物のてっぺんにある穴から、瘴気が大量に噴出して海を汚染している。つまり僕たちの目的の瘴気の源はこの建物の中にあるということになる。
おそらく僕たちに呪いをかけた「なにか」もその近くにいるんだろうね。
ちなみに呪いの痛みは遺跡に近づくとだいぶ弱くなった。遠くに行ったら呪いは強くなるけど、近づくと逆に弱くなるみたいだ。
ひとまず体力の心配はなくなったけど、いつまでも海底にいられるわけじゃない。早く呪いを解かないと。
「遺跡の中はどうなっているか分からない。用心しろ」
「はい」
僕たちは慎重に遺跡の中に入る。
石を積み上げて作られたその建物の中に、人気はない。
「静かですね……」
「油断するな。瘴気の気配は強くなっている」
僕たちは遺跡を奥に奥に進んでいく。
石造りの通路は変わり映えしなくてまるで同じところをぐるぐる回っているように感じる。通路の分岐も多くてどこを進んでいるのかだんだん分からなくなってくる。
このままで本当に瘴気の源にたどり着けるのかな。そう思っていると、
「――――なにか来るぞ!」
エレナさんがそう叫ぶと、通路の正面からなにかが向かってきているのが目に入る。
「なにあれ!?」
「魚、しかも大量の魚だ!」
エレナさんの言う通りそれは大量の魚だった。
一匹一匹は小さいけど、その魚は恐ろしく鋭い牙を持っていて、顔も獰猛だった。
そんな魚が百匹以上の群れをなして僕たちに襲いかかってきた。
「ひい! なにあれ!?」
「あれはデスピラニア。名前の通り凶暴な魚だ。お前くらいなら数秒で食い尽くされるだろうな」
「こわっ!」
デスピラニアは鋭い牙をガチガチ鳴らしながら向かってくる。
確かに僕くらいなら一瞬で食い散らかされちゃうだ。
そんなの嫌だ。僕は次元収納の中から武器を取り出そうとするけど、
「下がれテオドルフ。私がやる」
そう言って前に出たのはエレナさんだった。
彼女は腰から剣を抜き放つと、向かってくるデスピラニアたちにその刃を向ける。
『ギシャシャシャシャ!!』
「耳障りな。私の剣技を見せてやる!」
エレナさんの高速の剣技が、大量のデスピラニアに降り注ぐ。
その一刀一刀は的確にデスピラニアを切り裂き、倒していく。デスピラニアたちは仲間の死体を乗り超え、エレナさんに噛みつこうとするけど、それもすぐさま一刀両断にされる。
「……ほう。陸の者にしてはよく動ける。優れた剣士だ」
エレナさんの剣技を見て、ナディアさんも感心する。
エルフの里にいる頃からエレナさんは強い剣士だったけど、僕の村にやって来てからその強さは数段階上がったと思う。
エレナさんは空いた時間のほぼ全てを鍛錬に費やしているし、里にいた頃とは違って栄養ある物をたくさん食べて休息も十分に取れている。肉体的な強さもだいぶ底上げされているはずだ。
「ふん、他愛もない」
全てのデスピラニアを斬り倒したエレナさんはチン、と剣を鞘に納める。
あれだけ動いたのに息一つ切れてない。
「凄いよエレナさん! 水の中は動きづらいのにあんな風に動けるなんて」
「そ、そうか? まあ私なら余裕だけどな。ふふん」
エレナさんは嬉しそうに胸を張る。
戦っているところを見たのは久しぶりだけど、こんなに強くなってたなんて。これは心強いね。
「よし、じゃあ先に進む……ん?」
遺跡を進もうとしたナディアさんが、止まる。
どうしたんだろうと思っていると、突然遺跡がグラグラと揺れ始める。
「え、なに!? 地震!?」
「いや、違う……なにか来るぞ!」
ナディアさんがそう言った瞬間、遺跡の床や壁の隙間から無数の細長いなにかが飛び出してくる。
「なにこれ! 触手!?」
隙間から出て来たのは大量の触手のようなものだった。
触手は狙いを定めるように一回うねると、勢いよく襲いかかってくる。
「うねうねと気持ちが悪い……」
「くっ、この……離せ!」
触手はまずナディアさんとエレナさんに絡みつく。
不機嫌そうに顔を歪めるナディアさんと、恥ずかしそうに手足を動かすエレナさん。なんだかいけないものを見ているみたいで恥ずかしくなってしまう。
「いけない、助けないと!」
僕は二人を助けに行こうとするけど、ナディアさんは触手を無理やり引きちぎり、エレナさんも剣を振るって触手を斬り裂く。
どうやら僕の力はいらなかったみたいだ。
「ほっ。よか……っ、わ!?」
急にぐいっ! と体を引っ張られ、僕は大きな声を出す。
見るとなんと触手の一本が僕の足首に絡みついていた。
「あっ」
まずい。そう思った時には僕は更に強く引っ張られ、壁の隙間に引きずり込まれてしまうのだった。




