第7話 水中適応ポーション
「呼吸かあ……どうしよう。酸素ボンベとか作れば大丈夫かな?」
水中に行くといえば「ダイビング」だ。
酸素ボンベを背負って水中に行けば、数十分は活動できるはずだ。
でもそんな物背負ってたらスムーズには動けないよね。戦闘が起こることもありえるから、それじゃ危険か。
もしボンベが破損でもしたら、息ができなくなって死んでしまう。
溺死は苦しそうで絶対に嫌だ。
「人間では海底に行くのは不可能だ。それこそ特殊な魔法薬でもない限りな。気持ちは嬉しいが大人しく帰……」
「それだ!」
「なっ!?」
突然大きな声を出したことで、ナディアさんはビクッと驚く。
「なんだいきなり大きな声を出して」
「すみません! でもナディアさんがいいことを言ったのでつい」
「私が? なんのことだ?」
首を傾げるナディアさん。
僕は次元収納の中からある物を指定し、彼女に見えるように出現させる。
「じゃん! これがあれば水中も行けるようになりますよね?」
「これは……もしかして魔法薬調合台か?」
ナディアさんは僕の出したそれを見て驚く。
ガボさんから貰ったこの魔法薬調合台は、自動製作の力で修理されている。
「はい! 修理したので使えるはずです!」
自動製作の力でも魔法薬を作ることはできるけど、これを使えば更に高品質の魔法薬を作ることができる。
きっと水中で呼吸できる物も作れるはずだ。
僕は次元収納の中から魔法薬のレシピ本を出して、目的の物を調べる。
この本もタマモさんから貰ったもので、商会の倉庫に眠っていたものを送ってくれたんだ。この前のお礼らしい。
まさかこんなに早く役に立つなんて思わなかった。
「ええっと水中用の魔法薬は……これだ! 水中適応魔法薬、材料は……あ、これが使えるんだ」
水中適応魔法薬を飲めば海底の遺跡までいけるはず。それのレシピを見つけた僕は、早速それを作ってみることにする。
「レイラ、さっき釣った風船みたいな魚を貰える?」
「はい。それは構いませんが……」
レイラはバケツの中に溜まっている魚の中から、イキのいい魚を一匹僕に渡してくれる。
僕はそれを丸ごと魔法薬調合台のガラス容器に入れる。
そして中央のガラス容器に水を入れ、太い筒部分に魔石を投入する。
「これで良し。じゃあ後は火をつけて……と。これで魔法薬ができるはずだ!」
水中適応魔法薬の材料は綺麗な水+魔石+魚だ。
魚はなんでもいいわけじゃなくて、イキが良くてそこそこ大きく、酸素を多く貯め込める魚がいいらしい。
風船魚はその条件に一致している。これなら良質な魔法薬が作れるはずだ!
魔法薬調合台を起動し、僕は魔法薬が精製される様子を眺める。
「おお……水の色が変わってきた」
魔石の魔力を使い、風船魚のエネルギーが吸われて水に溶け込んでいく。そして数分が経過すると、風船魚はカラカラの状態になり、そのエネルギーが全て水の中に溶ける。
魔法薬となった水はキラキラと輝いていて、不思議な力を感じる。
作成手順は合っているはず。飲んでも大丈夫だと思うけど、一応鑑定しておこうかな。
・水中適応魔法薬 ランク:S
高品質な魔法薬。
水の中でも息ができるようになり、水圧の影響も受けなくなる。
効果時間は一時間。
吐き出すと効果が切れるが、追加で飲めば効果は延長される。
「おお……ちゃんと魔法薬になってる。飲んでみよう」
僕は精製された魔法薬をコップに移し、ゴクっと飲む。
お、意外と美味しい。爽やかでちょっとシュワっとしている。魔法薬の効果で味は変わるのかな?
「だ、大丈夫ですか旦那様? 体になにか変化とかは……」
「うーん、特になにか変わった様子はないですね」
心配そうに尋ねてくるアンナさんにそう返す。
体に不思議な魔力が宿ったのは感じるけど、他になにか変わったようには見えない。
本当に効果があるのか。僕はそれを試すために海に近づく。
「えっと、ここなら瘴気も薄めだし入れそうだね。えい」
僕は海の中にズボッと頭を突っ込む。
うひゃ、冷たい。僕はブルっと震えるけど、すぐに体が水温に慣れて冷たく感じなくなる。これも水中適応魔法薬の効果なのかな?
「うわあ、水の中だけどよく見える。息も……うん、吸える! 声も聞こえるし、水中でも会話できそうだね」
僕はぷはっ、と海の中から顔を出す。
魔法薬の効果は検証できた。これなら水の中でも自由に行動できそうだ。
「ナディアさん! これでついて行ってもいいですよね?」
「それなら構わないが……遺跡ではなにが起きるか分からない。いくら超強い私でもお前たちを守りきれるかは分からないぞ?」
「大丈夫です。僕たちも戦えますから。ね、みんな」
僕はレイラたちに目を向ける。
しかしレイラとアンナさんはばつが悪そうに視線を逸らしている。あれ? どうしたんだろう。
「申し訳ないのですが、私、泳げないんです。旦那様について行きたいのは山々なんですが……」
「私も泳ぎだけは苦手で……」
アンナさんはまあ分かるとして、レイラまで泳ぎが苦手とは思わなかった。
魔法薬はあくまで水中でも大丈夫になるだけで、泳ぎの技術が上がるわけじゃない。カナヅチの人がついてくるのは危険だ。
「し、しかし! 今なら泳げるかもしれません! 見ててくださいテオ様!」
レイラは勢いよく海に飛び込むが、まるで水に突き刺さったみたいにピンと綺麗な姿勢で浮かぶ。海上に出ている足を動かすが、水に潜れる気配はまったくない。
カナヅチというレベルじゃないよこれは。いったいどうすればこうなるんだろう……。
「はあ、はあ、くっ……私の愛が足りないと言うんですか」
「いや普通にカナヅチなだけだから」
息も絶え絶えで上がってきたレイラは悔しそうにする。
さすがにこの泳げなさだと連れて行けないよね……。
「あ、ちなみにエレナさんは泳げるんですか?」
「当然だ。自慢じゃないが仲間のエルフの中では一番速いんだぞ」
自慢じゃないと言っていながら、とても得意げにエレナさんは言う。可愛い。
「エレナさんが来れるのは助かりますが、さすがにこの人数で遺跡まで行くのは危険ですかね……? 村に戻れば応援を呼べますし、遺跡に行くのを数日待ってもらうことはできますか?」
「それは無理だ。遺跡の中の嫌な気配は、日に日に強くなっている。時間をかければ手遅れになるかもしれない。行くなら今日だ、待つことはできない」
ナディアさんはそうキッパリと言い放つ。
彼女の決意は固そうで、言葉をいくら並べても変わりそうにはない。
こうなったら僕も覚悟を決めた方が良さそうだ。
「分かりました。今からついて行きます。その代わり危険だと分かったら、ナディアさんも一緒に引き返してください。作戦を立て直して、再度挑戦しましょう」
「別に危険だったら私だけで行く。お前たちだけ帰ればいい」
「いえ、ダメです。ナディアさんも戻るんです」
「いやだからその必要は……」
「ダメです」
僕はナディアさんの手を握り、彼女をジッと見ながら訴える。
するとナディアさんはバツが悪そうに頭をかくと、「……分かったよ」と僕の頼みを飲んでくれる。
「……お前は強引な奴だなテオドルフ。まさか私が人間に意見を飲まされるとは」
呆れたように、そしてどこか嬉しそうにナディアさんは言う。
少し強引だったけど、逃げることを受け入れてもらえて良かった。
ナディアさんはルーナさんの元仲間だ。仲間の仲間は僕にとって仲間のようなもの。そんな人を危険な場所に一人で置いておくことなんてできない。
海もナディアさんも、どっちも無事じゃなきゃダメだ。
ナディアさんの説得に成功した僕は、黙って話を聞いていたエレナさんの方を向く。
「えっと、勝手に話を進めちゃいましたが、エレナさんは大丈夫ですか?」
「問題ない。むしろ危険だったら自分だけ帰ると言い出したら引っ叩いていたところだ。安心しろ、海でなにが起きようと私が助けてやる。その、一応私はお前の、妻……だしな……」
「えっ?」
「うるさい聞くな!」
聞き返したら怒られてしまった。
まさかエレナさんがそんなことを言ってくれるなんてびっくりした。僕が思っているよりも、エレナさんは僕のことを気に入ってくれているのかもしれない。
「では準備ができたら行くとしよう。場所は海底遺跡。目的は瘴気の源の発見及び破壊。危険だと判断したら撤退。これでいいな?」
「はい! 絶対成功させましょう!」
こうして新たにナディアさんという心強い仲間を加え、僕たちの海底遺跡探索は幕を開けたのだった。
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